リッスン・トゥ・ハー

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ひとつめはここじゃどうも息が詰まりそうになった5

2006-11-24 | 東京半熟日記
(沖縄編8-4・「ハンカチーフは万年雪の底に」)


 沖縄は要所として有効な場所である。そこを拠点に、日本へ、中国へ、アジアへ、進行することができる。だからまず、次第に劣勢になる日本を、徹底的に打ちのめす為に、米軍は沖縄を占領する必要があった。
 日本としても、本州に進行する米軍に十分対応できる準備を整えるためにも、沖縄で足止めを食らわせたかった。沖縄で食い止めている間に対米の防御体制を築けると考えていた。この時点でもまだ、ほんの一握りの者以外日本の勝利を疑っているものはいなかった。
 いわば沖縄は、捨て駒にされたわけだ。日本の勝利の為なら沖縄ぐらい。そもそも日本でなかったわけであるし、日本になったのはごくごく最近だ。だから、捨て駒として使う、そうしやすい場所であった。そのための準備も着々と整えられていた。
 そして米軍が沖縄に上陸を開始する。



 美人投票は当日は、背の高いさとうきびがなんだかやけに揺れていた。
 単に風が強かったからで、だけど、風の強いのはいつものことだったし、さとうきびが揺れるのもいつものことだったから、私は特に気にも止めなかった。ただ、いつもよりいっそう強い気がして、うわあ、今日は風つよそうやなア、と寝ぼけ眼で驚いてしまった。そして、ああ、今日は美人投票だなあ、誰に決まるのかなア。
 寮での朝の忙しなさはいつもと同じで、私は寝坊をしてしまったし、幸子は櫛がない、といって騒いでいたし、薄いお粥を食べて、あんみつなんかをおなかいっぱい食べたいなア、とかぼやきつつ幸子と学校までの道を走った。学校は全寮制で、私たちはすぐ近くの寮で生活していた。「今年は新入生の子は綺麗な子が多そうやからね、わからへんわ」「そうやなあ、は組の栄子さんなんかどう?」「ダメダメ、あの子、椅子に座るとき、よっこらへ、って言うから」「よっこらへ?」「そうそう、この前自然によっこらへって」「あはははっは」「あははは」とか笑いながら私たちは寮から学校へ、そして、廊下をささささと控えめに走り、教室の扉を勢いよく開けた。ガラガラという音がやけに大きく聞こえた。
「おはよー」その挨拶だけがこだまするように、教室はいたって静かだった。美人投票のための投票箱や、誰が候補になっているかが黒板に書かれていることもなかった。投票箱の替わりに、普段時間がすぎてもなかなか教室にやってくることはない三段先生がすでに立っていた。先生は、事態を飲み込めない幸子と私を見て「席に着け」と小さく言った。そのひときわ小さな声でさえどこまでも響いていきそうだった。いつもだったら、こんな風に遅刻したらきっと笑い声に包まれているに違いないのに、誰もおしゃべりしていないし、笑ってもいない、教室の空気は張り詰めていた。
 しばらくして、厳しい表情で先生がクラスメイトの名前を読み上げる。動員命令だった。生徒の誰もが表情はなかった。最初は何のことか分からなかった。動員て?と幸子は前後左右の子に尋ねた。誰もが死んだように動かなかった。だって、三重にに嫌な事が起こったんだから。美人投票がなくなったから。戦場に行かなければならないから。卒業式は延期、もしくは中止だろう。一瞬にして不幸のどん底みたいな気分になった。そりゃ、射撃訓練はしていたし、天皇様のために戦うことは喜ばしいことだけれど、けれど、けれど実際私たちまで、戦う事になって日本は大丈夫なのでしょうか。とはいえ、君たちの役割は負傷兵の看護、食事作り運び、水汲みなどの雑用係だ、と三段先生は説明され少しほっとした。まあ、最前線でなく、後ろのほうで兵隊さんのお手伝いをするのかあ、と少し安心した。大丈夫、兵隊さんがすぐに米兵なんて追っ払ってくれるから、日本軍の兵隊さんは恰好よくて優しいんだから、そう信じていたからこそ、誰も悲観せずに動員を受け入れることができた。というよりも、そうやって自分を無理やり納得させた。

