goo blog サービス終了のお知らせ 

長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『セインツ 約束の果て』

2018-09-21 | 映画レビュー(せ)

いつの頃からか歌い継がれてきたカントリーソングのような映画だ。
男と女がいる。2人は罪を犯し、男は牢へ送られ、身重の女が残された。遠く離れても互いを想い、また逢う日を心に描いた。

時は流れ、2人の子供も大きくなった。男は牢を出て、家路につく。だが、女には別の男がいた。彼女を更生させようと想いを寄せるその男はかつて銃を向け合った保安官だ。

時代を特定させない作りが映画に独特の詩情をもたらしている。ケイシー・アフレック、ベン・フォスターは時代を超えた魅力を携えており、特にフォスターは映画俳優としての成熟を感じさせ、ますますショーン・ペンと似てきた。
そしてルーニー・マーラの温度の低い個性は唯一無二ものだ。本作は彼女のフォトジェニックな美しさを眺めるだけで十分に堪能できる。

 監督はデヴィッド・ロウリー。ジェフ・ニコルズといい、アメリカンニューシネマを彷彿とさせる伝統的アメリカ映画の担い手が現れてきてくれたのが嬉しい。


『セインツ 約束の果て』13・米
監督 デヴィッド・ロウリー
出演 ケイシー・アフレック、ルーニー・マーラ、ベン・フォスター、キース・キャラダイン
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『セルフィッシュ・サマー』

2018-09-19 | 映画レビュー(せ)

「オレ、この間、あのコとイチャイチャしてさー」
「エッチの寸前までいったんだけど、ジャマが入ってよー」
「彼女を支えられるのはオレしかいないから、ついててあげなくちゃ」
男同士の他愛もない会話。「オマエら付き合ってんだ?」と聞くと決まってこう言う事が多い。
「ううん。でも微妙な関係なんだ」

こんな会話を男子はけっこうやっている。端から見るとイタいし、何より中身のない会話だ。ジャド・アパトウ軍団でも一番非常識で下品なギャグをやるデヴィッド・ゴードン・グリーン監督だが、本作ではブロマンス映画特有の会話の面白さをオミットし、リアルな男の滑稽さを描き出す。自分のダメっぷりを直視できない男たちの行程はどこへ向かうのかわからないテンションをふつふつと秘めていて、面白い。グリーンは本作でベルリン映画祭監督賞に輝いた。

アパトウ軍団ではサブを務めてきたポール・ラッドがその実力を発揮している。スティーヴ・カレルといい、本当に哀しい事を知っている人にしか出せないような、物憂い気で滑稽な孤独感を滲ませている。焼け落ちた廃墟で一人、家族ごっこに興じる姿はこの映画で最も心に残る、無性に悲しい場面だ。

 本作はロードムービーだが、男たちの行程はあくまで仕事であり、目的地はない。だが日常とはそんな進行方向も定まらないロングウォークではないだろうか。


『セルフィッシュ・サマー』13・米
監督 デヴィッド・ゴードン・グリーン
出演 ポール・ラッド、エミール・ハーシュ
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『セッション』

2018-09-13 | 映画レビュー(せ)

“ドラム版『ブラック・スワン』”という評もあるが、これは1つの芸事(仕事でも何でもいい)を突き詰めようとスタートした若者が世界の厳しさを知り、闘っていこうとする青春映画だ。僕には一音ですら先生の審美眼から弾かれてしまうレッスンの緊張感、クラスメートにポジションを奪われてしまう焦燥、そして延々と繰り返されるあの罵声は懐かしく感じた。本番を迎える前に脱落した仲間も多くいたが、それでも僕は体験して良かったと思っているし、一生の宝だ。主人公ニーマンのキャリアが映画が終わった瞬間から始まるように、あのセッションがなければ僕は大人の表現者として一歩を踏み出せなかったように思う。この映画で描かれたシゴキで僕が実際に体験しなかったのは練習時間を早く知られされた事と、本番で演目が違った事くらいだ。

アカデミー賞では作品賞候補8作品が軒並み1部門の受賞で終わる中、このサンダンス発の低予算映画は勝者
『バードマン』に続く3部門で受賞と気を吐いた。均整の取れたメジャースタジオの作品よりも大胆で野心的な28歳デミアン・チャゼルの圧倒をオスカーが評価したのだ。しかも彼には勢いだけではない巧みさがある。主人公ニーマンを演じるマイルズ・テラーの朴訥とした容姿に誤魔化されがちだが、彼は若さゆえに傲慢だ。ライバルを蹴落とし、時に罵る姿には自己顕示欲を満たしたいがため芸事に打ち込んでいるようにすら見える。主奏者である先輩の楽譜を失くしたのもニーマンかも知れないし、フレッチャーのハラスメントを告発したのも彼かも知れない。ライヴシーンよりもストーリーテリングと人物描写で機能する編集技が秀逸だ。

