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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『犬ヶ島』

2018-06-03 | 映画レビュー(い)

誰にも真似できない、オリジナル過ぎるウェス・アンダーソン監督最新ストップモーションアニメ。
近未来の日本。メガ崎市では犬インフルエンザが蔓延、人への感染を恐れた行政はゴミで埋め立てられた離島へ全ての犬を送り、殺処分とした。主人公アタリ少年は愛犬スポッツを探してこの“犬ヶ島”にやってくるのだが…。

 オフビートなユーモア、アレクサンドル・デスプラが好投するすっとんきょうなスコア、そして細部までこだわり抜かれた美術という“アンダーソン印”はもちろん、とりわけ画面いっぱいにあふれる独自のジャパニーズフューチャーや、犬は英語、人間は日本語を喋るという奇妙な映画世界が楽しい。ボイスキャストには“アンダーソン組”の常連から特に美声の俳優が召集されており、ブライアン・クランストン、ビル・マーレイ、ジェフ・ゴールドブラム、エドワード・ノートン、ボブ・バラバンらデコボコ5匹組のやり取りはこの豪華面子を思い浮かべるだけで可笑しくてしょうがない。さらにはナレーションに『アメリカン・クライム・ストーリー』のコートニー・B・ヴァンス、ヒロイン犬にスカーレット・ヨハンソンと低音域のキャスティングが徹底されており、アンダーソンの耳の良さも楽しめた。

 そして今のアンダーソンにはパペットアニメが余技に終わらない、作家としてのスケール感が備わりつつある。前作『グランド・ブダペスト・ホテル』ではファシズムによって奪われた旧き良きヨーロッパへの憧憬が映画に奥行を与えていたが、本作でも彼は“同時代性”を見失っていない。メガ崎市は犬も喰わぬ汚職に染まり、メディアと政治家の扇動によって犬に対する排外主義が跋扈しているのだ。しかし少年と忠犬だけは(英語と日本語という言葉の壁すら超えて)厚い友情で結ばれている。この箱庭は一見ファンタジーのようでいて今の日本はじめ、世界そのものが映されているのだ。ウェス・アンダーソン、さらなるステージに立った。


『犬ヶ島』18・米、独
監督 ウェス・アンダーソン
出演 ブライアン・クランストン、コーユー・ランキン、エドワード・ノートン、リーヴ・シュライバー、ビル・マーレイ、ボブ・バラバン、ジェフ・ゴールドブラム、スカーレット・ヨハンソン、ティルダ・スウィントン、グレタ・ガーウィグ、コートニー・B・ヴァンス
 
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『インモータルズ 神々の戦い』

2018-04-19 | 映画レビュー(い)

版権料のいらないギリシャ神話に『グラディエーター』や『300』などの戦記モノを掛け合わせ、アメコミ風に仕上げる…そんなハリウッドの企画書が目に浮かぶような1本だが、飽きずに見る事ができるのは監督ターセム・シンによる独自の美意識の御陰である。名コンビとなっていた故石岡瑛子の衣装とターセムのシュールレアリスムが合致すれば、禍々しくも妖しいオーラが立ち上がり、目が離せない。このクセになるような中毒性は長編映画デビュー作『ザ・セル』から健在だ。

そんな映像世界には大見得を切れる役者が似合う。ギリシャ彫刻のような肉体美だが全く面白味のない主演ヘンリー・カヴィルは後に『マン・オブ・スティール』でスーパーマンに起用された。フリーダ・ピントは美の絶頂にあり、ミッキー・ロークも珍しく仕事をしている。そして全能の神ゼウスに扮したルーク・エヴァンスはオーラに満ち、意外なカリスマ性を発揮した。スローモーションを駆使したアクションシーンはザック・スナイダーよりもカッコいいぞ。

 ハリウッドはプログラムピクチャーに新風を吹き込むこの奇才をもっと尊重すべきだ。


『インモータルズ 神々の戦い』11・米
監督 ターセム・シン
出演 ヘンリー・カヴィル、フリーダ・ピント、ルーク・エヴァンス、ミッキー・ローク
 
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『イカロス』

2018-01-25 | 映画レビュー(い)

第90回アカデミー長編ドキュメンタリー賞ノミネート作。
自転車アスリートのブライアン・フォーゲルが自らを被検体として“果たしてドーピングは本当に効果があるのか?”と臨床実験を始める。モーガン・スパーロックの『スーパーサイズ・ミー』よろしくトンデモとしてスタートする本作だが、何の事はなくドーピングはさしたる効果を挙げずに終わってしまう。その過程でアドバイザーとして登場するのがロシアのドーピング検査機関所長グレゴリー・ロドチェンコフだ。彼の話によるとドーピングは容易く検査をくぐり抜けられるものらしい。

