長内那由多のMovie Note

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『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』

2022-07-08 | 映画レビュー(お)

 2013年当時流行りのヴァンパイア映画もジム・ジャームッシュの手にかかれば孤高のアーティストの話となる。アダムは公の場に一切姿を現さないオルタナミュージシャン。その正体は遥か昔より生きてきたヴァンパイアだ。かつてはシューベルトに人知れず交響曲を書き下ろしたが、今やグーグルが我が家を突き止め、You Tubeには許可なく自作が流されている。肝心の生き血は手に入らないから、病院で買い上げた血液をアイスバーにして食べるしかない。何とも生きづらい時代になったもんだ。

 アダムの憂鬱はすなわちインディーズ作家ジャームッシュの憂鬱なわけで、人を食ったオフビートな笑いを交えながらヴァンパイアのメロウな日々が描かれていく。トム・ヒドルストン、ティルダ・スウィントンの2人ほど人外のキャラクターが似合う俳優は稀で、ここに妹役でミア・ワシコウスカまで加わる(色素の薄い感じがスウィントンにそっくり)。ジョン・ハートはなんとクリストファー・マーロウ役で、シェイクスピアはマーロウだったという逸話が踏襲されている。

 かつての『ナイト・オン・ザ・プラネット』のように夜空を巡って地球の裏側タンジールへと向かえば、そこには汚れを知らない才能があり、ヴァンパイアが生き血を吸える風土がある。ジャームッシュでなければ許されないヌルさと憂いの込められた小品だ。


『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』13・米、英、独
監督 ジム・ジャームッシュ
出演 トム・ヒドルストン、ティルダ・スウィントン、ミア・ワシコウスカ、ジョン・ハート、アントン・イェルチン、ジェフリー・ライト

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