(参考1) 企業利益vs市民生活 の構図
TPP(環太平洋連携協定)の妥結に不可欠といわれたTPA(オバマ大統領への一括交渉権限付与)法案が米国で可決されたときに「前進だ、前進だ」と言うばかりでなく、議論すべきことがあった。この顛末は、米国全体がTPPを推進しているわけではまったくなく、TPPを推進しているのは誰なのか、ということを改めて思い知らせた。
TPA法案は、下院で実質的に一度は否決されたが、法案を分解して再採決する動議がわずか1票差で上院を通って、結果的に可決された。下院では、オバマ大統領の与党の民主党のほとんどはTPAとTPPに反対で、逆に野党の共和党の大半が賛成だから、TPAへの反対と賛成は、ほぼ200票ずつで拮抗し、10票以内の僅差で可決された。官邸の方向性に絶対服従の大政翼賛会のような某国の与党とは別世界で、米国のほうが、よほど民主主義的である。
米国では、文字通り、国論を二分した対立になっている。TPPを推進しているという米国でさえ、これほどTPP反対の声が強いということは、TPPが無条件に絶賛するような代物では到底ないことの証左だと改めて日本国民が認識すべきなのに、逆にTPA成立のために日本政府が億単位の資金をロビイストに投じて反対派議員の説得工作を行った。
そもそも、米国議会では、すでに2013年12月の米国下院の一般演説で、民主党議員の中から、「NAFTA(北米自由貿易協定)により全米で500万人が製造業での雇用を失った。米国労働者の利益よりもグローバル企業の利益を優先している。」(ポーカン議員)、「議会における我々の仕事は、ここに我々を送ってくれた人達を代表することだ。自社の利益幅を拡大するために、できるだけ安い労働力を見つけたいとする企業やCEO(最高経営責任者)の利益を代表するのは我々の仕事ではない。」(デローロ議員)などの声が挙がっていた。
つまり、TPPは、「米国対日本」というような国家間の対立ではなく、「多国籍企業経営陣」(の形成するムラ)対「市民」の対立、「せめぎ合い」なのである。米国では、「回転ドア」の人事で政府は巨大企業の経営陣に「乗っ取られ」ている。共和党は、選挙資金で大企業と結び付いている。それを支える経済学がシカゴ学派である。経済学ほど政治的な学問はない。かたや、大企業の利益のために「収奪」される市民や労働者の労働組合や、環境が疎かにされるのを心配する環境団体などが民主党を頼りにしているから、民主党は市民の権利と生活を守る代表としてTPPに反対する。こちらに近い理論を展開するのが、ノーベル経済学賞を受賞したスティグリッツやクルーグマン教授である。
経済同友会の幹部の方も先日話していたが、いまや企業は国を超えた範囲でビジネスを展開しているから、企業の利益とその国ないし国民の利益には乖離が生じている。例えば、日本でいえば、世界一の自動車メーカーがTPPで利益を得たとしても、多くの工場はすでに海外にあり、さらに、その流れが進むとすれば、それは日本国民には還元されない利益であり、日本国民の雇用の場はむしろ減少する。巨大企業と連携してきた関連企業の経営環境も悪化するだろう。
オバマ大統領がTPP妥結への姿勢を強めた最大の理由の一つが中国主導のAIIB(アジアインフラ投資銀行)であるが、ここにも多国籍企業の利益が絡んでいる。米国が事実上、米国発の多国籍企業が途上国から利益を得るために活用してきた世界銀行とIMF(国際通貨基金)による「収奪」体制がAIIBによって崩される心配がある。米国は世銀やIMFの融資の条件として米国企業に有利な規制緩和やルール改変(関税・補助金・最低賃金の撤廃、教育無料制・食料増産政策の廃止、農業技術普及組織・農民組織の解体など)を強いてきたからである。TPPで米国企業によるアジア諸国からの「収奪」を一層し易くしようとしているところに、AIIBによって、それに逆行する流れが作られることは阻止したい。「アジアのルールは米国がつくる」というオバマ大統領の不遜極まりない発言は、そういうことである。
米国の穀物メジャーになどよる自己利益のための開発政策から脱却し、真に途上国の農民の貧困削減につながる開発援助投資が行えるように、中国・ロシア・インドなどの新興国が中心となってAIIBを立ち上げた側面も認識すべきである。これ以上、思考停止的に、中国にはむやみに対抗し、一方で、米国には盲目的に追従する姿勢を続けることでは、最終的にはどこからも見放されて孤立し、日本の国民を守ることはできない。