その一方でJ・K・シモンズがオスカーに輝いたフレッチャー先生のキャラクターはじめ、誇張が劇映画としてのドラマ性を高めている。コンサート本番で仕掛ける反撃のドラムソロがいつしかフレッチャーの求めたビートと合致し、二人で高みへと昇り詰めていくあの恍惚こそ、アーティストが一生涯かけて探求する瞬間だ。ジャケットを脱ぎ捨て、ニーマンにフィニッシュのタクトを振るフレッチャー。ラスト9分、セリフ一切なしのライヴシーンが幕切れた瞬間、映画館内からはため息が漏れた。息をするのも忘れた映画なんて久しぶりじゃないか。僕らは地獄をくぐり抜けた者しか到達できない境地を目撃したのだ。

『セッション』14・米
監督 デミアン・チャゼル
出演 マイルズ・テラー、J・K・シモンズ、メリッサ・ブノワ
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『セクシャリティー』

2018-08-19 | 映画レビュー(せ)

Netflixドラマ『またの名をグレイス』で名実共にカナダを代表する気鋭女優となった感のあるサラ・ガドン。コスチューム劇で見せる可憐な乙女役にはうっとりさせられるが、彼女の魅力は同郷の異才クローネンバーグやヴィルヌーヴの作品で見せたこの世ならざる“妖しさ”ではないだろうか。スックイン・リー監督のデビュー作『セクシャリティー』(原題Octavio is Dead)はそんな彼女にピッタリの不可思議な映画だ。

主人公タイラーのもとに父の訃報が届く。彼女が生まれて間もなく父は家を去ったのだ。母は女手一つでタイラーを育てたが、今は障害者保険を騙し取っている。過干渉な母に嫌気がさしたタイラーは父オクタヴィオの遺したアパートへ向かうのだが…。

タイラーが父のアパートへ向かうと周囲では奇妙な事件が起こり始める。リーの演出は明らかにデヴィッド・リンチの影響下にあり、前半はほとんどホラー映画のような怖さだ。サラは製作総指揮も務めてこの新鋭監督サポート。やはり風変りなミステリーが好みなのだろうか。

ひょんな事からタイラーは男装する。はらりとかかった前髪の奥で光るサラの青い瞳。可愛らしい甘い声はどこから出ているのかハスキーボイスへと変容し、この素晴らしい才能を持った女優にとって男装など造作もないことだとわかる。タイラーは父を知る青年アポストルに惹かれ、アポストルはタイラーを男と信じて惹かれる。2人を繋ぐのは成仏できない哀れな父親オクタヴィオの亡霊だ。倒錯とエクスタシーの混在するラブシーンでサラの妖気が際立つ。

 映画は意外や爽やかな着地を見せ、タイラーの成長物語である事がわかる。風変りな筆致に萩尾望都の短編マンガを彷彿した事も書き加えておきたい。


『セクシャリティー』18・加
監督 スックイン・リー
出演 サラ・ガドン、ロザンナ・アークエット
※カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2018で限定上映※
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター』

2017-10-22 | 映画レビュー(せ)

報道写真の巨匠セバスチャン・サルガドの足跡を追ったヴィム・ベンダース監督によるドキュメンタリー。2014年のアカデミー賞では長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた。

ブラジル奥地の少数民族、肉体労働者たち、難民と紛争…サルガドの写真には神話的で厳粛な奥行があり、さながら人類史を綴ったタペストリーのようだ。しかしアフリカでの大量虐殺を3年間に渡って追い続けた彼の精神は疲弊。祖国ブラジルへと戻った彼はそこで森林伐採によりかつての面影を失ってしまった故郷を目の当たりにする事となる。

妻の勧めで植林を始めた彼はやがて森林再生のプロジェクトへと乗り出し、その活動はモデルケースとして世界中に広まっていく。その過程は彼の心の再生であり、自然写真家へ転じるきっかけともなった。

 数奇なキャリアであり、写真家という範疇を超えた彼のバイタリティに圧倒されてしまう。しかしベンダース、共同監督ジュリアーノ・リベイロはサルガドの人間性への踏み込みが足りない。サルガドを衝き動かしたオブセッションとは何だったのか?人間のあらゆる営みが地球自然の一部であると達観する自然写真家としての現在にこそ焦点を当てるべきではなかったのか。偉人への敬意がドキュメンタリーから主観性を損なわせたように見受けられた。物足りない1本である。


『セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター』14・仏、伊、ブラジル
監督 ヴィム・ベンダース、ジュリアーノ・リベイロ・サルガド
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする