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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ハウス・オブ・グッチ』

2022-01-30 | 映画レビュー(は)

 1995年、人気ファッションブランド“グッチ”の社長マウリツィオが妻パトリシアによって暗殺されたこの事件を、リドリー・スコットは思いのほか笑える映画に仕立てている。パトリツィア役に『アリー スター誕生』で女優としての才能を証明したレディー・ガガが扮し、マウリツィオをスコット監督の前作『最後の決闘裁判』からアダム・ドライヴァーが続投。グッチ家総帥アルドにアル・パチーノ、マウリツィオの父にジェレミー・アイアンズと大御所が居並び、そしてグッチ家の屋台骨を傾けたパオロに特殊メイクで大変身したジャレッド・レトが扮した。オールスターキャストがイタリア訛りで仰々しく演じる様は、さながらハリウッド最上級のコント大会だ。スコットはやはり実在する大富豪一族を描いた『ゲティ家の身代金』で、家族の命よりも金を優先する家長ゲティにこの世の非情と無情を見出していたが、本作では崩壊の一途を辿るグッチ家の姿に滑稽さと“もののあわれ”がある。

 2010年代後半、アイデンティティポリティクスを経て旧来的なコメディのネタが見直されてからというもの、ハリウッドが大手を振るってイジることができるのは“白人特権”だ。巨大メディア・コングロマリットの後継者争いを描いた『サクセッション』(A.K.A『メディア王』)は『ハウス・オブ・グッチ』に大きく影響を与えている。市井感覚なんて持ち合わせていない“天上人”たちの絢爛豪華、傍若無人な振る舞いが時に清々しいほどで、ついつい“推し”を創りたくなってしまうところに前澤やマスク、そしてトランプが人気を集める僕ら衆愚性も笑われている。

 今年のアメリカ俳優組合賞では『サクセッション』のプロデューサーでもあるアダム・マッケイ監督作『ドント・ルック・アップ』と本作『ハウス・オブ・グッチ』が伸び悩んだ批評をものともせず、作品賞に相当するキャスト賞にノミネートされた。とかくコメディを軽視してきたハリウッドだが、これら一級の“重喜劇”は今やハリウッド中の俳優がこぞって演じたいジャンルなのだろう。アダム・ドライヴァーはグロテスクな『最後の決闘裁判』から一転、イイとこのお坊ちゃん役でキュートな魅力を発揮。レディー・ガガは話が進むにつれてその獰猛な目つきどんどん可笑しくなる。そしてジャレッド・レトに至ってはほとんど荒らし行為のような怪演だ

 そんな本作の“オチ”は場外にある。現在、グッチはブランドコングロマリット“ケリング”の傘下にあり、その社長フランソワ・アンリ・ピノーの現夫人は本作でパトリツィアにグッチ乗っ取りを吹き込む占い師を演じたサルマ・ハエックなのだ。だからメキシコ人の彼女がキャスティングされているのか!


『ハウス・オブ・グッチ』21・米
監督 リドリー・スコット
出演 レディー・ガガ、アダム・ドライヴァー、ジャレッド・レト、ジェレミー・アイアンズ、ジャック・ヒューストン、サルマ・ハエック、アル・パチーノ、カミーユ・コッタン、ガエターノ・ブルーノ
 

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