時事解説「ディストピア」

ロシア、イラン、中国等の海外ニュースサイトの記事を紹介します。国内政治、メディア批判の記事もあります。

脱北者の証言に関する省察

2017-05-23 23:24:51 | 北朝鮮
米・ディプロマット紙の記事より。要所の個所だけ日本語で補足文を載せる。
長いので、とりあえず前編だけ紹介。




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In between sobs,
Park Yeonmi gave her account of life in North Korea.


Public executions, arbitrary arrests,
torture and suffocating censorship were
just some of the harsh realities faced by people in “the darkest place in the world,”



the 21-year-old defector told an international audience at the Young World Summit in Dublin,
Ireland earlier this month.



While North Korean defectors have spoken publicly about life under the regime before,


the attractive university student has arguably captured
the attention of international media like no other in recent memory.


Her emotional speech in Dublin received coverage in outlets such as the BBC,
Al Jazeera and the Daily Mail.

(ここまではパク・ヨンミという脱北者のスピーチがあり、
 メディアも大々的に取り上げたということが書かれている。)



But alongside outpourings of sympathy and praise,
Park has also attracted a quieter but no less persistent stream of criticism
from skeptics who reject her characterization of North Korea.


(賞賛を得た一方で、彼女の北朝鮮の描写には批判もなされたということ)



Felix Abt is one such critic.

(その批判の一例が以下の文で紹介されている)


A Swiss-born businessman who lived and worked in North Korea for seven years until 2009,
he has frequently questioned media portrayals of the human rights situation in the country.

(この人物は2009年まで7年間北朝鮮で生活し、勤務していたビジネスマン。
 北朝鮮の人権状況についてのメディアの説明に異議を唱えている)



“I suppose many of the stories that defectors present are true,
even though they cannot be verified.
I only challenge claims that are obviously exaggerated or plain false,”

(亡命者の物語の多くは検証不可であっても、事実だとは思うが、
 明らかな誇張や間違いには物を申したい)


Abt told The Diplomat by email.


In Park’s case,

Abt has honed in on a recent newspaper interview
that quoted her drawing a comparison between a canal in Dublin and rivers in her homeland:

“Every morning at riversides like this you can see dead bodies floating.
If you go out in the morning, they are there.”*

(北朝鮮の運河や河川には死体が浮かんでいるという証言)


Abt responded to the article with a photo on his Twitter account
that appears to show children happily at play in a North Korean river.

(北朝鮮の河川で遊んでいる子供の写真を見せながら)


I widely traveled the country and didn’t come across dead bodies, said Abt.

(「国中を旅しましたが、死体なぞ見たことがありませんよ」と反論)



“Sure, there may have been floating bodies in rivers
in the terrible crisis years of the 90s when 600,000 people
starved to death according to an estimate by the U.N. official w
ho was then supervising foreign aid during the famine in the country.

(確かに、90年代の危機の時代なら川に死体が浮かんでいたのかもしれませんよ?)

But since then, things have clearly changed for the better
(no more mass starvation, recovery of the economy etc.)
which many activists do not recognize.”

(けれども、それから事態は明確に良い方向へ変わりました。
 大量の餓死もありませんし、経済も回復した)


Asked if he could be sure he hadn’t been shielded from abuses by the authorities,
Abt said he had traveled unaccompanied to even remote provinces of the country.

(当局の監視によって虐待を隠されていたのではないかと質問すると、
 旅行中は遠方の県ですら1人だったと回答。)


“Also, my visits were of a more technical nature
and were therefore not orchestrated like in the case of foreign visitors
and resident diplomats,” he said.

(私の訪問は外国の観光客や外交官のように当局によって案内されたものではない)


“So I did see poverty-stricken areas,
infrastructure in shambles, broken bridges over rivers and
I would certainly have seen dead bodies if there were any.”

(それゆえに、極貧地帯も私は見たことがあります。
 仮に死体が流れているなら確実に見ているでしょう)


Abt has challenged other defectors’ claims in the past,
such as comments by former doctor Ri Kwang-chol in 2006

(ここからは別の亡命者の証言についても批判している)


that there are no physically disabled people in North Korea
due to a policy of infanticide for handicapped newborns.

(北朝鮮では障害を持って生まれた新生児は殺されているので
 身体障碍者がいないのだという証言があるが)


On the contrary, Abt noted,
Pyongyang sent athletes to this month’s Asian Paralympics in South Korea’s Incheon.
It was North Korea’s first participation in the competition.

(実際には北朝鮮はパラリンピックに選手を送っている)


Other defectors, however,
have told media such as Free North Korea Radio of
widespread infanticide against disabled infants.

(にも関わらず「広範な障害を持つ幼児の殺害があるのだ」と
  自由北朝鮮ラジオなどで証言している脱北者がいる)



Abt has detractors of his own, some of whom, such as Joshua Stanton,
the operator of the blog One Free Korea, have called him an apologist.

(Abt氏を中傷する者は多い。例えば一つの自由朝鮮というブログは
 彼のことを北朝鮮の擁護者と呼んだ)



“I can understand their reaction:
 if you read and hear only horrifying reports about a country for decades,
 you expect nothing but shocking accounts of cruelty and subjection to come out of it,”
said Abt.

(何十年も北朝鮮を怖がらせる報告にしか触れていないなら、
 そういうリアクションを起こすのも無理はない。)


In one interview,
Abt had lamented that Westerners often misunderstand
how people in Confucian societies such as North Korea show
respect to their leaders and expect to be cared for in return.

