長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『コズモポリス』

2020-05-29 | 映画レビュー(こ)

 『危険なメソッド』に続き、デヴィッド・クローネンバーグは言葉を重視した演劇的作劇で自身のテーマである“精神が肉体に及ぼす変容”を描こうとする。かつて男はハエに変容し(『ザ・フライ』)、平凡な男は殺人鬼に変わった(『ヒストリー・オブ・バイオレンス』)。映像的なアプローチを封印し、ナチス到来前の時代精神を切り取った(『危険なメソッド』)彼は、今度は金融危機に直面した人々の迷走を描こうとする。街を流す白いリムジンに現れては語る人々の不可思議な連続性は全財産を瞬時に失った主人公の悪夢にも思え、妖しい磁場を発生させている。
 そんなクローネンバーグの無機質な映像世界においてサラ・ガドンの息を呑む美しさはほとんど現代美術のようであり、本作に特異な輝きを与えていた。近年、怪優として活躍するロバート・パティンソンはこの時期はまだ色気や表現に乏しく、ヴィゴ・モーテンセンに比べると見劣りするが、クローネンバーグは未完の大器を買って続く『マップ・トゥ・ザ・スターズ』に起用した。


『コズモポリス』12・仏、加
監督 デヴィッド・クローネンバーグ
出演 ロバート・パティンソン、サラ・ガドン、ジュリエット・ビノシュ、ケビン・デュラント、サマンサ・モートン、ポール・ジアマッティ
 

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