長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『スワン・ソング』

2022-01-20 | 映画レビュー(す)

 ベンジャミン・クリアリー監督の長編デビュー作は静謐で洗練されたSF映画だ。近未来、不治の病によって余命いくばくもないキャメロンは、家族のために人知れず自身のクローンを遺そうとする。スマートフォンは姿を消しており、代わってコンタクトレンズ型の携帯デバイスが日常的に使われているが、公共交通機関も住宅事情も現在とさほど変わらない世界。『スワン・ソング』は僕達の生活の延長線上にある。

  一方で、クローン技術の描写はハッタリが効いている。まるでiPhoneのように記憶を同期すると、あとは一週間の試験を経て本人と入れ替わるだけ。マハーシャラ・アリは迫る死期に戸惑うキャメロンと、自身が複製物である事を自覚したクローン人間という難役を演じ分けており、名優の仕事ぶりだ。

  時に不穏な空気が立ち込め、先の読めない展開に固唾を飲むが、本作もまた先達同様、自身の心の反響に耳を澄ますSF映画である。過酷な旅路の果てに訪れる、優しい平穏を見てほしい。


『スワン・ソング』21・米
監督 ベンジャミン・クリアリー
出演 マハーシャラ・アリ、ナオミ・ハリス、グレン・クローズ、オークワフィナ、アダム・ビーチ
※AppleTV+で独占配信中※

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