
“もしもビートルズを知っているのが世界で自分1人だったら...”
世界中の物書きが酔いに任せて一度は考えたであろう企画を『アバウト・タイム』のリチャード・カーティスが臆面もなく脚本にし、『スラムドッグ・ミリオネア』のダニー・ボイル監督が何の創意工夫もなしに映画化した。売れないミュージシャンの主人公ジャックは世界同時停電の夜、交通事故に遭ってしまう。快気祝いにもらったギターをつま弾けば、皆が「いつの間にこんな曲書いたの?」。はぁ「イエスタデイ」なんですけど!
シチェーションコメディとして笑える部分はある。ビートルズが存在しないという事はその影響下にあるカルチャーも存在しないため、オアシスもいなければ何とタバコもなく、さらにはハリーポッターも生まれていないのだ(え、ハリーってジョン・レノンだったのか!?)。本作はビートルズへのラヴレターとも言える作りで嫌な気分にはならないが、想定以上のチャームもなく、ボイルも御年64歳の加齢臭を感じさせる鈍重さである。主人公を献身的に支えるマネージャー役に可憐なリリー・ジェームズが扮するが、同じ音楽バカの天使役なら『ベイビー・ドライバー』のエドガー・ライト監督の方が断然、可愛く撮れていた。そろそろ新たな代表作が必要な時期だろう。
唯一、泣けたのが終盤のある場面だ。ビートルズがなければ“彼は”は64歳をとうに過ぎて78歳になっている!
『イエスタデイ』19・英
監督 ダニー・ボイル
出演 ヒメーシュ・パテル、リリー・ジェームズ、ジョエル・フライ、エド・シーラン、ケイト・マッキノン