で、ロードショーでは、どうでしょう? 第1812回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『ハッピー・オールド・イヤー』
女性デザイナーが実家を断捨離整理する中で過去の自分と向き合う姿を描いたドラマ。
世界的にヒットしたタイ映画『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』の主演女優チュティモン・ジョンジャルーンスックジンとその製作スタジオ"GDH559"とが再タッグを組んだタイ映画。
監督と脚本は、『マリー・イズ・ハッピー』などで国際的に注目を集めるタイの俊英ナワポン・タムロンラタナリット。
物語。
デザイナーのジーンはスウェーデンに留学し、ミニマルなライフスタイルを学んでミニマリストとなってタイに帰国した。
かつて父が営んでいた楽器店兼実家の小さなビルには、父を忘れられない母や自作の服をネット販売する兄が暮らしているが、ジーンは全面リフォームしようと兄を説得する。
兄妹はモノに溢れた家の断捨離を開始する。
洋服、レコード、楽器、写真など片付いていく部屋に反比例して様々な思い出が溢れ出し、ジーンの心は乱れていく。
出演。
チュティモン・ジョンジャルーンスックジン (ジーン)
ティラワット・ゴーサワン (ジェー)
アパシリ・チャンタラッサミー (ジーンとジェーの母)
パッチャー・キットチャイジャルーン (ピンク)
サニー・スワンメーターノン (エム)
サリカー・サートシンスパー (ミー)
スタッフ。
製作:ナワポン・タムロンラタナリット
撮影:ニラモン・ロス
編集:チョンラシット・ウパニキット
音楽:ジャイテープ・ラールンジャイ
『ハッピー・オールド・イヤー』を鑑賞。
現代タイ、女性デザイナーが実家の断捨離で過去と向き合うドラマ。
『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』のチュティモン・ジョンジャルーンスックジンとスタジオ"GDH559"とが再タッグ。彼女の演技が成長している。
監督と脚本はタイの俊英ナワポン・タムロンラタナリット。現代的多層構造の語りと独特のユーモアが魅力。
タイは10年代はアクションとストーリーの深みの進化でアジア映画界を牽引してきた。でも、日本では上映されないのよね。こんだけ世界各国の映画を上映している日本の映画への懐は案外浅い。評価が固まったものしか取り込めないのよね。
今作でタイストーリー映画の深みを知ってもらえたら。
ティラワット・ゴーサワンの癒し。国の在り様を見せるキャスティングが絶妙でよい。
そうそう、お片付けと言えばのこんまりも出ていますよ
この作品のリメイクを邦画でやったらときに良くなるのが想像できない。韓国ならどうなるかなぁと期待できるけど。
管楽器とピアノによる音楽の使い方が挑戦的でよい。
大人な苦みを見せるメッセージの描き方はかなり好み。
フレーミングとカメラワークのオリジナリティがいい。ニラモン・ロスは『心霊写真』の撮影の方。珍しい1.50 : 1。こういった画面のこだわりも注目。
編集の切り捨て方もなかなか。
なんといっても、絶妙な美術がもう一つの主役。
捨てる神あれば捨てられない神ありの袋作。
おまけ。
英語題は、『HAPPY OLD YEAR』。
『謹賀旧年』。
タイ語の原題は、打てない。
2019年の作品。
製作国:タイ
上映時間:113分
映倫:G
配給:ザジフィルムズ=マクザム
受賞歴。
2020年のAsian Film Awardsにて、Asian Film Award Best Costume Designer
(Pacharin Surawatanapongs)を受賞。
タイ映画『心霊写真』はアメリカリメイク(『シャッター』)されてます。
ニラモン・ロスは、前作『Singsu』では2.39:1、『Die Tomorrow』は2.00:1とが画角にかなりのこだわりがあるようです。
音楽のジャイテープ・ラールンジャイは現在日本留学中で、今作も日本で制作したそう。あの特徴的なSEや金管の音などは、日本人の音楽家の演奏だそう。
こんまりこと近藤麻理恵(映像のみ)も出てきます。
ネタバレ。
好みの台詞。
「謝るな。一緒に罪悪感を抱えてくれ」
「この頃のようなよかったことを思い出していたら、少しは喧嘩も減ったかな」
こんなに悲しくも輝かしいハッピーバースデーはないよ。
オーバーボイスが想像される痛みと現実を見せる編集からのヘッドフォンでの無音は発明。素晴らしき音のモンタージュ。
金管楽器による心情を表現する現代音楽的な効果もよい。
物の捨て方で区切られた章立ても、逆の意味になっていくあたりの皮肉なユーモアもよい。