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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『イコライザー2』

2019-07-28 | 映画レビュー(い)

大ヒットを記録したバイオレンスアクションの第2弾。意外やデンゼル・ワシントンがシリーズものに出演するのは今回が初だという。ジャンル映画への出演に躊躇がない事はそのフィルモグラフィからも明らかだが、念願のオスカー主演男優賞をもたらした『トレーニング・デイ』アントワン・フークア監督との3度目のタッグともあれば二つ返事だったのだろう。トム・クルーズはじめアクションスターの高齢化が著しいハリウッドにおいて、デンゼルもまたバリバリの現役ぶりを見せている。

昼は熟練フリーター、夜は必殺仕置き人という2つの顔を持つ主人公フランク・マッコール。前作ではホームセンター勤務だったが、今回はウーバー運転手で生計を立てている。老人ホームへ送迎の傍ら、不審者と見るや後を追い、正義のデンゼル拳を下す。近所の不良少年とのやり取りなど、ほとんど本題に入らない前半40分がすごくいい。年を経て“オヤジ”になったデンゼルだからこその説教臭さが味わい深く、これなら『深夜食堂』ですらイケるのではないか。キャリア円熟期ならではの作品である。

もちろん、いつまでも人情話をしているワケにはいかない。しかし、いざアクションが始まってみれば案の定デンゼルが無双過ぎてほとんどゲームの神プレー動画状態になってしまうのだからご愛敬だ。今回の敵は『ゲーム・オブ・スローンズ』以来、引っ張りだこのペドロ・パスカル。口ひげがないとネイサン・フィリオンみたいで、何とまた“目”をやられている。槍さえあればもうちょっとイイ線行ったのに!

というワケで、次回はジャック・リーチャー(トムちん)級のビッグネームを招聘しないと間がもたないよ!


『イコライザー2』18・米
監督 アントワン・フークア
出演 デンゼル・ワシントン、ペドロ・パスカル、メリッサ・レオ、ビル・プルマン
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『イントゥ・ザ・ウッズ』

2018-10-11 | 映画レビュー(い)

シンデレラ、赤ずきん、ラプンツェルにジャックと豆の木…馴染み深い有名童話をマッシュアップした同名ミュージカルの映画版。
昨今のディズニー映画と同様、自虐セルフパロディと換骨奪胎の面白さに挑んでいるがスティーヴン・ソンドハイム御大のオリジナルには“めでたしめでたし”だけが人生ではないというシニカルな人生観とセクシャルさが備わっていたのに対し、残念ながらというか案の定、それらの要素がバッサリ抜け落ちている。ジョニデ扮する狼はムチムチの赤ずきんを狙うロリコン変質者で、プリンスチャーミングはチャーミングさしか取り柄のない好色魔と笑わせてくれるが、主人公となるパン屋とシンデレラのカップリングが成立し、養子となった赤ずきんとジャックも加わった童話主人公スワッピングのエグさはじめ、こちらからニュアンスを積極的に嗅ぎ取らなければいけない程度に希釈されており、惜しい。『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』『NINE』はじめロブ・マーシャル監督は題材に対する愛が足りないのだ。次々と童話がミックスされていく破天荒な物語展開は好奇心よりも食傷感が先立ってしまった。

ならばスター隠し芸大会のノリで出演陣のパフォーマンスを楽しもう。
ようやく歌唱力を実証できたアナ・ケンドリックはソンドハイムの秘蔵っ子と呼ばれた美声を披露。メリル・ストリープのオスカー候補は過大評価だが、それでも本作のハイライトとなるナンバー「Last Midnight」は見せる。同年、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』でトムちんの向こうを張ってアクション女優としてのカリスマを発揮したエミリー・ブラントは一転、今度はミュージカルを難なくこなしいよいよ死角なしのオールマイティ女優となった。個人的には短い出番ながらもフェロモンが隠し切れないラプンツェル役マッケンジー・マウジーについても記しておきたい。

