マダム・クニコの映画解体新書

コピーライターが、現代思想とフェミニズムの視点で分析する、ひと味違う映画評。ネタバレ注意!

だんらんにっぽんー南医療生協の奇跡/偉大なる名古屋名物

2012-06-22 | 映画分析
 友人の武重邦夫プロデューサー(高校の同期生で今村昌平の愛弟子)が企画製作した、名古屋市の南医療生協を描くドキュメンタリー映画が、6月29日(金)まで、10:00~1回のみ、名古屋の名演小劇場で上映中だ。
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 南医療生協は、1959年の伊勢湾台風の被害者約300名が、「自分たちの命は自分たちで守ろう」と出資して61年に設立。総合病院や高齢者施設などを次々と開設し、現在、組合員は6万人を超える。私もその1人で、未来を先取りして自分たちで作ったこの組織に愛着がある。

 監督は『いのちの作法』で、キネ旬文化映画賞ベストテンに輝いた小池征人。『葦牙』に続く”いのち”3部作の総集編になる。
 
 友人が製作したことと、私自身が組合員であることなどが相まって、至福の2時間鑑賞の旅をした。全ての地域住民が願う、理想的な有縁社会のありようをカタチにした女性たちのパワーに圧倒される。

たとえば、行き場所のなかった認知症の人たちのために、”環境が整えば普通に生活できる”との信念のもと、住民が資金を出し合ってグループホームをつくってしまう。ここでは、介助者が一人一人に寄り添い、心を支えることで、利用者は炊事、洗濯、掃除を自分たちでこなすまでになった。

また、東海市にある「生協のんびり村」は、地域の人たちが気楽に出入りできる開放的な多目的複合施設が6つあり、21世紀の新しい村づくりのモデルとなっている。

映画好きの私が感銘したのは、全身の筋肉が弱くなる重度の患者が、人工呼吸器を着けて、3人の付き添いとともにシネコンで好きな作品を鑑賞するシーン。地域の施設は地域の要望を住民と力を合わせて実現する・・・。患者の満足そうな笑顔が私まで幸せにしてくれた。

 会員の私も知らなかった南医療生協の活動ぶりをつぶさに理解することができた。すごい団体だなあと、改めて驚いている。

 欲を言えば、私が日常的に利用している診療所や総合病院での取り組みをもっと出してほしかった。大半の人がそれらの施設のみを利用しており、医師との対等な関係やきめ細かい予防医療など、一般病院との明確な差別化を評価しているからだ。
 
 いずれにしても、ユートピアの実現を自分たちの力で獲得した住民たちの明るい表情がいい。諦めないで私たちでもこんなことができるのだ、と勇気を与えてくれる。
 大震災を福に転じた南医療生協の活動は、世界へ発信できる”偉大なる名古屋名物”のひとつであることは間違いない。
 地味だが心温まるすばらしい内容だ。3.11後の私たちの生き方に、アイデアいっぱいの提案が詰まっている。全国民必見の作品といえよう。
 
なお、6月10日付けの中日新聞社説で、本作が取り上げられ、大きな評価を得ていることも伝えておきたい。
★★★★(★5つで満点)

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