身代は ボタンインコと 月明かり 夢詩香
*学校を卒業してからしばらく、県外で働いていたことがありました。
見知らぬ土地で、一人で暮らすのが寂しくて、ペット屋さんに行って、小さなインコを買ったのです。初めてもらった給料で、一番先に買った自分のものがそれ。鳥かごと、餌といっしょに、1歳くらいのかわいいキエリクロボタンインコを買いました。
ほんとはセキセイにしようと思ってたんだけど、ペット屋さんであの小鳥を見た途端にほしくなって、予定より高くついたけど、買ってしまった。
若いころなんて、威勢がいいけど、ほんとは何も持っていない。自分の財産と言えるものなんて、ほんと、あのインコだけだった。
当時流行ってたアニメのキャラの名前をつけて、かわいがっていました。
県外で働くのは、予想以上につらくて、わたしはすぐに挫折して、故郷に帰りました。故郷に向かう新幹線に、鳥かごを持って乗った。田舎に戻って、子供のころから知ってる風景を見たとき、なんだか染みるほどうれしかったことを覚えている。
それからしばらくして、地元で働き口を見つけて、その時出会った夫と結婚して、お嫁に行くときも、インコを連れていきました。ずっといっしょだった。
でもある日、家の掃除をしようと、しばらく鳥かごを外に出して置いたら、そのすきに猫に襲われたらしくて。気づいたら、かごが下に落ちていて、もうインコはいなかった。食べられてしまったのか、それとも空に逃げてしまったのか。あれっきりわからない。
妙に突っ張ってて、友達が少なかったあの頃のわたしにとって、一番の暖かい友達だった。だから今でもはっきり覚えている。