 一時期の不況を抜け、定期的に大作が製作されるようになったミュージカル映画だが、口当たりの良いファミリー向けばかりではなく、そろそろボブ・フォッシーのようなアダルトで作家性の強い作品も見たいところである。


『イントゥ・ザ・ウッズ』14・米
監督 ロブ・マーシャル
出演 エミリー・ブラント、ジェームズ・コーデン、アナ・ケンドリック、クリス・パイン、ジョニー・デップ、マッケンジー・マウジー、メリル・ストリープ
 
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『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』

2018-10-08 | 映画レビュー(い)

第二次大戦末期のイギリス。ドイツ軍の暗号機エニグマの解読に成功し、戦争を終結に導いた影の立役者アラン・チューリングを描く伝記映画。コンピューターの元祖となる“チューリング・ボンブ”を開発、現在に多大な影響を与えた天才数学者だが、同性愛者だったために迫害され、41歳で自ら命を絶った非業の人物でもある。戦時機密を扱っていたためその功績が公にされる事はなく、ようやく2013年に同性愛を理由とした逮捕を恩赦されるに至った。

映画はエニグマ解読のサスペンスを中心にチューリングの秘密を解き明かしていく構成になっており、驚くほどエンターテイメントで間口の広い仕上がりだ。怪作『ヘッドハンター』で注目されたノルウェーの新鋭モルティン・ティルドゥム監督の職人ぶりと、本作でオスカーを受賞したグレアム・ムーアの巧みな脚色が光る。奇人変人のチューリングが周囲と対立しながら、やがてエニグマ打破に成功する展開は実録モノならではのダイナミズムにあふれている。一方、ゲイであること、そして暗号解読に成功しながらも機密保持のために多くの人命を切り捨てなければならなかったジレンマによって居場所を失っていく姿は痛切で胸に迫る。変人演技の集大成となるベネディクト・カンバーバッジと、彼を支えたジョーン・クラーク役キーラ・ナイトレイの演技は本作のハイライトだ。

 ジョーンが口にする“時に誰も想像できなかった人物が、偉業を成し遂げる”という力強く、ポジティブなメッセージこそが本作のテーマであり、この言葉を盛り込む事で万人に応えるフィールグッドムービーに仕上がっているが、そんなジョーンの言葉も救いにならなかったチューリングの絶望をこの映画は見逃してはいないだろうか。自らのマシンに初恋の人クリストファーの名前を付け、その傍らで失意のうちに彼は自殺した。同性愛者という理由で自らの声も持てず、歴史の闇に葬り去られていった人々の絶望と孤独を僕たちは忘れてはならない。


『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』14・英
監督 モルティン・ティルドゥム
出演 ベネディクト・カンバーバッチ、キーラ・ナイトレイ、マシュー・グード、マーク・ストロング、チャールズ・ダンス
 
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『インクレディブル・ファミリー』

2018-10-04 | 映画レビュー(い)

映画は2004年の第1作目直後から始まるのに少しも古びていない。思い返せば『ダークナイト』よりも、『ウォッチメン』(実写映画版)よりも『シビル・ウォー』よりも早く己のアイデンティティに悩むスーパーヒーロー像を描いていた『Mr.インクレディブル』はマーヴェル・シネマティック・ユニバース全盛の2018年にいったい何を描くのか?ブラッド・バード監督の天才に裏打ちされた第2弾は普遍的な揺るぎのなさだ。

ヒーロー活動を再開して“職場復帰”するのは妻イラスティ・ガールで、夫Mr.インクレディブルは主夫として家事や子育てに挑むが、赤ん坊ジャックジャックは文字通り“怪物”で寝かしつけるのもままならない。前作で過去の栄光が忘れられずに悶々としたお父さんが今度は子育てであっという間に自信喪失してしまうのが可笑しい。Me Tooよりもずっと以前にバードはジェンダーの役割化を取っ払っていた。

