フェロモンは見える。色はピンク系かと思いきや青い。薄い青。それがゆらゆら揺れながら、煙のようで煙の動きではない。自ら意志を持って、風の向きなど関係なく進んで、異性に、あるいは同性に降り掛かっていく。普通のものにはフェロモンは見えないからどのように降り掛かっていくかほとんどのものは知らない。それはある意味で幸運なことだ。もし見えていたとすると、自分の局部やら頭部やら手足がぬめぬめしたものに包まれて包まれて舐められて、気持ち悪いことこの世のものとは思えない。まず正気でいられない。放った方だって、わたしのあれがあんなふうにこらやめろそんなはしたない、と穴があったら入りたくなること間違いない。訓練し、集中力を高めに高めた場合の限って見えるのだ。うっすらと。女王はそれを放ち、多くの働きアリがくらくらしている。働かなければならないのにくらくらさせている。食料を運ばせて元気な子どもをたくさん産まなければならないのにくらくらさせている。自分の力を見せつけるように放つ。意味なく放つ。交尾をするわけではないし、放つことで体力は消耗するのに、意味なく放つ。くらくらなる。何匹かのアリ。女王を囲んでくらくら。フェロモンは踊って、アリを包んで、握りつぶして、丸めて、放り投げる。巣の奥のほう、同じく丸まったアリであった丸いやつがそこいらじゅうにある。
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