goo blog サービス終了のお知らせ 

長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『万引き家族』

2018-07-02 | 映画レビュー(ま)

カンヌ映画祭パルムドール受賞後、公開前にも関わらずネット上ではいわれなきバッシングが巻き起こり、話題沸騰。3週連続で興行収入記録ナンバーワンヒットとなっている問題作だ。
カンヌは常連監督が傑作よりも佳作でパルムドールを獲ってしまう“年功序列”がしばしば起きる場であり、本作の受賞も多分にその感が強い。だが、同時に“時勢”も大いに影響する賞である。皮肉にも是枝監督は本作へ寄せられたバッシングに象徴されるこの世の不寛容さ、排外主義の空気を的確に捉えている。ゆえのパルムドール受賞だろう。

映画はある家族を追っていく。父はおそらく50代、土方仕事で日銭を稼いでいる。ある日、現場でケガをするが労災は下りない。妻はクリーニング屋勤務。ポケットに残った客の私物をくすねる手癖の悪さだが、経営難を理由に解雇を言い渡される。家には老婆がおり、彼女の年金が一家の収入の要だ。妹は風俗でバイトをし、幼い長男は学校にも行かず、万引きを繰り返す。

ワーキングプアを描くには作意が過ぎるきらいもある。特に父と母、息子の関係はここまで複雑にする必要があったのか。妹のサブプロットも機能しておらず、常連客に心を許す下りは監督が松岡茉優に惚れ込んでるとはいえ、やり過ぎだろう。果たしてこんなに盛り込む必要があったのか。

 一方で是枝らしくディテールのリアリズムは徹底されている。一家の住居は低所得者の典型とも言えるゴミ屋敷で、食事は毎食カップラーメンだ。一家のコスト意識、モラルについ苛立ってしまうのだが、映画はそんな僕の寛容さも試している。ほぼ同時期に公開された『フロリダ・プロジェクト』は全く同じテーマを扱っており、監督ショーン・ベイカーは特に子役の撮り方において是枝からの影響を公言している。そして偶然にもラストシーンは全く同じだ。両者の決定的な違いはワーキングプアの集う『フロリダ~』のモーテルには互助精神があり、管理人ウィレム・デフォーは何とか枠組みの中でセーフティネットになろうと奮闘しているが、本作にはそんな存在が一人も出てこない。行政もなければ友人もおらず、何より僕らは近所付き合いというものが無くなって久しい事を身をもって知っている。この断絶、孤立した絶望感こそ弱者を徹底的に叩く我が国の姿そのものではないだろうか。

この国を覆う空気を知らしめるためなら過ぎた作劇もやむを得まい。是枝は安易な着地を目指さず、子供達へ何を手渡すべきなのか真摯に考え、観客に突きつける。若さ漲るショーン・ベイカーと対照的なその筆致は、まさに名匠の風格だ。

『万引き家族』18・日
監督 是枝裕和
出演 リリー・フランキー、安藤サクラ、樹木希林、松岡茉優
 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『ワンダー 君は太陽』 | トップ | 『トランスフォーマー/ロスト... »

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。

映画レビュー(ま)」カテゴリの最新記事