俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

生物

2016-01-30 10:47:16 | Weblog
 生物が非生物と異なるのは、成長することと生殖することだと考えていた。非生物においてはエントロピーは増大し続ける。平衡状態に向かうという意味だ。岩は砕かれて石や砂になる。細石(さざれいし)が巌(いわお)となることはなく、そんなことが起こるためには外部からの巨大なエネルギーが必要だ。ところが生物はエントロピーに逆らって成長する。有性生殖する生物だけではなく無性生殖する生物も成長する。もし細胞分裂によって増える生物が成長しなければ個体はどんどん小さくなってしまう。
 次世代を残すということも生命の特徴だ。命を繋ぐことによって約40億年間生き続けている。但し生殖能力が必須であるのは「個」ではなく「群」だ。生殖能力を持たない個体の例は働き蜂など沢山ある。生殖能力能力を持たない個体であっても生物の定義からは外れない。群としてはちゃんと生殖能力が備わっている。
 最近、全く違った条件があることに気付いた。それは自動修復機能を持つということだ。総ての生物には自動修復機能が備わっている。自動修復機能を欠いた生物は総て絶滅しただろう。自動修復機能は生物として生き延びるための絶対条件だ。もし自動修復機能が無ければ掠り傷でさえ致命傷になってしまう。
 かつてダーウィンが自然淘汰に基づく進化論を発表した時、反対論者は目の精密性を根拠にした。これほど精緻で複雑な機能が偶然によって生まれることなどあり得ないと主張した。しかし自動修復機能は目以上に神秘的な機能だろう。人類の文明は未だその足元にも及んでいない。
 総ての生物が自動修復機能を持つが人工物にそんな機能は無い。だから修理やメンテナンスが欠かせない。人類の文明は自動修復機能を備えた機械を発明していない。だから人工物の中で暮らしている人は、あらゆる生物に自動修復機能が備わっていることに気付かない。人が病気や怪我から快復できるのは自然治癒力が働くからであり、医療にはその支援以上のことなどできない。あたかも医療によって治療ができると思い込んでいるのは全く錯覚であり、これが誤った医療の元凶になっている。自然治癒力は目以上に精緻な仕組みだ。この偉大さを理解せずに人体を操作しようとすること、例えば薬によって血圧を下げるような行為は、全体の複雑な仕組みを破壊しかねない。それは素人が改造車を作るようなものであり高速道を逆走するような愚行だろう。改善されることは滅多になく殆んどが改悪になる。自然治癒力を尊重しない医療は必ず有害になる。
 機械に自動修復機能を持たせることは今後の課題だろうが、総ての生物が当たり前のように自動修復機能を備えておりそれが人智を超えるレベルであることを見逃すべきではなく、いかにして自然治癒力を支援するかが現代の医療に可能な最善の仕事だろう。

正反合

2016-01-30 09:51:28 | Weblog
 カントは二律背反によって、2つの命題が対立したまま解決不可能な場合、命題ではなく設問が誤っているとし、理性には無限や永遠について論評する資格が無いと指摘した。
 ヘーゲルの弁証法は楽観的だ。正(テーゼ)と反(アンチテーゼ)の対立を止揚(アウフヘーベン)して合(ジンテーゼ)に至ると考えた。静的なカント哲学に対してヘーゲルの弁証法は動的であり使い勝手が良い。
 最古の弁証法はプラトンの対話篇ではないだろうか。ソクラテスと議論をするソフィストはしばしば魅力的であり中でも「ゴルギアス」に登場するカリクレスの主張はソクラテスの主張よりも興味深い。
 良い議論を通じて思考は深まる。「合」に至れるとは限らないが「反」を理解することによって知恵のレベルが高まる。
 哲学的な問題でなくてもこの手法は有効だ。メリットとデメリットを片っ端から列挙すれば問題点がかなり明らかになる。賛成派の人はメリットに、反対派の人はデメリットにばかり注目したがるものだが、双方の主張を列挙すれば意外な落し所が見つかるかも知れない。これもまた「合」だろう。
 事実を客観的に把握しなければ詭弁術の罠に嵌る。例えば不倫関係に悩む女性はこう考えるかも知れない。「彼のことが好きだが彼には妻子がある。」その一方でこう考えることも可能だ。「彼には妻子があるが私は彼を愛している。」前者であれば不倫を諦めるし後者であれば不倫を続ける。同じ事実に基づきながら結論が正反対になるのはこれが論理として不充分だからだ。論理ではなく感情の叙述に留まっているからだ。こんな考え方に捕らわれていても堂々巡りにしかならない。ここは正と反に分解して弁証法的に考える必要がある。一方には今の関係を続けたいという欲求があり、もう一方には妻子があるという現実がある。これは願望対現実の対立として客観化できる。
 願望と現実の対立を解消する最も簡単な方法は願望を改めることだがそれができないなら現実を改めることになる。勿論、現在や過去の現実を改めることなどできないから未来を変えるために励むという選択肢しか無かろう。そのためには現実を徹底的に分析して可能な未来を構想すべきだ。夫婦の関係、親子の関係、経済事情etc.etc.。個々に事情は異なるからどうなるかは分からないが何らかの結論に至るだろう。
 人は願望に基づいて考え勝ちだ。自分を正当化するための事実ばかりを集めようとする。だからこそ反(アンチテーゼ)に関する理解が欠かせない。反を深く理解して初めて合に至り得る。