それからしばらくして、スポーツ界を揺るがす一大スキャンダルが発覚する。ロシアによる国家主導のドーピング事件だ。そのまさに実行犯として虚偽の検査を行っていたのがグレゴリーだったのである。スポーツ相の指示でやらされた事を告発した彼はフォーゲルを頼って単身渡米。だが身の危険は刻一刻と迫りつつあった…。

真偽のほどはともかく、プーチン政権の怖さは周知の通り。電波少年的バラエティ・ドキュメンタリーは緊迫のポリティカルスリラーへと変貌し、僕らは戦慄する。平昌五輪を前にした本作の時事性にも驚愕だ。

 しかしプーチンは疑惑を逃れ、主導的責任は闇に葬られてしまう。映画は偶発性だけに頼る事なく、オルタナファクトと歴史改竄主義が跋扈する今日、グレゴリーに対し個人攻撃を仕掛ける権力の欺瞞も暴き出す。それは世界との距離を知った主人公フォーゲルの成長の旅路であり、僕たちの目も見開かせるのである。


『イカロス』17・米
監督 ブライアン・フォーゲル
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『イコライザー』

2018-01-24 | 映画レビュー(い)

やややっ、面白い!
昼はホームセンター店員、夜は必殺仕置人デンゼル・ワシントンを描くビジランテ・アクション。
勤務先のホームセンターでDIYな殺人兵器を作り出す劇画的な面白さと、容赦ない暴力描写で悪人共を血祭りに上げるマッシュアップは後ろめたくなるくらいの痛快さがある。精悍でクリーンな若き日のデンゼルではなく、俗っぽいオヤジくささが出てきた今のデンゼルだからこそ成立し得るキャラクターだ。

『トレーニング・デイ』でデンゼルに2度目のオスカーをもたらしたアントワン・フークワ監督は前半の“タメ”を丁寧に描写している。職場では世話焼きな熟練アルバイター、夜はコーヒーショップで読書に耽る不眠症のデンゼル。彼の義憤を呼び起こす少女娼婦役クロエ・グレース=モレッツとの交流がいい。

 続編も期待できる終わり方だが、願わくばデンゼルとガチンコで闘える同等の悪役に登場してもらいたいところだ。


『イコライザー』14・米
監督 アントワン・フークア
出演 デンゼル・ワシントン、マートン・ソーカス、クロエ・グレース=モレッツ、ビル・プルマン、メリッサ・レオ
 
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『IT/イット“それ”が見えたら、終わり。』

2017-11-09 | 映画レビュー(い)

1986年に出版されたスティーヴン・キング原作小説の2度目の映画化となる本作は、ホラー映画の歴代興行収入記録を更新し、批評家からも大絶賛された。1990年に製作されたTVムービー版でも前後編合わせて4時間かかった膨大な原作を主人公らの幼年期に焦点を絞って脚色。さらに原作では1950年代だった設定を1980年代へ変更し、『スタンド・バイ・ミー』に魅了された僕らのノスタルジーをくすぐるようなジュブナイルホラーとして2017年にリメイクされる意味を見出している。もちろん、これはスティーヴン・キング作品にオマージュを捧げたNetflixのオリジナルドラマ『ストレンジャー・シングス』の成功に依る所が大きいだろう。少年達が内なる恐怖を乗り越え、悪鬼ペニー・ワイズと戦うこの一夏の物語は観る者を熱くさせ、奮い立たせるパワーに満ちている。そして永遠の絆で結ばれる彼らの友情に感動するはずだ。

もう1つの成功要因は観客に媚びない作り手の強気なレイティング設定だろう。
 近年、『デッドプール』の成功以後、ハリウッドでは興収目当てにレイティングを下げるよりも、あえてR指定にする事で素材を活かす事を重視。本作では息もつかせぬ恐怖描写の連打で大人もしっかり震え上がらせてくれる。予告編で誰もが目にした男の子と下水溝に潜むペニー・ワイズのシーンでは劇場内が恐怖のあまりに凍り付いた。

アンドレス・ムシェッティ監督の容赦ない恐怖の波状攻撃に晒される子役たちの“めんこさ”は本作最大の魅力だ。
明確に描き分けられた彼らはいつか見た『グーニーズ』や『スタンド・バイ・ミー』のあの子達であり、そして僕らが少年時代に一夏を過ごした友人達に重なる。本作が『ストレンジャー・シングス』のフォロアーである事を強く印象付けるフィン・ウルフハード君の出演が嬉しい。紅一点ベバリー役ソフィア・リリスの可愛らしさも僕らのノスタルジーをくすぐってくれる。

本作の大成功を受けて大人編を描くパート2の製作も決定した。
 子役らが自分を演じて欲しい俳優をメンションする楽しいインタビューも上がっており、ぜひともアベンジャーズ級の豪華キャストを実現してほしいところだ。


『IT/イット“それ”が見えたら、終わり。』17・米
監督 アンドレス・ムシェッティ
出演 ジェイデン・リーベラー、ビル・スカルスガルド、フィン・ウルフハード、ソフィア・リリス
 
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