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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『エクストリーム・ジョブ』

2021-06-05 | 映画レビュー(え)

 これも韓国映画界の好調を示す痛快作だ。本国では2019年に歴代興行収入第1位の大ヒットを記録。落ちこぼれ警官チームが潜入捜査のためにフライドチキン屋を開店すれば、これが予想に反して大繁盛…というシチェーションコメディで、30秒に1発と言っても過言ではないギャグの猛打とお家芸でもあるフィジカルアクションの盛り沢山ぶりに、終始ゲラゲラ笑い通しだった。

 驚かされるのがこんな爆笑編にも関わらず、アクションシーンはしっかり痛覚を刺激するいつもの韓国産バイオレンスがブレンドされている事だ。しかも中盤には”フライドチキン屋”というキーワードであからさまな『ブレイキング・バッド』パロディまで登場。けしからんどころか、国民的大ヒット作が2010年代最重要作に堂々オマージュを捧げているエンタメ民度の高さは正直、羨ましいと言う他ない。そんな所にも韓国映画界の”世界照準”が見て取れるのである。それにしてもフライドチキン、美味そうだな!


『エクストリーム・ジョブ』19・韓
監督 イ・ビョンホン
出演 リュ・スンリョン、イ・ハニ、チン・ソンギュ、イ・ドンフィ、コンミョン、シン・ハギュン、オ・ジョンセ

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『EMMA エマ』

2021-05-30 | 映画レビュー(え)

 ジェーン・オースティン原作、幾度目かの映像化は再演に耐え得る古典の魅力が詰まった好編だ。貴族令嬢エマは気位が高く、周囲の恋愛成就に世話を焼くのが大好きなトラブルメーカー。それでいて他人の気持ちなんてこれっぽっちも理解しておらず、オースティン自身も「私以外、誰も彼女のことを好きにならない」と公言したとか(ちなみに96年版ではグウィネス・パルトロウが演じている!)。寄宿学校に暮らす身寄りのないハリエットと付き合うのも自尊心が先立ってのことだ。エマはハリエットの身分に相応しい相手を見つけようと、お節介にも社交界のマッチングを始める。

 2020年版の見どころの1つは同年、『クイーンズ・ギャンビット』を大ヒットに導いた旬のスター、アニャ・テイラー・ジョイをはじめとする若手俳優陣のアンサンブルだ。Netflixの人気TVシリーズ『セックス・エデュケーション』『ザ・クラウン』から多数が出演しており、ほとんど同じ役所を演じているのが可笑しい。『ザ・クラウン』でコンプレックスの塊であるチャールズ皇太子を演じ、世界中の視聴者を苛立たせたジョシュ・オコナーがここでも難アリなミスター・エルトンをのびのびと演じており、実に楽しげ。『セックス・エデュケーション』でも風変わりな女生徒だったタニヤ・レイノルズはやっぱり浮いているが、クイーンズ・イングリッシュでしっかり貴婦人芝居をしている所に地力の確かさを見た。同じく『セックス〜』組のコナー・スウィンデルズはまたしても不器用な青年に扮し、その切り立った丘陵のような顔は何とも愛らしいではないか。

 主演アニャのフォトジェニックなルックスは英国田園風景とオスカー候補の衣装によく映え、彼女もラブコメディにセンスを見せるが、その才能を思えばまだまだ無難と言ってもいいだろう。エマの高慢さを打ち砕くハリエット役ミア・ゴスの天真爛漫さが愛らしく、彼女のトレードマークでもあるブリーチされた眉毛こそ本作の要である。彼女のパンクなルックスをそのまま時代劇に持ち込んだキャスティングはじめ、本作には現代的な新解釈の数々が施されている。とりわけエマの特権階級ゆえのプライドの高さは過酷な格差社会である2020年の今日、よりえぐ味を放つ。またチャーチルとの婚約をひた隠しにされ、その心を弄ばれるフェアファクス嬢(薄幸美人のアンバー・アンダーソン)は「とても疲れているんです」とこぼし、明らかにメンタルヘルスに不調を来している。”上流”の戯れの陰で”下流”が犠牲になるのは世の常だ。この演出の機知を引き受けられるところにジェーン・オースティンの普遍性がある。

 もちろん、小気味よく楽しめる”元祖ラブコメ”である。きっと数年後にも魅力的な再演が行われることだろう。


『EMMA エマ』20・英
監督 オータム・デ・ワイルド
出演 アニャ・テイラー・ジョイ、ジョニー・フリン、ビル・ナイ、ミア・ゴス、ミランダ・ハート、ジョシュ・オコナー、カラム・ターナー、ルパート・グレイヴス、ジェマ・ウィーラン、アンバー・アンダーソン、タニヤ・レイノルズ、コナー・スウィンデルズ


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『エジソンズ・ゲーム』

2021-05-17 | 映画レビュー(え)

 1880年代、発明王エジソンと実業家ウェスティングハウスの間で繰り広げられた全米送電網を巡る争い”電流戦争”を描いた実録映画。エジソンは直流を、ウェスティングハウスは交流を提唱し、結果はより広範に安定した電力を供給できる後者の勝利に終わる。2人の戦いは醜悪なネガティブキャンペーンへと発展し、交流の危険性を訴えようとしたエジソンは様々な動物に通電させる公開実験を敢行。それは絞首刑に代わる新たな死刑執行を模索していた政府の目に止まり、哀しいかなエジソンは電気椅子の発明家として名を残す事となる。

