で、ロードショーでは、どうでしょう? 第1993回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『12番目の容疑者』
1950年代ソウルの喫茶店で、店の常連客が殺された殺人事件の捜査が始まる戦時サスペンス密室劇。
主演は、『殺人の追憶』のキム・サンギョン。
監督・脚本は、舞台で活躍するコ・ミョンソン。
今作がデビュー作となる。
物語。
朝鮮戦争休戦後の1953年。
ある昼下がり、ソウル・明洞の細い路地にある、詩人、画家、小説家、大学教授といった文士が集まる喫茶店オリエンタル茶房(ダバン)に、陸軍特務部隊上士のキム・ギチェがやって来る。
彼は、店の常連客である詩人ペク・ドゥファンが殺害された事件を捜査しているという。
まさか、この常連客たちの犯人がいるのか?
出演。
キム・サンギョン (キム・キチェ陸軍特務捜査部隊の上士)
ホ・ソンテ (ノ・ソクヒョン/店主)
パク・ソニョン (チャン・ソンファ/女将)
キム・ドンヨン (パク・インソン)
チャン・ウォニョン (ムン・ポンウ)
チョン・ジスン (ウ・ビョンホン)
キム・ジフン (オ・ヘンチュル)
ナム・ヨヌ (チャン・ヒョク)
キム・ヒサン (イ・ギソプ)
ナ・ドユル (キム・ヒョクス)
トン・バンウ (シン・ユンチ)
ハン・ジアン (チェ・ユジョン/女子大生)
ナム・ソンジン (ペク・トゥファン/詩人)
アン・ソンミン (軍人1)
キム・デヒョン (軍人2/補佐官)
スタッフ。
PD:ユン・ミニョン
助監督:リュ・ソンウォン
撮影:パク・チョンチョル
照明:オ・ソクピル
編集:キム・スボム (BIG Pictures)
音楽:ク・ジャワン (ON THE TRACK)
美術:ソン・テソン
武術:イ・ゴンムン
『12番目の容疑者』を鑑賞。
53年ソウル、店内で常連の詩人の殺人事件捜査が始まる戦時サスペンス密室劇。
ミステリーの要素もあるが、どちらかというと語りによる展開と人の弱さについてあぶりだしていく会話劇。
面白いのは、客がほぼ全員、詩人、画家、小説家、文学教授という芸術関連というところ。戦後すぐなので、見た目のキャラが立てられないのは致し方ないところ。
休戦後すぐの軍事政権下での捜査なので、後半はハードな方向になっていく。
前半、紹介字幕は出るもののそこまでキャラが立っていないので、誰が誰やらという感じになってはいくが、入り口付近の若い画家、軍人捜査官、太っちょ詩人、奥の教授の4人さえ覚えておけば大丈夫。あとは、女将と店主、死んだ詩人、怪しい女子学生はすぐ覚えられるので。
主である若い画家が一番覚えにくいのは、観客的立場にしたかったからだろうね。
『12人の怒れる男』はインスパイア元かもしれないけど、密室劇くらいしか重なりはないです。
よくある、犯人探しから、もう一歩踏み込んだ、ちょっと映画的かつ韓国の歴史をけっこうきっちり入れ込んだ作品なので、普通に韓国映画見てるくらいだと厳しいかもしれない。
でも、こういう歴史認識をきっちり入れた舞台劇は、日本でもよくあるよね。
これも日本に置き換えられそうな内容で、定番の素材をうまく組み込んでよく練ったホンになっていますが、ミステリーとしては、かなり飛び道具的でそこを期待すると肩透かしになります。
そこから始めて、全く違うもの探しになっていく。
そして、韓国映画的な重めの展開に。
監督・脚本は、舞台で活躍するコ・ミョンソン。今作がデビュー作だそう。
こういうのところにたどり着く物語はあまりないから、たくさん見る人には、挑んだなぁと味わえると思います。だから、おいらは、けっこう好みでしたよ。
基本舞台劇映画なのだが、回想シーンの見せ方などに一工夫あり、そこで映画になっている。ここを舞台なら、どう見せたかな、というのも想像が広がるあたり面白かった。
大分、低予算なので、セット感ありありですが、暴力表現などに手を抜かないので、流石です。邦画はこういうところが雑になってしまっているので、本当に寂しい。暴力描写にリアリティを持たせないことで観客に嫌な思いをさせないってことなのかなぁ。
物語がないがしろにされてるように思うがなぁ。キム・サンギョンの強烈な顔、ハン・ジアンの古めかしい演技が味になってます。キム・ドニョンの折れた鉛筆感こそが大事なのですが。
おいらは楽しめましたが、人にはそう簡単にはススメません。
事実を知ってからみると見え方が変わるので、たぶん二度目が面白い映画。なのに、二度目を見るほどでもないのが惜しい。芝居も舞台系だしね。
ただ、今もある、物語論の「これぞ現実」という痛みにデビューで挑んだ気概を買う。
苦いコーヒーに涙が落ちる風作。
おまけ。
原題は、『열두 번째 용의자』。
英語題は、『The 12th Suspect』。
『12番目の容疑者』。
2019年の作品。
製作国:韓国
上映時間:102分
映倫:G
「のむコレ'21」(2021年10月22日~/東京・シネマート新宿、大阪・シネマート心斎橋)上映作品。
ネタバレ。
回想は、事実になるまでは、ひいたサイズのショットになっていて、真実を知る者には寄ったサイズのショットになっていることで、何が事実かわあkる、映画的な技法になっている。
でも、これ、舞台でもできる。回想は、奥に窓がくるようにするか、奥に一段上げて、客からは引いた場所でかシルエットで見せる。事実になったら、客に近づくか、シルエットではなくする。
電話線を切るなど、最初から、彼らを犯人にするためにキム・キチェ上士が仕組んだ作戦。
これに近い内容の映画が『クローズド・バル』。
こちらは、犯人捜しではなく、やや不条理な脱出もの密室劇。
圧倒的な悲劇で終わるが、すべてに目をつぶり、権力どころか個人の恐怖に負けた男として、生き延びる画家の切なさが、死に方を反していた冒頭とつながる。
死に、ロマンはない。
バッドエンドの伏線の貼り方に覚悟がある。
画家には覚悟はなく、女子学生の復讐は一部失敗に終わる(詩人ペク・トゥファンの死は見たが、その時の共犯であるキム・キチェに殺される)、この苦さを現在の韓国へと突きつけている。
ある意味、物語をどう語るべきかの悲劇こそ現実である、といった議論を現実に見せつけたような内容で、そこへ実際デビュー作で取り組んだことの気概を買いたい。
この死に方話は、日本では2021年に同時期公開だった『スパゲティコード・ラブ』にも出てくるが、そっちは定番の決着になる。