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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『セクシャリティー』

2018-08-19 | 映画レビュー(せ)

Netflixドラマ『またの名をグレイス』で名実共にカナダを代表する気鋭女優となった感のあるサラ・ガドン。コスチューム劇で見せる可憐な乙女役にはうっとりさせられるが、彼女の魅力は同郷の異才クローネンバーグやヴィルヌーヴの作品で見せたこの世ならざる“妖しさ”ではないだろうか。スックイン・リー監督のデビュー作『セクシャリティー』(原題Octavio is Dead)はそんな彼女にピッタリの不可思議な映画だ。

主人公タイラーのもとに父の訃報が届く。彼女が生まれて間もなく父は家を去ったのだ。母は女手一つでタイラーを育てたが、今は障害者保険を騙し取っている。過干渉な母に嫌気がさしたタイラーは父オクタヴィオの遺したアパートへ向かうのだが…。

タイラーが父のアパートへ向かうと周囲では奇妙な事件が起こり始める。リーの演出は明らかにデヴィッド・リンチの影響下にあり、前半はほとんどホラー映画のような怖さだ。サラは製作総指揮も務めてこの新鋭監督サポート。やはり風変りなミステリーが好みなのだろうか。

ひょんな事からタイラーは男装する。はらりとかかった前髪の奥で光るサラの青い瞳。可愛らしい甘い声はどこから出ているのかハスキーボイスへと変容し、この素晴らしい才能を持った女優にとって男装など造作もないことだとわかる。タイラーは父を知る青年アポストルに惹かれ、アポストルはタイラーを男と信じて惹かれる。2人を繋ぐのは成仏できない哀れな父親オクタヴィオの亡霊だ。倒錯とエクスタシーの混在するラブシーンでサラの妖気が際立つ。

 映画は意外や爽やかな着地を見せ、タイラーの成長物語である事がわかる。風変りな筆致に萩尾望都の短編マンガを彷彿した事も書き加えておきたい。


『セクシャリティー』18・加
監督 スックイン・リー
出演 サラ・ガドン、ロザンナ・アークエット
※カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2018で限定上映※
 
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『セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター』

2017-10-22 | 映画レビュー(せ)

報道写真の巨匠セバスチャン・サルガドの足跡を追ったヴィム・ベンダース監督によるドキュメンタリー。2014年のアカデミー賞では長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた。

ブラジル奥地の少数民族、肉体労働者たち、難民と紛争…サルガドの写真には神話的で厳粛な奥行があり、さながら人類史を綴ったタペストリーのようだ。しかしアフリカでの大量虐殺を3年間に渡って追い続けた彼の精神は疲弊。祖国ブラジルへと戻った彼はそこで森林伐採によりかつての面影を失ってしまった故郷を目の当たりにする事となる。

妻の勧めで植林を始めた彼はやがて森林再生のプロジェクトへと乗り出し、その活動はモデルケースとして世界中に広まっていく。その過程は彼の心の再生であり、自然写真家へ転じるきっかけともなった。

 数奇なキャリアであり、写真家という範疇を超えた彼のバイタリティに圧倒されてしまう。しかしベンダース、共同監督ジュリアーノ・リベイロはサルガドの人間性への踏み込みが足りない。サルガドを衝き動かしたオブセッションとは何だったのか?人間のあらゆる営みが地球自然の一部であると達観する自然写真家としての現在にこそ焦点を当てるべきではなかったのか。偉人への敬意がドキュメンタリーから主観性を損なわせたように見受けられた。物足りない1本である。


『セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター』14・仏、伊、ブラジル
監督 ヴィム・ベンダース、ジュリアーノ・リベイロ・サルガド
 
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『戦争より愛のカンケイ』

2017-10-07 | 映画レビュー(せ)

まったくフランス人ってやつは!
くそリベラルでおまけにセックスで世界を変えられるとおそらく本気で信じている恋愛脳で、そんな連中がこんなクレバーでキュートなラブコメディを作るんだから、その知性たるや!

しかも主演のサラ・フォレスティエは政治思想も貞操もかなぐり捨てて、今にでもフランスに飛んで行きたくなるくらいセクシーでキュートだ。そのトリコロールブルーの瞳を見つめるのにこの映画の95分という尺は短過ぎる。彼女が扮するのは右翼政治家をセックスで転向させる“怒れる政治的娼婦”。どっひゃー、なんだそりゃ!
ところがフォレスティエの魅力と巧みな脚本の御陰で少しもキワモノ感が出ない。買い物中なのも忘れて帰宅し、シャワーを浴びるやかかってきた電話をきっかけに服を着る事も忘れて街に出てしまうシーンはケッサクだ。この最高のブレイクスルーでフォレスティエはこの年のセザール賞主演女優賞を受賞している。

映画はそんな彼女に惚れてしまった平凡な男アルチュール・マルタンとのラブ・コメディだが、その笑いは驚くことに全部、政治ネタになっている。移民国家フランスを批評し、キモい右翼もキモい左翼も笑い飛ばす。根幹にあるのは行き過ぎた政治信条なんてセックスという1対1の密な人間関係の前では何の意味もない、というエスプリだ。

 それを少しも嫌味なくまとめ上げられたのもあっけらかんとし、そして世の中に怒っているサラ・フォレスティエの魅力の御陰なのだ。あぁ、不機嫌な君ってサイコーだ!


『戦争より愛のカンケイ』10・仏
監督 ミシェル・ルクレール
出演 サラ・フォレスティエ、ジャック・ガンプラン
 
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