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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』

2020-01-21 | 映画レビュー(い)

 1862年、気象学者ジェームズ・グレーシャーと気球飛行士アメリア・レンのコンビが最高高度到達記録に挑むアドベンチャードラマ。『博士と彼女のセオリー』で共演したエディ・レッドメインとフェリシティ・ジョーンズが再共演し、気球という畳一枚ほどの限定空間で息の合った演技を披露している。前作でオスカーを獲得したレッドメインは今回見せ場を譲っており、実質上はジョーンズの単独主演。夫を飛行中の事故で亡くしたトラウマを抱えながら、それでも空への冒険心を抑えられないまさに女傑と呼びたくなる人物を快演している。アクションシーンも頼もしく、大作『ローグ・ワン スター・ウォーズ ストーリー』を経て女優としてスケールが大きくなった。

 音楽をスティーヴ・プライスが手掛けており、極限状況からのサバイバル劇という構成もあってかアルフォンソ・キュアロン監督の『ゼロ・グラビティ』を彷彿とする。あくまで台詞と演技だけで主人公の過去を語ったオスカー受賞作に対し、度々回想シーンを挟むトム・ハーパー監督の手際は悪いが、高度数千メートルの世界を描く映像には冒険ものならではのロマンがあり、こうも類似点が多いとサンドラ・ブロックに続けとジョーンズのオスカー候補を期待する声が高まったのも無理はない。

 だが、全米賞レースではかすりもしなかった。本作最大の欠点は1862年にジェームズ・グレーシャーと同乗したのはヘンリー・コックスウェルなる人物で、アメリア・レンは存在しないという事だ。彼女は1819年に飛行中の事故で命を落とした史上初の女性気球飛行士ソフィー・ブランシャールをモデルにした架空の人物というのだ。この映画が#Me too以後の企画である事は大いに想像がつくが、男性の功績を存在しない女性に与えるのは筋違いであり、こんな事は誰も望まないだろう。この事実がどれだけ影響したかはわからないが、比較的有力候補の少ない今年のオスカー主演女優賞レースでジョーンズの名前が呼ばれる事はなかった。


『イントゥ・ザ・スカイ 気球で未来を変えたふたり』19・英
監督 トム・ハーパー
出演 フェリシティ・ジョーンズ、エディ・レッドメイン



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