TPP(環太平洋連携協定)の妥結に不可欠といわれたTPA(オバマ大統領への一括交渉権限付与)法案が米国で可決されたときに「前進だ、前進だ」と言うばかりでなく、議論すべきことがあった。この顛末は、米国全体がTPPを推進しているわけではまったくなく、TPPを推進しているのは誰なのか、ということを改めて思い知らせた。
TPA法案は、下院で実質的に一度は否決されたが、法案を分解して再採決する動議がわずか1票差で上院を通って、結果的に可決された。下院では、オバマ大統領の与党の民主党のほとんどはTPAとTPPに反対で、逆に野党の共和党の大半が賛成だから、TPAへの反対と賛成は、ほぼ200票ずつで拮抗し、10票以内の僅差で可決された。官邸の方向性に絶対服従の大政翼賛会のような某国の与党とは別世界で、米国のほうが、よほど民主主義的である。
米国では、文字通り、国論を二分した対立になっている。TPPを推進しているという米国でさえ、これほどTPP反対の声が強いということは、TPPが無条件に絶賛するような代物では到底ないことの証左だと改めて日本国民が認識すべきなのに、逆にTPA成立のために日本政府が億単位の資金をロビイストに投じて反対派議員の説得工作を行った。
そもそも、米国議会では、すでに2013年12月の米国下院の一般演説で、民主党議員の中から、「NAFTA(北米自由貿易協定)により全米で500万人が製造業での雇用を失った。米国労働者の利益よりもグローバル企業の利益を優先している。」(ポーカン議員)、「議会における我々の仕事は、ここに我々を送ってくれた人達を代表することだ。自社の利益幅を拡大するために、できるだけ安い労働力を見つけたいとする企業やCEO(最高経営責任者)の利益を代表するのは我々の仕事ではない。」(デローロ議員)などの声が挙がっていた。
つまり、TPPは、「米国対日本」というような国家間の対立ではなく、「多国籍企業経営陣」(の形成するムラ)対「市民」の対立、「せめぎ合い」なのである。米国では、「回転ドア」の人事で政府は巨大企業の経営陣に「乗っ取られ」ている。共和党は、選挙資金で大企業と結び付いている。それを支える経済学がシカゴ学派である。経済学ほど政治的な学問はない。かたや、大企業の利益のために「収奪」される市民や労働者の労働組合や、環境が疎かにされるのを心配する環境団体などが民主党を頼りにしているから、民主党は市民の権利と生活を守る代表としてTPPに反対する。こちらに近い理論を展開するのが、ノーベル経済学賞を受賞したスティグリッツやクルーグマン教授である。
経済同友会の幹部の方も先日話していたが、いまや企業は国を超えた範囲でビジネスを展開しているから、企業の利益とその国ないし国民の利益には乖離が生じている。例えば、日本でいえば、世界一の自動車メーカーがTPPで利益を得たとしても、多くの工場はすでに海外にあり、さらに、その流れが進むとすれば、それは日本国民には還元されない利益であり、日本国民の雇用の場はむしろ減少する。巨大企業と連携してきた関連企業の経営環境も悪化するだろう。
オバマ大統領がTPP妥結への姿勢を強めた最大の理由の一つが中国主導のAIIB(アジアインフラ投資銀行)であるが、ここにも多国籍企業の利益が絡んでいる。米国が事実上、米国発の多国籍企業が途上国から利益を得るために活用してきた世界銀行とIMF(国際通貨基金)による「収奪」体制がAIIBによって崩される心配がある。米国は世銀やIMFの融資の条件として米国企業に有利な規制緩和やルール改変(関税・補助金・最低賃金の撤廃、教育無料制・食料増産政策の廃止、農業技術普及組織・農民組織の解体など)を強いてきたからである。TPPで米国企業によるアジア諸国からの「収奪」を一層し易くしようとしているところに、AIIBによって、それに逆行する流れが作られることは阻止したい。「アジアのルールは米国がつくる」というオバマ大統領の不遜極まりない発言は、そういうことである。
米国の穀物メジャーになどよる自己利益のための開発政策から脱却し、真に途上国の農民の貧困削減につながる開発援助投資が行えるように、中国・ロシア・インドなどの新興国が中心となってAIIBを立ち上げた側面も認識すべきである。これ以上、思考停止的に、中国にはむやみに対抗し、一方で、米国には盲目的に追従する姿勢を続けることでは、最終的にはどこからも見放されて孤立し、日本の国民を守ることはできない。