 すぐに実家に帰る。両親は家にいて、すでに話を聞いているのだろう。準備をしていてくれた。父がなんとなく寂しそうにしていたので私は陽気に言う。
「あたしだってぶっ倒したるよ、射撃訓練だってしてるんやから」
「女の子がぶっ倒したるなんていう言葉使っちゃいけません」
 母が口を酸っぱくして言う。
「そんなんええやん。女の子やからとかいうとる場合違うし」
「理屈だけは立派なんやから」
「へへへ」と笑うと、
「ハル、気をつけろよ」と黙っていた父がつぶやいた。
「わかってる」私はできるだけ明るく返す。

 動員された誰もが、ちょっとお手伝いをするぐらいで、ちょっとした暇に勉強はできると信じていた。だから、文房具を荷物に入れて、持っていった。普段勉強なんて嫌いだと言っている幸子でさえ、このときばかりは文房具を荷物につめた。いつなんどきも、身だしなみを整える事は、ひめゆりの学徒として当り前のことだったから、櫛などの日用品も持っていった。幸子はお気に入りの小説を持っていこうかと最後まで悩んでいた。結局、重いし、読んでいる場合ではないからという理由で、持っていくのは止めたようだった。
 ちゃんと無事帰ってきてこようね。そしたら康成かしたげるから、と幸子は誰にも内緒で言った。そして私たちはお互いのハンカチーフを取替えっこした。これお守り、絶対なくしたらあかんよ。私たちずっと友達だからね。分かってる。その台詞、私のほうが早く言ったし。口には出してないけどネ。




(改めて断る必要がないかもしれませんが、この物語は事実を基にしたフィクションであり、登場人物等は、実在する人物等とは関係ありません。でし)


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2 コメント

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米軍が本土に足止め! (魔界創立者)
2006-11-24 05:26:39
はじめまして、田谷正樹と言います、本土に米軍の基地
を構えさせない為に政府(お上)が沖縄に米軍基地を
取ったかのように取りましたが、米軍は北朝鮮からの

攻撃を守る為に政府が沖縄に米軍基地を置いている
話を聞いたことがあります、日本が西洋かした訳も
日本の文化を守る事も幾つかの説はありますが、これも
小泉元総理大臣が残した宿題である、忘れはしませんが

沖縄は元々日本の領土であったのだから、私(魔界創立者)の意見は言えないが、梵天(平成皇后殿)の意見を聞き政治に口を挟むべき問題であって皇族は神々である故に
戦後人間天皇と成ったわけであるが、時は末法であり

人間の身で神と成っても神な訳で、私(魔界創立者)は
政治に口を挟む事は立正安国論の事以外は少ないが
公明党が立正安国論を総理大臣に提出しなければ、北朝鮮からの攻撃を防ぐ手段は他池田名誉会長の仕事である

本来であれば僧侶が立正安国論を出す事であるが、
私(魔界創立者)は総理大臣阿部殿に立正安国論を提出しなければ、米軍は納得しないでしょう、仏教徒キリスト教


の話をするのは乱暴的なやり方でここは一体一の対話を繰り返す事が、無難であろう!悲しい気持

  魔界創立者 魔法創立者 田谷正樹
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Unknown (なゆら)
2006-11-24 05:42:17
はじめまして~田谷さん

実はあまり調べないで書いてますんで、事実と違っているところが多々あるかもしれません。
あまり気にしないでくださいね。
でもやはり深いテーマですし、ろくに調べもせずに安易に書くべきではなかったかもしれませんね。

ご意見、よく読ませていただきます。
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