で、ロードショーでは、どうでしょう? 第2249回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『同じ下着を着るふたりの女』
マッサージ師の母と30歳手前の娘が車を巡り裁判対決するドラマ。
デビュー作ながら釜山国際映画祭5冠、ベルリン映画祭のパノラマ部門に選出された。
主演は、映画初主演のイム・ジホと『#生きている』のヤン・マルボク。
共演は、ヤン・フンジュとチョン・ボラム。
監督と脚本は、キム・セイン。
今作で、長編デビュー。
物語。
若くしてシングルマザーとなったマッサージ師の母スギョンは人生を奪った娘に愛情を抱けない。
20代後半で学習教材会社に勤める娘イジョンは人生を縛る母を憎んでさえいた。
相容れないまま、なぜか同居する二人は不満を募らせていく。
ある日、二人は、決定的な喧嘩を起こす。
そんな中、スギョンは新しい中年の妻を亡くした恋人と次のステージへ進もうとしていた。
イジョンは経理だったのに、営業に回され、困惑していた。
出演。
イム・ジホ (イジョン/娘)
ヤン・マルボク (スギョン/母)
チョン・ボラム (ムン・ソヒ/同僚)
ヤン・フンジュ (チョンヨル/恋人)
イ・ユギョン (エジョン/マッサージ店の店員)
イ・ヤンヒ (キョンソク/エジョンの夫)
クォン・ジョンウン (ソラ/チョニョルの娘)
チェ・ギョンジュン (パク次長/学習教材会社の上司)
パク・ヒウン (ヨンギョン/同僚)
アン・スギョン (中学生のイ・ジョン)
ムン・ジョンフン (保険会社 職員1)
イ・ウジョン (保険会社 職員2)
イ・ホウォン (カーセンター 職員)
カン・ヨンジン (リブロース店 店員)
パク・ソンイル (ウィンウィンブックス 代表)
シン・ジョンウン (ウィンウィンブックス 代理)
オ・ウンジ (ウィンウィンブックス キム社員)
チェ・ソンウン (ウィンウィンブックス チャン社員)
スタッフ。
助監督:チャン・マンミン
撮影:ムン・ミョンファン
照明:イ・ジェゴン
美術:イ・ジョンヒョン
編集:キム・セイン
音楽:イ・ミンフィ
『同じ下着を着るふたりの女』を鑑賞。
現代韓国、30歳手前娘が相容れない再婚直前母と車を巡り裁判対決するドラマ。
定番の毒親と自立できない娘による親と子の諍いもの。
冒頭シーンの地味な下着洗濯からの強烈な展開がたまりません。タイトルを示して、物語に引き寄せる。
韓国映画的な重めの展開、緩急のある編集テンポ、ナナメの角度でぶち込まれるユーモア、じっくりと強烈ながら現実味たっぷりに大喧嘩のドラマを描いていく。
そのリアルで真摯な語り口と高い映画話法で、デビュー作ながら釜山国際映画祭5冠、ベルリン映画祭のパノラマ部門に選出されたのも納得のなかなかないテイスト。映画長編デビューのキム・セインの見事なる演出力。そして、人物造形。娘の無口で素っ頓狂な能動的だが引っ込み思案という二面性ある行動ぶりがたまらないし、理解し合えそうもない母の闇に現実世界の痛みをじゅわっと感じる。
主演は、二人とも映画初主演のイム・ジホと配信シリーズ『イカゲーム』のヤン・マルボク。
チョン・ボラム、ヤン・フンジュ、イ・ユギョンを筆頭に、、さらに存在感を醸し出す。彼らが紡ぎ出すのは角を曲がればそこに暮らす人々なのよね。
この当たり前の底、静かでささやかで淀んだ人生を過ごしながら、脱出し、生き抜いていこうとする姿が痛く愛おしい。
説明を省略しつつも、しっかり補足しつつ、広がりと含みを持たせる脚本の妙に唸ります。
フックに頼らずに、人と人と日々の関係性に焦点を当てていく積み重ねの厚みたるやもう脱帽です。
やっちまったことをどう取り戻すか、どう取り戻せないかの痛痒に胸がギュっとして、拳をグッと握り、座ってるのに足を一歩前に出したくなる。
此の力強い語りよ。
落ちついたレイアウトで見せる撮影のパワフルさ。そして、あの後半の撮影とシチュエーション見せるシーンは映画館でこそです。家と母子の狭いドラマをああ見せたなら、そりゃあ高い評価を受けるわ。この演出自体は『BPM』とかでもやってたりしたけど、このじわじわ見せていく描写は映画史レベルですぜ。
女性映画の逸品。
邦題は原題の直訳。
70年代っぽいけど、確実に現代という、同じデザインの下着ながら布地や細かな機能が変わっているのを感じる。映画系譜。
うまくいかないことを誰かのせいにして生きていくのか、血なのか水なのかの輪作。
おまけ。
原題は、『같은 속옷을 두 여자』。
『同じ下着を着るふたりの女』。
英語題は、『THE APARTMENT WITH TWO WOMEN』。
『アパートで同居する二人の女』。
2021年の作品。
韓国
139分
映倫:G
配給:Foggy
受賞歴。
2021年の第47回 ソウル独立映画祭にて、独立スター賞(俳優部門)を受賞。
2021年の第26回 プサン(釜山)国際映画祭にて、ニューカレンツ賞、ネットパック賞 (アジア映画振興機構賞)、KBニューカレンツ観客賞、今年の俳優賞、ウォッチャー賞を受賞。
2022年の第24回 ソウル国際女性映画祭にて、発見-大賞を受賞。
2022年の第10回 ムジュ(茂朱)山奥映画祭にて、ニュービジョン賞を受賞。
2023年の第21回 ディレクターズ・カット アワーズにて、今年のビジョン賞、今年の新しい女性俳優賞を受賞。
ネタバレ。
停電中の暗闇での会話は、目が慣れてきたように、じょじょに輪郭が見えてくるようになっている。
イジョンは同姓的傾向があるのか。
幼さで友人関係に親密さを持ち込むタイプなのか。