長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『スペース・スウィーパーズ』

2021-02-10 | 映画レビュー(す)

 世界中の新作映画がコロナショックによって劇場公開延期を余儀なくされる中、韓国では2020年サマーシーズンの本命と目された本作『スペース・スウィーパーズ』もNetflixスルーとなったが、ひょっとすると不幸中の幸いだったかも知れない。大人が見るにはややスリルに乏しいが、ロックダウン中にファミリーで見るには打ってつけのポップコーンムービーであり、何より『パラサイト』やBTSら韓国のポップカルチャーが世界を制覇した今、改めてその充実を世界に知らしめるにはNetflixスルーは渡りに船であっただろう。配信開始後、世界各国ではNo.1の視聴数を記録。多国籍キャストが入り乱れるスペースオペラ大作のフロントラインを、韓国人キャストが張っている姿はまさに時代を象徴する光景だ。

 何より驚かされたのは韓国中のVFXスタジオが集結したというプロダクションデザインの垢抜けっぷりだ。本国では昨年公開の大ヒット作『新感染半島』ですら世界水準のゾンビ映画でありながら、CGの仕上がりはハリウッド映画と比べて1つも2つも足りない印象だった。しかし『スペース・スウィーパーズ』には巻頭早々、大作映画ならではの絵作りで魅せる気迫はもちろん、薄汚れて雑然とし、そして歴然たる格差構造の未来社会を描く意匠が確かにある。韓国映画界、あっさりとベストワークを更新してきたのだ。キャラクター設定も実に魅力的で、これはTVシリーズで展開してもイケるかもしれない。韓国映画界はかねてよりそのマーケットを世界照準にしており、ここでは明らかに影響を与えたであろう『アップルシード』『プラネテス』『カウボーイ・ビバップ』ら日本産アニメーションの影も薄い。SF映画史に残るような作品でもなければ、今年を代表する映画でもないかもしれないが、韓国映画の充実を象徴する1本と言えるだろう。


『スペース・スウィーパーズ』21・韓
監督 チョ・ソンヒ
出演 ソン・ジュンギ、キム・テリ、チン・ソンギュ、ユ・ヘジン、リチャード・アーミテッジ

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