マダム・クニコの映画解体新書

コピーライターが、現代思想とフェミニズムの視点で分析する、ひと味違う映画評。ネタバレ注意!

海街diary/反復可能性

2015-07-12 | 映画分析
2015年 日本 是枝裕和監督

小津作品を彷彿させる美しい姉妹の物語。
3人姉妹の中に突然飛び込んできた異母妹によって、不在の両親をめぐる愛憎が次第に鮮明にる。
そのプロセスが、鎌倉の古い屋敷と四季の風物詩を舞台に、俯瞰の多いカットで緩やかに描かれる。


葬儀に始まり、葬儀で終わる。
途中にも法要があり、極楽寺のアジサイや、サクラのトンネルが死者からのメッセージを伝えている。
「死を意識して、今を大切に生きよ」と。

自然体で日常を切り取っているので、等身大のような共感を持つ。

その一方で強い違和感もある。
例えば、父の葬儀の日に、初めて会ったばかりの異母妹との同居を、唐突に提案する長女。
それをすんなりと受け入れ、素直で、礼儀正しく、隙のない優等生すぎる異母妹。
ほとんど交流のない、再婚した母の不意打ち訪問と家屋売却の提案。
3人姉妹&異母妹との異常なほどの蜜月の日々。
長女の不倫とその決着のつけ方。
知人の死を巡る姉妹の関わり方の偶然性…。

まるで絵に描いたような伏線や予定調和の演出が鼻につく。
異母妹は、狂言回しの役割のはずだが、状況を箱庭的に固めるだけである。

食べ物が家族の絆として重要なツールとなっている。
父のしらす、母のカレーライス、祖母の梅酒、糠づけ、知人の店のアジフライなどが、繰り返し登場するが、くどすぎる。
そうした食べ物に加えて、父と長女、母と次女、鎌倉と父の住んでいた山形の風景の相似性…。

反復可能性がテーマなのだろう。
人は痕跡を上書きしながら生きているのだから。

悪人が登場せず、全てがきれいごとすぎる。
女性に結婚や子供を押し付ける、古めかしい価値観が垣間見られ、不快になる。
もっと泥臭い葛藤があってこその大団円を観たい。
★★★(5つで満点)
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