で、ロードショーでは、どうでしょう? 第2183回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『シャドウプレイ』【完全版】
2000年代のある開発事業の担当者の死を追う刑事が、ある家族の関係が蛇のように絡みつかれ、追い込まれていくミステリー・アクション・サスペンス。
実在の事件をベースに、時代を渡り、男女の闇と中国の闇を暴き出す。
監督は、『天安門、恋人たち』、『スプリング・フィーバー』のロウ・イエ。
主演は、中国の人気俳優ジン・ボーラン。
共演は、野心家の不動産会社社長ジャンにロウ・イエ組常連のチン・ハオ、夫のタンを失ったリンに『SHOCK WAVE ショック・ウェイブ 爆弾処理班』のソン・ジア。
2018年版は、中国当局の検閲によりカットせざるを得なかったが、ついに【完全版】が公開された。
カットされていた香港の人気俳優エディソン・チャンの出演シーンも戻されている。
物語。
2013年、広州の再開発地区での開発内容をめぐり、住民の暴動が起こる。
その夜、地元出身の開発責任者タンが屋上から転落死する。
事故か他殺か、若手刑事ヤンは、まずはタンの家族まわりを妻リンと娘ヌオを探る。
捜査線上に浮かんできたのは、不動産開発会社社長ジャンの過去だった。それはkレの元ビジネスパートナーのアユンの失踪事件で、ヤンの元に、そのアユンがタンを殺したのではないかという情報が入ってきたのだ。
転落死と失踪、2つの事件の根は、ジャンと死亡したタン、タンの妻のリンが出会った1989年にあった。
脚本:メイ・フォン、チウ・ユージエ、マー・インリー
出演。
ジン・ボーラン (ヤン・ジャートン/刑事)
ソン・ジア (リン・ホイ/妻)
チン・ハオ (ジャン・ツーチョン/社長)
マー・スーチュン (ヌオ/娘)
チャン・ソンウェン (タン・イージエ/主任)
ミシェル・チェン (リエン・アユン/社員)
エディソン・チャン (アレックス/探偵)
スタッフ。
製作:ナイ・アン、ロウ・イエ、イー・ジア
撮影:ジェイク・ポロック
プロダクションデザイン:チェン・ゾン
編集:リン・シュー
音楽:ヨハン・ヨハンソン&ヨナス・コルストロプ
『シャドウプレイ』【完全版】を鑑賞。
2013年中国、再開発騒動の中、担当者の死の謎を追う刑事が、過去の愛と欲望に絡み取られていくミステリー・アクション・サスペンス。
中国の実際の事件の裏を、中国の闇とある家族の影で虚構として描くことで、検閲を逃れながら、暴き出す。
だって、監督は、『天安門、恋人たち』で捕まったロウ・イエなので。娯楽大作は久しぶりで、そこにまた告発的な内容が含まれ、社会派エンターテインメントになっている。中国当局の検閲でカットされたシーンを加えた129分の完全版(でも、以前の番はただ切られただけの125分だが、本来の見せたいテーマを削られていたことがなんとなくわかる)。
膨大な量の時間軸とドラマチックで、乗らないで観る人の脳を痺れさせ、楽しんで観る人の脳をぐるぐる回転させる。がっつり中国批判してるけど、劇的なので、そこじゃない気がしてくる。こういう戦い方もある。(なので、妻による今作のメイキング映画も同時公開になっている)
主演は、中国の人気俳優ジン・ボーランで、見目麗しく、アクション激しく、この素早い編集の中で際立っているという意味でも活きている。カリスマを見せるのは、ロウ・イエ組常連の『空海―KU-KAI― 美しき王妃の謎』のチン・ハオで、このうさんくささは流石。花とミステリアスを与えるのは『SHOCK WAVE ショック・ウェイブ 爆弾処理班』のソン・ジア、『あの頃、君を追いかけた』のミシェル・チェン、『ソウルメイト/七月と安生』のマー・スーチュンで、3タイプの美女。美は闇深くもさせるのよね。そこに、さらに闇深くさせもする、スパイスの『インファナル・アフェア』のエディソン・チャン。でも、見せ場は、チャン・ソンウェンの陰陽だったり。
美学を持った躍動のカメラはノワールの一撃。
スピード感あふれまくりの凝った編集技術は、400頁の長編小説を余すことなくまるまる実写化したかのような大ボリュームをエネルギーに。20数年の大河を見せ切る。これ最近、韓国映画『警察の血』でも近いことやってたけど、また全然違うので、編集の妙味を楽しめる。
ミステリー自体は王道ですが、その語りでのめり込ませてくれます。
音楽は、『メッセージ』、『ボーダーライン』のヨハン・ヨハンソンとタッグを組むヨナス・コルストロプのコンビ。(ヨハン・ヨハンソンは2018年逝去なので今作は遺作の一つ)
00年代バブル中国に、90年代の乱れる香港と揺れる台湾、画面も豪華。
銭金の魔力、愛憎の泥沼、親子の情念、性欲の本能、職業の矜持、郷土の執着と劇的ドラマチックで泥臭さマッドな粋スタイリッシュのバラ肉の揚げ浸し。
そうそう、原題がまたグッとくるのよね。『風中有朶雨做的雲』で、訳せば『風の中の、雨でできた雲』。風は国か時代か、雨は愛か涙か、なら雲は……。「シャドウプレイ」は「影絵遊び」ですね。光と物と影絵と3つの関係は原題と同じですね。
つくりも、上質なる話と画と音の黄金トライアングル。
アクションもポイントポイントですが、「あっ」と声の出る金のかかったパワフル具合。香港映画や韓国映画のそれの極上アクションをちゃんと取り入れてるのよね。こういうのが満足感になるのよ。
三層の性金愛の義作。
おまけ。
原題は、『風中有朶雨做的雲』。
『風の中にある、雨がつくった雲』。
英語題は、『THE SHADOW PLAY』。
『影遊び』。
2018年の作品。
製作国:中国
上映時間:129分
検閲版は125分で、完全版は129分。
配給:アップリンク
ロウ・イエの妻の マー・インリーが監督した今作のメイキング映画『夢の裏側~ドキュメンタリー・オン・シャドウプレイ』(2019)(94分)も同時期に公開されている。こちらも評判がいいですね。
こちらは、見れてないのです。
妻によるメイキングと言えば、エレノア・コッポラの『ハート・オブ・ダークネス/コッポラの黙示録』、リヴ・コーフィックセンの『マイ・ライフ・ディレクテッド・バイ・ニコラス・ウィンディング・レフン』がありますね。
ネタバレ。
チン・ハオは、チャン・チェンに、より似てきましたね。