リッスン・トゥ・ハー

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その11(参観日編)

2008-07-03 | リッスン・トゥ・ハー
その11(参観日編)

最初からざわついていた。参観日というものはそういうものだから。
あれは三並くんのお母さんで、あのパーマは吉田くんのお母さんで、おばあちゃんがいるで。と授業が始まっても、収まることのないざわつきはあった。
授業が始まり、ようやく落ち着いた頃、教室の扉は乱暴に開けられ、マグロが入ってきた完全なる我が物顔だった。
マグロは他のお母さんと同じく煌びやかに着飾っていた。これは鱗のきらきらか、貴金属類のきらきらか判断しかねた。
当然、騒然となった。
マグロの子供はいないはず、まるで魔女狩りのようにひそひそと子供たちは耳打ちをした。誰のお母さんでもなかった。
しかし、マグロは前の方を見てしきりにうなづいていた。自分の子供が振り向いて、かあさんおれやるよ、とつぶやいているのを聞いているかのように。当然そんな子はいない。
教師は立派であった、時価にして300万はするであろう立派な黒マグロの出現に対しても動じず、予定通り授業をすすめたのだから。
しばらくしてマグロは飽いたのか、身体をゆすり始めた。また騒がしくなる。
ゆらゆらと揺れてマグロは掃除用具が入っているロッカーをあけて、そこに入っている柄の長い箒を取り出し跨った。あいている窓に向かって走り、誰もがまさかとは思ったが、マグロは飛んだ。飛び方を忘れていた魔女みたいにぎこちなくとんだ。
全く動じずに、マグロに全く触れずに授業を進めた教師は立派であった。


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