 高慢な非業の天才役は今やベネディクト・カンバーバッチの十八番。助手役にはスパイディことトム・ホランドが扮し、リアッセンブルが実現した。勝敗の鍵を握るニコラ・テスラ役にはニコラス・ホルトが扮しており、そういえば在りし日のデヴィッド・ボウイがクリストファー・ノーラン監督『プレステージ』で演じたテスラ像は何ともミステリアスでセクシーだったなと頭をよぎった。ウェスティングハウス役マイケル・シャノンの偉大さについては今更言うまでもないだろう。

 しかし、この豪華キャストを持ってしても映画を救うには到っていない。『僕とアールと彼女のさよなら』でブレイクしたアルフォンソ・ゴメス・レホン監督は本作を最後に逮捕された大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインにファイナルカット権を奪われており、日本公開版はワインスタインの逮捕によってようやく実現したディレクターズカット版だという。歴史秘話のダイジェストに過ぎない駆け足のストリーテリングからは既に語る術を見失っていたことが伺える。電流戦争さながらの泥沼ぶりであった製作の裏側にも興味が募った。


『エジソンズ・ゲーム』17・米
監督 アルフォンソ・ゴメス・レホン
出演 ベネディクト・カンバーバッチ、マイケル・シャノン、トム・ホランド、ニコラス・ホルト、キャサリン・ウォーターストン
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『英雄は嘘がお好き』

2021-05-11 | 映画レビュー(え)

 シェイクスピア喜劇風の愉快な1本だ。1809年、ポーリーヌはヌヴィル大尉から求婚を受けるも、彼はナポレオンに召集されて出征。以来便りの1つもなく、失意のポーリーヌは生きる気力を失ってしまう。見かねた姉エリザベットは大尉になりすまし手紙を書き始める。ヌヴィルは波乱万丈の冒険の後、ついに命を落とした…ところが当の本人が生還したからさぁ大変!

 今や知性派映画監督のイメージも強いメラニー・ロランの楽しげなコメディ演技が見ものだ。監督に転身してからというもの『6アンダーグラウンド』など演技への思い切りが良くなった感があり、コメディには一日の長があるジャン・デュジャルダンもたじたじだ。妹ポーリーヌ役ノエミ・エルランも若手女優ならではの活きの良さでキュートな魅力を発揮。『燃ゆる女の肖像』でブレイクした今、こういう役はもうやってくれないだろう。

 ランニングタイムはわずか91分でテンポもすこぶる快調。というか快調すぎていがみ合う2人が急接近した理由も良くわからないが、とやかく言うのは野暮だ。名優たちの好演と潔い結末が楽しい、フランスならではの艶笑劇である。


『英雄は嘘がお好き』18・仏
監督 ローラン・ティラール
出演 メラニー・ロラン、ジャン・デュジャルダン、ノエミ・エルラン

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『エノーラ・ホームズの事件簿』

2020-09-28 | 映画レビュー(え)

 ナンシー・スプリンガーによるYA小説『エノーラ・ホームズの事件簿』シリーズの映画化となる本作は『ストレンジャー・シングス』のミリー・ボビー・ブラウンを主演に迎え、2020年代ならではのアイドル映画として一定の成功を収めている。シャーロックとマイクロフトのホームズ兄弟には歳の離れた妹エノーラがいた…という二次創作で、彼女は母親から自由な精神と格闘技、捜査スキルを叩きこまれた少女探偵だ。人気SFホラーのフロントラインに立つミリー嬢には打ってつけの役柄であり、成長著しい彼女のビクトリア朝ファッションも何とも美しい。『ストレンジャー・シングス』では人体実験を受けたサイキック役のため台詞は少なく、演技力という面ではまだまだ未知数だったが、『フリーバッグ』を手掛けた監督ハリー・ブラッドビアの手ほどきを受けて本作では果敢に第4の壁を突破しまくっているのもいい(これは相当の演技巧者でなければキマらない演出なので、まだまだご愛敬ではあるが)。

 嬉しい驚きはスターバリューでは1つも2つも上となるシャーロック役ヘンリー・カヴィルをマイクロフト役サム・クラフリンが食ってしまった事だ。これまで決め手にかける2枚目俳優、という印象の彼が歳を重ね、この気難しい兄貴役に相応しい貫禄を身に着けていた。

 物語の発端となる母の失踪にサフラジェット運動が示唆されている事や、参政権獲得が大きなプロットポイントになるなど、選挙の年に相応しい時事性も兼ね備えており、初プロデュースも兼ねたミリー嬢には大成功と言っていいだろう。何より男子と女子の立場を定型から入れ替えた役割分担、そして相手役テュークスベリー子爵役ルイス・パートリッジの美少年っぷりはガールズ映画として実に正しい。原作はこれまで5作が刊行されている。ぜひシリーズ化を!


『エノーラ・ホームズの事件簿』20・米
監督 ハリー・ブラッドビア
出演 ミリー・ボビー・ブラウン、ヘンリー・カヴィル、サム・クラフリン、ヘレナ・ボナム・カーター、フィオナ・ショウ、ルイス・パートリッジ
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