長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『バリー』

2018-10-28 | 海外ドラマ(は)



主人公バリーはイラク帰りの元海兵隊員で、今はフリーランスの殺し屋だ。親代わりのフュークスが仕事を斡旋し、マフィアなど"悪人”を始末している。
いわゆる“殺し屋モノ”だがバリーを演じているのがビル・ヘイダーなのでシリアスな雰囲気はない。ヘイダーはサタデー・ナイト・ライブ出身のコメディアンで、映画ではジャド・アパトウ作品などで飛び道具的な扱いの"お笑いの人”だ(本作では脚本、製作も兼任)。
バリーの部屋は雑然としていて、格好も肉体労働者っぽく、何より疲れている。ヘイダーの親しみやすさがバリーに生活感を与えており、僕らと変わりない日常を送る現代人として描かれている。

 『ブレイキング・バッド』も『オザークへようこそ』も裏稼業と表の顔のギャップがブラックなユーモアを生み出していたが、バリーはひょんなことから演劇にハマってしまう。スターダムを夢見て演劇クラスに通う役者志望者達との日々は全く別のドラマを見ているような可笑しさだ。演技の道にのめり込んでいった多くの人達と同様、バリーは自己開放に喜びを見出し、それからちょっと気になる女の子(好感度の高いサラ・ゴールドバーグ)もできて、ついには殺し屋稼業から足を洗おうとする。

前述の2作同様、ドラマの後半では雪だるま式に事態が悪化し、バリーは善悪の彼岸に追い詰められる事になる。でも『バリー』はあくまでブラックコメディとして演出されているから、バリーの命を狙うマフィア連中も底抜けのバカ揃いだ。突発的に挿入されるバイオレンス描写とのギャップに僕らの笑顔が引きつる。

ハイライトは第7話、引用される演目はシェイクスピアの傑作『マクベス』だ。野心に駆られて王を殺害したマクベスはその後、罪の意識から神経衰弱し、破滅へ至る。共犯であるマクベス夫人の自死を聞いての「消えろ、束の間の灯火」というセリフはシェイクスピア作品中でも一、二を争う名台詞だ。劇中劇とバリーの心理がオーバーラップするこのエピソードは物語をより深いレベルへとシフトさせる。人間の持つ善と悪のせめぎ合いという意味では『オザークへようこそ』以上に"ポスト『ブレイキング・バッド』”に相応しいと感じた。

先頃発表されたエミー賞ではコメディ部門でビル・ヘイダーが主演男優賞を、ヘンリー・ウィンクラーが助演男優賞を受賞した。バリーはマクベスの如くさらに手を血で染めてしまうのか?役者としての成長はあるのか?シーズン2が今から楽しみだ。


『バリー』18・米
製作 ビル・ヘイダー
出演 ビル・ヘイダー、ヘンリー・ウィンクラー、サラ・ゴールドバーグ、他

 

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