マダム・クニコの映画解体新書

コピーライターが、現代思想とフェミニズムの視点で分析する、ひと味違う映画評。ネタバレ注意!

ヤクザと憲法/善か、悪か?

2016-01-30 | 映画分析
2015年、日本、圡方宏史監督
ドキュメンタリーで実績のある東海テレビのクルーが、大阪の組事務所に密着取材100日間。モザイクなしで、ヤクザの日常を撮った貴重な作品だ。
テレビ放映で話題になり、今回、劇場用に編集。名古屋と東京で公開中。

二度と撮れないだろう、永久に残る名作、といわれている。
怖いもの観たさ以外の理由はない私。

ヤクザは今や絶滅危惧種だ。
法律や条例が厳しいので、年々稼ぎは少なくなるし、普通の生活がしにくくなっている。
足を洗う組員は多く、新規に加わる者は減っている。

彼らはいかに普通で、いかに浮いているか…。
その一つひとつに興味津々。

大部屋の本棚にずらりと並んでいるのは、ムショでの差し入れ本。もちろん俠客ものが多いが、動物の写真集など和み系もあって、頬が緩む。

「ケーサツは守ってくれへん」と、組に絶対の信頼を置く新世界のオバチャン。
「わい選挙権なしや」と悲しそうな在日の組員。
職を失い、妻子と別れ、「誰も助けてくれず、兄貴に拾って貰った」と、恩義に応える子分。
「嫌な奴も排除しない世の中になれば、学校でのイジメも無くなるのでは?」と、ヤクザに存在意義を見出す21歳の部屋住み。

ガサ入れや取引、リンチなどのシーンもあり、非常にスリリング。
加えて笑えるし、切なくて、ちょっと眠くなるようなゆるさもある。

何よりのお得感は、俳優顔負けのカッコいい親分の存在だ。
彼が登場するだけで、画面が引き締まる。

殺人罪などで15年のムショ暮らしを終えたばかり。暴対法は、彼が起こした「キャッツアイ事件」がきっかけという。

山口組顧問弁護士と組との関わりも興味深い。きっかけや末路に至るプロセス、弁護士集団の仲間意識などに驚く。

彼は黒門市場の貧しい魚屋の次男坊だ。組員たちの生い立ちに共感を抱き、「アウトローのエネルギーに惹かれる」と言う。

妻子とは不仲で、自分の事務所で寝泊まりし、コンビニ弁当の買い出しが日課だ。
顧客も減り、かつては5人いた事務員も今は1人しかいない。
老化も加速している。
それでも、「あの世界への興味が勝つ」と苦笑する。

親分は「我々は葬儀場も宅急便も使えず、銀行口座も開設不可、保険にも入れない。学校給食費を振り込めないので、子供が教師に手渡しするのが不憫だ」と、憲法の下の不平等を訴える。

組員も顧問弁護士も、理不尽な理由で逮捕され、拘束される…。
ヤクザの人権を守れ、という訳だ。

江戸時代の火消しがルーツといわれるヤクザ。
かつては、賭博や祭りの露天商を仕切ってしのぎとしていたが、今はクスリや詐欺などに変質化し、大きな社会問題となっている。

アウトローには共感できないが、権力側にも賛成できない。

何が善で、何が悪か?

今まで考えたこともなかった問題を突きつけられた。
興味本位で観たが、思いの外、深い問題提起となっている。
★★ ★★(★5つで満点)

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