俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

成功者

2014-10-10 10:12:43 | Weblog
 成功者は口を揃えて「諦めなくて良かった」と言う。7日にノーベル物理学賞を受賞した3人もそう言う。では諦めないことは成功の秘訣なのか?とんでもない。諦めなかったために失敗した人はその数万倍いるだろう。むしろ諦めることこそ肝腎だ。
 錦織選手にせよイチロー選手にせよ安倍首相にせよ、諦めずに頑張ったからこそ現在の地位を得た。彼らは諦めなかったから成功した。しかしその蔭には無数の無名の選手がおり、権力を失った小沢一郎氏など多数の政治家がいる。毎年、多くのプロ野球選手が一軍の試合に参加することも無くクビになる。
 今年のノーベル賞に導いた窒化ガリウムはたまたま成功したに過ぎず、青色LEDにもっと適した素材が見つかっていたら、拘ったことが失敗の原因になっていた。
 世界のホームラン王の王貞治氏は甲子園の優勝投手だった。もし投手に拘っていればこれほどの大選手にはなれなかっただろう。
 私の周囲には妙に進路を変更した者が多い。工学部を卒業してから医学部に再入学した者など大してユニークではなく、東京芸大を卒業してから医者になった者もいる。かく言う私も浪人になってから理科系から文科系に切り替えた。
 卒業後サラリーマンになったが、それは日本人の半分以上が身を置くサラリーマンの社会を経験したかったからであり、30歳で辞めて医学部を受験するつもりだった。30歳以上になれば失業保険の給付期間が長くなるからだ。それに備えて英語の勉強だけは欠かさなかった。30歳の誕生日に退職願を実際に提出したが、たまたまその時の上司がサラリーマン時代を通じて最も尊敬できる人だったためにあっさり説得されてしまった。嫌な上司であれば聞く耳を持たずに退職していただろう。
 大学浪人や司法試験浪人、あるいはミュージシャンになる夢を諦められない人もいる。大抵の場合、どこかで諦めたほうが良かろう。夢を実現できるのはほんの一部の人に過ぎない。誰もが100mを10秒以内で走れる訳ではない。夢を叶えたごく少数の成功者が自慢げに「諦めるな」と言う度に、不遇に終わる人が増えているのではないだろうか。

危険告知

2014-10-10 09:41:52 | Weblog
 近頃は避難勧告や避難指示が大流行だ。台風なら勿論、多少の大雨でも各自治体は競って避難勧告を出す。これは住民の安全のためよりも責任逃れの色合いが濃い。避難勧告をせずに災害が発生すれば非難されるからだ。無責任な役人による空騒ぎが大半だ。避難勧告をする必要があるほど悪い環境を放置しているのは恥ずべきことだと思うのだが、そんな反省は全く見られない。反省するのは実際に災害が発生した自治体だけだ。
 台風18号では約6万人に避難指示が出され、避難勧告は316万人にも昇るそうだ。しかし予め避難したお蔭で助かったという人は多分一人もいないだろう。住民もそのへんは心得ており、東京都港区では45,000人に避難勧告が出されたが実際に避難所に現れたのはたった6人だったそうだ。既に「狼少年化」しているようだ。
 これほど無視されているし外れっぱなしなのにやめられないのは、実際に災害が発生しているからだろう。しかしこの1年の大きな災害と言えば、昨年11月の伊豆大島、8月の広島市、そして先月の御嶽山だが、どれも警告されなかった災害だ。つまり警告した時には災害は起こらず、警告の無い場所で災害が発生している。的外れの警告しかしていないということだ。まるでボール球にばかり手を出してストライクゾーンの球は見送るヘボ打者のようなものだ。こんな状況では本当に避難が必要な時でも大半の人が避難しないということにもなりかねない。
 悪い前例がある。3日に内閣府食品安全委員会がアクリルアミドを「遺伝毒性をもつ発がん物質」と発表したが、毎日新聞以外は全く報じなかった。多分ここ数年、食の安全に関する与太情報が氾濫していたから無視されたのだろう。
 その一方でたかが漫画の「美味しんぼ」が放射能汚染を扱えば大騒ぎになって、すぐに忘れられる。どうも情報の重大性に対する評価基準が損なわれているようだ。マスコミ全体が週刊誌のように話題追及型になってしまっている。
 危険告知があった場合、マスコミは報じるか報じないかの選択を迫られる。本来なら批判的な註釈を付けた上で報じるという選択肢もあり得るのだがこれは報道責任が問われかねないので滅多に選ばれない。だから報じる時は垂れ流しで、報じない時には端から無視する。これなら責任を問われない。
 薬害においても子宮頸癌ワクチンとカネボウ化粧品の斑肌しか騒がない。市販薬の副作用による死亡事故は無視される。マスコミも官公庁も責任逃れの体質にどっぷりと漬かっているのだから自分で危機管理をせざるを得ない。困った風潮だ。