長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『おやすみ オポチュニティ』

2023-01-09 | 映画レビュー(お)

 例年、ノミネートされなかった作品の方が話題を集めると言っても過言ではないアカデミー賞。今年はノミネート発表を前に既に侃々諤々だ。先行発表された長編ドキュメンタリー賞のショートリストから『おやすみ オポチュニティ』が落選したのだ。

 2004年にNASAが打ち上げた火星探査ロボット“スピリット”と“オポチュニティ”は、当初想定された90日間の耐用日数を超えて活動し続けた。人類未踏の惑星はあらゆる想定をしても予想外の事が起こる未知領域。2機は二手に分かれて火星をくまなく走り続けるが、過酷な環境と時に数ヶ月にも及ぶ嵐によってまずはスピリットが活動を停止。しかしオポチュニティはなおも動き続け、ついにミッションは15年に及ぶ。科学者とエンジニアという、異なる見地を持つ者たちがオポチュニティの予想外の奮闘に感化され、やがて機械以上の愛着を持ち始めていく過程が面白い。NASA職員たちは太陽電池で動くオポチュニティを“起こす”ために毎朝ポップソングを選曲する。リドリー・スコットの『オデッセイ』よろしくベタなセレクトは、彼らが気持ちを交わし合うためのミュージカルだ。作動中のオポチュニティの外観をILMが担当しており、『スター・ウォーズ』のR2-D2らドロイドの愛嬌を彷彿としてしまう。ロボットとは人類にとってかけがえのない同士なのだ。

 かつてオポチュニティの打ち上げを見学した地元の高校生がいつしか新米NASAスタッフとなり、“ベテラン”となったオポチュニティのサポートに当たる。そう、人間が歳を取るように機械にも劣化という老いが訪れる。日没と共にシャットダウンすればフラッシュメモリは1日の活動記録を保持できなくなり、タイヤは片輪が回らなくなった。撮影用のアームは伸びたまま固まっている。やがて動きを止めるオポチュニティをNASA中が見守る終盤はまさに看取りであり、私達はAI技術が発展の一途を辿るこの時代に機械との共存を思わずにはいられないのである。そして彼らの力を借りて宇宙(そら)へと思いを馳せる人間達のあくなき探究心に胸が熱くなった。オスカーノミネート落選だって?まったく!


『おやすみ オポチュニティ』22・米
監督 ライアン・ホワイト
ナレーション アンジェラ・バセット

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