リッスン・トゥ・ハー

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きりん座の銀河の中に

2011-01-08 | リッスン・トゥ・ハー
つる子さんが夜空を見ている。
真冬だからずいぶん寒いが、結構たくさんの星が見えるのだと知る。都会も捨てたものじゃない。とあたしは思った。そう口に出したら星が消えてしまいそうだから、ただ思っただけ。身体が冷えてきた。どうして、何にも言わないでつる子さんは夜空を見上げたままなんだろうか。あたしに何か伝えてくれないのだろうか。こんなに寒いなんて全然思わなかったから、あたしは結構薄着だ。コートを含めて3枚しかきていない。こんなに冷えたら、風邪をひいてしまうじゃない、つる子さん、もう行こうよ、と言いたいけれど、一生懸命見上げるつる子さんを見ているとそんなこといえないじゃない。

都会もなかなかやるやん、とつる子さんがつぶやく。え?いや、都会でも星が見えるなんて知らんかったわ。つる子さんはあたしがいとも簡単に、壁を越えてくる。あたしが慎重すぎるのだろうか。きっとそうなのだろう。つる子さんは自由だ。あくまでも自由で、素敵だ。

意外と見えましたね、とあたしは応える。

つる子さんは何にも言わないでまた夜空を見上げている。つる子さんの後ろ姿はちいさくて、切ない。遠くの方でサイレンが聞こえる。これは救急車のサイレンで、あたしは誰かがこの瞬間大変なことになっているのだと想像してしまう。ねえ、つる子さん、そろそろ帰りましょうよ、という言葉を伝えずに、あたしは録画していないテレビ番組が気になっている。夜は、思いのほか長いんだ。


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