リッスン・トゥ・ハー

春子の日記はこちら

Massachusetts,USA(世界のドア)

2006-11-06 | 若者的字引
Page13

グレーに近い色の白、11というナンバー、黒いランプ、規則的に組まれたレンガ、綺麗に刈りそろえられた芝、苔の生す石の階段、小さめだけど鮮やかなオレンジのかぼちゃ。白とピンクの花。太陽が雲に隠されて影がそういうもの全体を覆っている。ふう、とハンカチーフを手にドア-を開けた婦人。いくぶんふくよかで、しかしその分グラマーで、悩ましい。それを待ち構えていたように、郵便配達の男が通りかかり声をかける。「奥さん、まだ暑いですね」「そうね」敷地内に入る、ふたりは近づく。「これ、届いてますよ」「あら、ありがと」「では」「ええごきげんよう」郵便配達の男が次の届け先へ向かう、それを婦人は見ている。手紙は彼女の手の中。婦人は郵便配達を見つめ続けている、やがて、角を曲がって見えなくなるまで。手紙の内容は読まずとも分かる。愛のメッセージだ。それは郵便配達の男からで、婦人は毎日それを受け取る。日課となっている。どうしようもないことをどちらも互いに知っている。溜息をつく。でもきっと彼は明日も同じ時間にやってきて、同じ手紙を届けてくれるのだろう。そう考えるとほんの少し、楽しくもなる自分がいる、と婦人は苦い安心感を感じている。