長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『オーディブル 鼓動を響かせて』

2022-01-10 | 映画レビュー(お)

 Netflixはじめストリーミングサービスの隆盛によってこれまで困難だったドキュメンタリー映画へのアクセスがグッと容易になった。毎年、アカデミー賞がノミネート発表の前に公開する一次選考通過作品(ショートリスト)を見渡すと、多くの作品が何らかの方法で視聴可能であることに驚かされる。そしてストリーミングサービスの存在は多くの映像製作者の“最大公約数”を拡大し、この開かれた門戸はジャンルの表現を急速に進歩、多様化させてきた事がわかる。

 メリーランドのろう学校にあるアメフト部を追った本作は、ほとんど劇映画のような洗練されたルックだ。激しく身体がぶつかり合う競技内容とは裏腹に、本作には僅かな劇伴を除いてほとんど音がない。健常者相手に16シーズン負けなしというこの強豪校で、クオーターバックを務める少年アマレは敗北を喫してしまう。父は生まれたアマレの障害を知るや家族を捨てて家出したが、後に宗教に触れて改心。映画は2人の贖罪と赦しの過程や、健常者と同じ学校に通ったばかりにいじめに遭い、命を断ってしまった親友への想い、そして間もなくろう学校を卒業して社会へ出ることの不安を描き、さながら青春ドラマのような趣だ。

 2010年代後半からの人権闘争により、聴覚にハンデを持った人々を描く作品は急速に増えてきた。2020年の『サウンド・オブ・メタル』、2021年の『エターナルズ』『CODA』、そして『ドライブ・マイ・カー』へと続く。僕達が知り得ない世界、体感を教えてくれるのもこのジャンルの醍醐味である。


『オーディブル 鼓動を響かせて』21・米
監督 マシュー・オゲンズ

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