 華々しくアクションを繰り広げるイラスティ・ガールがカッコいい。パワーしかスキルのないMr.インクレディブルに比べ、技の数も多彩で見栄えがいいのだ。『ミッション・インポッシブル/ゴーストプロトコル』『トゥモローランド』と実写作品を経てバードのアクション演出はキレを増しており、いつになく華やかなビッグバンドサウンドを奏でるマイケル・ジアッキーノのスコアも手伝って空席となった007監督の座をお願いしたいくらいである(007最新作の監督は現在、『トゥルー・ディテクティブ』のケイリー・ジョージ・フクナガが就任している)。

 大義なき戦いだったイラク戦争はアメリカに巨大な力の意味を内省させ、0年代のヒーロー映画群は何度も自らの持つ力について惑い、苦しんだ。そして弱きを助け、手を取り合うマーヴェルが主流となった今、バードは本作でスーパーヒーローを家族として再定義する。父の頑張りに気付いた娘の「パパはスーパーよ」という言葉の温かさ。スーパーヒーローは誰だってなれる。そしてあなたも誰かのスーパーワンであり、オンリーワンなのだ。


『インクレディブル・ファミリー』18・米
監督 ブラッド・バード
出演 クレイグ・T・ネルソン、ホリー・ハンター、サミュエル・L・ジャクソン、ボブ・オデンカーク、キャサリン・キーナー
 
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『インヒアレント・ヴァイス』

2018-09-12 | 映画レビュー(い)

アメリカ文学界の巨匠トマス・ピンチョンの『LAヴァイス』をポール・トーマス・アンダーソン監督(以下、PTA)が映画化した本作は近年の巨匠然とした傑作群から一転、サイケな70年代を初期衝動のままに実写化してくれるのではと予想されていた。おちゃらけた探偵ホアキン・フェニックスが富豪誘拐事件に挑むというあらすじからもPTAの師匠ロバート・アルトマンの傑作『ロング・グッドバイ』への本歌取りが感じられ、否が応でも期待が高まった。

だが、今さらPTAはそんな事をする必要はないのである。
編集で物語を作り上げていった『ザ・マスター』のコンテンポラリーさとは対照的に、ピンチョンの小説から一字一句を書き起こしたという本作は当時の風俗から女優の顔まで70年代スタイルを貫き、まるでアルトマンのいた時代に自分が映画を撮っていたらと追体験しているようである。『インヒアレント・ヴァイス』はそんな夢のカリフォルニアを幻視するハッパのような映画なのだ。ビーチの夜闇にネオンのようなタイトルが浮かび上がるオープニングの格好良いこと。そこにジョニー・グリーンウッドのアンビエントな音楽がゆったりと舞い降りてくる瞬間は儚く、美しい。

プロットがやけに複雑で脇道に逸れるのは主人公が薬漬けだからだろう。おまけに本筋に全く絡まないジョアンナ・ニューサムのナレーションが話を引っ掻き回す。『ザ・マスター』で苦悶に顔を歪めていたホアキン・フェニックスがここでは頭がトロトロに溶けた主人公をチャーミングに演じており、堪らない。これまでのPTA映画同様、キャストアンサンブルが最高で、タフガイなのにどこかゲイっぽいジョシュ・ブローリンや、変態歯科医役マーティン・ショートがホアキンと共に笑いを振りまいている。女優陣ではホアキンとの不仲説を一蹴するケミカルを見せたリース・ウィザースプーンもいいが、70年代顔のキャサリン・ウォーターストンが目を引く。この映画のために70年代からタイムスリップしてきたかのような容姿で、本作のムード作りに貢献しいる。

寡作の巨匠の1本としては戯れが過ぎるが、ファンなら何度もキメるべきだ。個人的には初期作のような奔放でエネルギーに満ちた現代劇もそろそろ見たいところだが。


『インヒアレント・ヴァイス』14・米
監督 ポール・トーマス・アンダーソン
出演 ホアキン・フェニック、キャサリン・ウォーターストン、ジョシュ・ブローリン、オーウェン・ウィルソン、リース・ウィザースプーン、ベニチオ・デルトロ、ジェナ・マローン、マーティン・ショート、ジョアンナ・ニューサム
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