(あるインタビューでは、Abt氏は
 西側の人間がしばしば、北朝鮮のような儒教社会に住む人間が
 どれだけ彼らの指導者を尊敬し、大事に思っているかを誤解していると指摘)



“If no meaningful economic and social reforms are carried out
 the people may withdraw the ‘mandate of heaven’ (outlined by Confucius),”

(全く意味のない経済・社会改革が実行されていたのであれば、
 天命(ここでは革命という意味)が起きていたでしょう)


http://thediplomat.com/2014/10/north-korea-defectors-and-their-skeptics/

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アジアプレスやデイリーNKのようなNEDから支援を受けている情報機関は
内部の密告者を通じて北朝鮮の情報を仕入れていると豪語する。


だが、実際には、当の脱北者から「それはありえない」と反論されることもあり、
また、その証言も礼金と引き換えにされているという致命的な問題がある。

【翻訳記事】アジアプレスの
「北朝鮮社会を蝕む覚醒剤」報道の嘘・捏造・歪曲を撃つ! その1


「特に特ダネ記事に没頭する余り、
 今や北朝鮮から入って来る情報は北朝鮮通信員の取材中心ではなく、
 企画取材をする傾向まで表れている。だが北朝鮮で活動する通信員達は
 民主主義社会でのマスコミの価値と役割に対する理解が全くなく、
 経済的代価によって情報を提供する。

 情報を提供する北朝鮮通信員には一種のインセンティブ
(北朝鮮の所得の現実を考慮すれば、これは莫大な経済的報酬だ)が提供される。

 代わりに北朝鮮通信員達は、北朝鮮当局の統制下で自身の命を担保に活動せねばならない。

 こうして企画取材に没頭する余り、対北関連ニュースの歪曲はよりひどくなる傾向がある。
 主に保守陣営の言論媒体達は自分の口に合うように北朝鮮ニュースを報道するのだが、
 北朝鮮情報を十分に把握する事の出来ない大多数の市民達はそれをストレートに信じるしかない。」

(同記事より抜粋)



情報提供者が利益を目当てに誤情報を流すことはあり得るし、
現にそうやって不正確な情報が流れている現実がある。


ここで私が問いたいのは「脱北者の言葉を信じるな」ではなくて、
脱北者の証言を信じるためにも、聴く側はきちんと実証をすべきだ」ということである。



どうも、左右問わず、日本には脱北者ファンクラブなるものが存在するらしく、
亡命した人間の言葉はすべからく真実であり、疑うこと、すなわち悪と信じるカルトな風潮がある。


一言で脱北者と言っても、全員が全員、同じ証言をするわけではない。
事実、過去に脱北者の問いかけによって明らかになった誤報も存在する。


ところが、なぜなのか全く理解できないが、彼らのイメージでは
亡命者は全て同じ証言をするに違いないという謎の根拠なき確信があり、その点を指摘すると
「それは脱北者を侮辱する行為だぞ」とか「貴様は北朝鮮の工作員なのだ」といった
おいおい・・・と言いたくなる彼ら流に言えば「発狂」をされてしまう。



その割りには、裏が取れた慰安婦の証言を「偽証の疑いがある」とみなしたり、
戦争体験者の反戦論について「現実を知らない」と否定したりと何やら必死である。


慰安婦や反戦論者はいくらでも侮辱しても差し支えないということなのだろうか?


慰安婦の証言と脱北者の証言の決定的な違いは
前者が歴史家によって実証されているのに対して、後者は実証無しに信仰されているという点にある。



金正男の報道と同じで、「情報筋」がこう話した、だから事実なのだという
論理的とは言い難い、どちらかと言えば妄信に近い形で誤報が垂れ流しになっている。



その誤報を後々、訂正すれば問題はないのだが、
私の知る限り、メディアが誤報を訂正したことはないし、
個人に至ってはなおさら、間違いを指摘されても主張を取り下げようとはしない。



つまり「それは間違いだ」と明らかにされたにも関わらず、
その間違いを訂正しない現実が存在している。



これはストレートに表現すれば、
「意図的に嘘をついている」ということだ。




理屈の上では嘘だと判明したにも関わらず「知ったことか」とデマを流し続ける。
悪質極まりないが、彼らの中では、自分たちは検証をしているということになっているらしい。


正しいのか間違いなのかよくわからない情報を大量生産することは、
結果的には、脱北者全体の証言の信ぴょう性を下げてしまうことに繋がるのだが、
誤報が判明した後も訂正をしない・出版を停止しないあたり、気にならないようである。




カルト

特定の対象を熱狂的に崇拝したり礼賛したりすること。また、その集団。異端的宗教。


(https://kotobank.jp/word/%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%83%88-178058)


根拠がないのにある主張が正しいと確信する。それは宗教に似ている。
「神がなぜ存在するのか、それは神が存在すると私が思うからだ」というあの心理に似ている。


神の存在を信じ続ける行為そのものが重要であって、
信じる内容が正しいかどうかは問題にならない。


もしくは疑うという行為そのものが最大のタブーとなっているので、
信じる以外の選択肢を選ぼうとはしない。


こういう現象を俗に「反知性主義」と呼ぶが、
私は「反知性」という表現は少々、不適だと考えている。

というのも、彼らの中では、
嘘だと論理的に証明されてもなお、正しいと信じ続ける行為は「知性的」であって、
「世間の間違った知識を正しい知識によって修正してやる」という目的がそこにある。


なぜ「正しいのか」ということを実証する必要はここにはない。
(向こうが間違っているという結論が先に存在するので)



つまり、知性そのものについて疑っているわけではなく、
自分こそ知性なのだという自信がここにあり、それゆえに折れない所がある。

あえて言えば、一般の知性は科学的知性(この表現も古臭いとは思うが)であるのに対して、
あちらはカルト的知性(なぜ正しいか?それは正しいからだ)とでもなるのだろうか?


少々、話が脱線してしまった。
今回の記事で取り上げた文章はまだ後半が残っている。
こちらについては後日、また紹介したいと思う。


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