長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ユーフォリア/EUPHORIA』

2020-02-21 | 海外ドラマ(ゆ)

冒頭、ゼンデイヤ扮する主人公ルーの“わたしは9.11の3日後に生まれた”というモノローグに「あぁ、今の若者はそういう時代を生きているのか」と気付かされた。彼らは所謂“ジェネレーションZ”世代だ。生まれた時からインターネットが存在する“デジタルネイティブ”を定義する言葉であり、アメリカにおいてはテロ戦争時代に生まれ、オバマを通ってトランプ時代の今に思春期を過ごしているという事でもある。間もなく40歳になろうという筆者には想像もつかない世代だが、決して生き易くない事だけはわかる。

“青春モノ”は今や日進月歩のジャンルだ。2017年にNetflixで製作された『13の理由』は白人専有であったジャンルに多様な人種をキャスティングし、現実の人種構成を“見える化”した。SNS世代の苛め、分断、性暴力、性的マイノリティといったテーマを生々しく描いたこの作品は10代の視聴を禁止する運動を巻き起こす程の社会現象となる。同年、この人種の見える化を映画ではマーベル『スパイダーマン/ホームカミング』が達成し、そこでヒロインMJを演じたのがゼンデイヤであった。

『ユーフォリア』がこのジャンルを更新したか否かの評価はまだ保留としたいが、2年前まで大きなプロットポイントだった同性愛が本作では当たり前に存在している事に新しさを見る。ルーの恋人ジュールズはトランスジェンダーであり、演じるハンター・シェーファーもトランスジェンダーだ(美少女!)。彼女がフィーチャーされる第3話まで何ら説明もなく、登場人物のほとんどが何の違和感もなく受け入れている。ゼンデイヤのハンサムっぷりもあってこの2人は応援したくなるナイスカップルであり、2人が仲良くしているだけの1話を見てみたい。他、シドニー・スウィーニーはじめ若手キャストも皆、好演している。

『ユーフォリア』はラッパーのドレイクがプロデュースを手掛けているという事も話題だが、注目すべきはショーランナーであり、ほぼ全話の監督を務めるサム・レヴィンソンだろう。『レインマン』で知られるバリー・レヴィンソン監督の息子である彼は温厚な父の作風とは全く違う、過激な映画狂だ。目まぐるしく動くカメラ、変色を繰り返すカラーコーディネートや音楽といった狂騒的テンションにマーティン・スコセッシ、アベル・フェラーラ、ニコラス・ローグ、バズ・ラーマン、ポール・トーマス・アンダーソンがあからさまに引用されていく。登場人物が入り乱れるパーティーシーンが多く、中でも第4話の交通整理の巧みさ、群像劇としての高揚とエモーションはptaの『マグノリア』を想起させ、そこからまさかのニコラス・ローグ『赤い影』に流れ込む終幕は圧巻であった。現在34歳、ほとんど姉妹作と言える作風の前作『アサシネーション・ネーション』では東映の71年作『ずべ公番長 ざんげの値打ちもない』まで引用しており、まさに初期衝動のままに撮っている感じがいい。『ユーフォリア』では“わたしのロールモデルは『カジノ』のシャロン・ストーン”と言う女の子が出てくるが、そんな女子高生いるワケない(笑)。完全にレヴィンソンの趣味である。

過剰なまでの虚飾に彩られた若者たちの狂騒を最後まで見続けてしまったのはルーの抱える絶対的な孤独感に共感できたからだ。僕たちはそれがいつか通る道であり、大人になって“治る”ものでない事を知っている。寂しくて寂しくて堪らないルーがドラッグに依存する姿は痛ましい。彼女が真のEUPHORIA(多幸感)に到達できるかはシーズン2を見届けたい。

『ユーフォリア/EUPHORIA』19・米
監督 サム・レヴィンソン、他
出演 ゼンデイヤ、ハンター・シェーファー、ジェイコブ・エローディ、ハービー・フェレイラ、シドニー・スウィーニー、エリック・デイン、エレクサ・デミー、モード・アパトゥ


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