で、ロードショーでは、どうでしょう? 第1512回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『オーファンズ・ブルース』
ある病に苦悩する女性が、幼なじみの男性を探す旅路を描くロード・ムービー。
第40回ぴあフィルムフェスティバルにて、グランプリとひかりTV賞の2冠を果たした。
主演は、『赤い玉、』、『クマ・エロヒーム』の村上由規乃。
監督・脚本は、工藤梨穂。
京都造形芸術大学映画学科の卒業制作で、キャストも俳優科の学生から多く起用されている。
物語。
今年の夏はやけに暑い。
エマは古本やダビングしたカセットテープを路上で売って暮らしている。
エマは、ある病を抱えており、秘密のノートが手放せない。
そんな彼女のもとに、幼なじみヤンから象の絵が届く。消印を手がかりにヤンを探す旅に出たエマは、ヤンの弟バンと再会する。バンは彼女ユリとバカンスに出ようとしていた。エマがヤンのことを知っているある家を訪ねると聞き、三人で途中まで旅することに。
出演。
村上由規乃が、エマ。
上川拓郎が、バン。
辻凪子が、ユリ。
窪瀬環が、ルカ。
佐々木詩音が、アキ。
吉井優が、ヤン。
村上弘子
スタッフ。
撮影は、谷村咲貴。
照明は、大崎和。
録音は、佐古瑞季。
美術は、柳芽似、プロムムアン・ソムチャイ。
衣装は、西田伸子。
メイクは、岡本まりの。
助監督は、遠藤海里、小森ちひろ。
制作は、池田有宇真、谷澤亮。
編集は、工藤梨穂、村上由規乃。
ある病に苦悩する女性が幼なじみの男性を探す旅路を描くロードムービー。
無国籍と時代性を曖昧にし、物語は寓話化していくが、役者陣と艶めかしく汗滴る撮影によって、生々しさを纏う。
切れ切れの編集はある一つの視点が映画全体を貫いているからこそ。人の出し入れまでそれをなぞる。映画的な話法による世界系に到達する。
村上由規乃の毛穴から零れる実感、上川拓郎の薄皮、辻凪子の肉汁。
被服を端切れ皮膚が溶かすように透過してくる。背中で記憶を反射する。過去からの光をなぞる指で今に溺れる。
台湾ニューウェーブや返還前の香港の香り。
このベットリな湿気に冷気を求める向きもあるだろう。
若げの至りが老げを得たりか、さまざまな映画からの引用が多くのフィルターによって、オリジナルになっている。
「ねぇ、お願いこっち向いて」と書いて掻いて欠いて汗かいてる肌作。
おまけ。
英語題は、『ORPHANS'BLUES』。
『孤児のブルーズ』。
上映時間は、89分。
製作国は、日本。
キャッチコピーは、「永遠の夏に、彼らは光を呼吸する。」。
珍しい映画の内容というよりシーンを詩的表現したものだが、良くも悪くも詩的な酔いを感じ。
映画のスタイルを映しているわけでもないし。
とりあえず、6/6(木)までテアトル新宿で上映中。
スクリーンに映える画面ですので、見る機会があれば、ぜひ。
彼らの次を目にするのが楽しみ。
邦画の砂漠に緑の絨毯のような豊作の若手たちがいかな実をつけるのだろうか。
ネタバレ。
エマが若年性のアルツハイマーであることは、最初の20分かけて丁寧に描写し、それを映したかのような編集、そして、当然現われてはふわっと消えていく人物たちがまるで彼女の脳の記憶状態のように描かれる。
一か所にグッと集まって、離散するを繰り返すことで、過去でもそれがったことを想起させる。
それは、エマの露店から、縁日ですでに現われており、クラブ、追手、ヤンと妻の家、古物屋、商店街の道すがらの出会い、実際の人物だけでなく環境でも重ねられる。
夜の停電も、まさに集められた光が闇で離散した状態とも言える。そして、それは懐中電灯という光で集束される。
昼間の光も鏡や8cmCDによって集束される。
暮らしてきて染みついた経験が、一時の喜びの思い出に変わるようだ。
普段は散らされている感情がふっとある瞬間、噴火してしまうバンの癖もまた同じか。
埋められて見つからないタイムカプセルは、まるでそれでも残っている記憶をまんま映している
「風が吹けば桶屋が儲かる」型のモンタージュで、過程を省くことで、物語を記憶のように点描する。
撮影の谷村くんは、自作『かく恋慕』で撮影助手を務めてくれています。