時事解説「ディストピア」

ロシア、イラン、中国等の海外ニュースサイトの記事を紹介します。国内政治、メディア批判の記事もあります。

やっぱり生きていた李永吉1(北朝鮮の処刑事情)

2016-05-18 00:06:47 | 北朝鮮
処刑と一時報道、李永吉氏が復権 北朝鮮


「李永吉(リヨンギル)・前北朝鮮軍総参謀長が、
 9日に閉幕した朝鮮労働党大会の党幹部人事で、政治局委員候補となった。
 今月10日付の党機関紙・労働新聞(電子版)は、他の党幹部とともに李氏の顔写真を載せた。
 軍総参謀長を解任された李氏は、復権した扱いになっている。

 李氏をめぐっては2月、解任、処刑されたとの情報が流れた。
 朝日新聞は2月11日付国際面に「軍総参謀長を北朝鮮が処刑 分派容疑か」の記事を掲載した。

 韓国政府がこの情報を報道陣に提供していたことが明らかになっており、
 統一省報道官は11日の記者会見で、処刑については誤りだったことを事実上認めた。(ソウル)」

http://digital.asahi.com/articles/DA3S12356024.html?rm=150

北朝鮮に関する情報のほとんどは韓国政府や人権団体(笑)を経由したものであるが、
後に誤報とわかることが非常に多い。


例えば、金正恩の元恋人が処刑されたというニュースが以前、流されたことがあったが、
これは後に誤報であり、処刑どころか逮捕すらなかったことが明らかになっている。


他にも金正恩の髪型そっくりにしないと罰せられる、あるいは流行しているというニュースもあったが、
あの髪型をした男性が写っている写真は今のところ一枚も存在しない。
(短髪にせよという命令が誇張されたデマだと私は考えている)


これに加えて居眠りをしただけで殺されたとか亀の世話を怠ったから殺されたとか
常識的に考えてありえない話が日常的に大量発信されていて、
これらが嘘だとわかっても、これといった反省をしない。



吉田記者の慰安婦報道誤報に関して、あれだけ各メディア、政治家、知識人が
顔を真っ赤にしてギャーギャーほざいていたのに対して



北朝鮮の報道に限っては誤報だとわかっても特に気にしない。


朝日新聞は
「2月11日付国際面に「軍総参謀長を北朝鮮が処刑 分派容疑か」の記事を掲載した。」
と一言、添えただけで終わらせているが、これは同紙の信用に大きく関わる問題である。


というのも、朝日新聞は問題の記事でこういう文章を書いていたからだ。




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軍総参謀長を北朝鮮が処刑 分派容疑か


北朝鮮の李永吉(リヨンギル)・軍総参謀長が今月初め、処刑された。


複数の北朝鮮関係筋が明らかにした。


権力乱用や分派を作った容疑がかけられたという。
北朝鮮軍高官の処刑は、昨春の玄永哲(ヒョンヨンチョル)・人民武力部長(国防相)以来。
南北は軍事的に緊張しており、韓国政府も処刑が北朝鮮軍に与える影響について注視している。

李氏は金正恩(キムジョンウン)第1書記への忠誠心競争で高い評価を受けてきた。

容疑は名目的で、野戦司令官出身の李氏が
朝鮮労働党による軍の統制強化に不満を持っていたとの見方が出ている。


正恩氏は今月初めに開かれた党と軍の合同会議で
「軍はひたすら最高司令官(正恩氏)が示す方向へ進むべきだ」と演説。

李氏は会議の前後に処刑された可能性が高いという。
後任の総参謀長に、故金正日(キムジョンイル)総書記の側近で、
総参謀部作戦局長や人民保安部長を務めた李明秀(リミョンス)氏が起用されたとみられる。

正恩氏は権力を継承した2011年末以来、100人以上の高級幹部を処刑したとされる。
特に肥大化した軍の権力を警戒。軍の戦略部門の責任者である総参謀長、
補給や行政を担う人民武力部長、党の立場から軍を監視する総政治局長を次々に更迭してきた。


北朝鮮は今年、核実験や長距離弾道ミサイルの発射などを実施。
今後、国連による制裁決議や米韓合同軍事演習が予定されており、南北関係はさらに緊張する見通しだ。
李永吉氏は軍の統率力にたけ、政治的な思惑より軍事作戦を優先する原則主義者として知られ、
今回の処刑で軍内部の不満が高まるとの見方もある。

一方、韓国の専門家
「金正恩はむしろ、(南北の緊張が高まり)団結が求められる時期の方が
、処刑に対する軍の不満を抑えやすいと判断した可能性がある」と語った。

(ソウル=牧野愛博

http://digital.asahi.com/articles/DA3S12204295.html?_requesturl=articles%2FDA3S12204295.html&rm=150
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通常、新聞記者は取材の際に裏を取る(情報の真偽を確認する)義務がある。


第3者が後で検証できるように、どこの誰が話した(書いた)ことなのか
データの出所を明確に示すというものが書き手のマナーの中にはあると思うのだが、
これが北朝鮮の報道となると例外扱いになる。



「複数の関係筋が明らかにした」「韓国の専門家は~と語った」とあるが、
 報道がまるっきりのデタラメであることが判明した今、同記事を書いた
 牧野愛博記者は少なくとも

 ①複数の関係筋とは誰のことか
 ②そもそも、本当に取材を行ったのか
 ③別の事件の信ぴょう性は確かなのか


以上3点について、ハッキリさせるべきだろう。

[ニュース分析]「李永吉処刑説」流布し言い逃れる大統領府と国家情報院

韓国紙ハンギョレは、この問題を重要視していて、入念になぜ誤報が流れたかについて検討している。
それによれば、この報道は韓国政府が同国の情報機関である国情院を通してメディアに伝えたものらしい。



つまり、牧野記者が複数の関係筋に直接取材せずに、
韓国政府が記者を集めて発表した内容をそのまま確かめもせずに報道した可能性は非常に高い。



複数の人間から裏を取ったかのように記述し、
専門家も事実と認めているかのように語る牧野記者のやり口は非常に悪質で、
事実を正確に伝えようとするよりも、権力側の主張や印象を流布することに執心したものになっている。


ハンギョレは次のように語る。


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李永吉処刑説をはじめ、最近になって「関連機関の情報」として内容を流す例が現れている。
中国の北朝鮮式レストラン従業員の集団脱北の時も同じだった。

こうした時、
「関連機関」とはほとんど例外なく国家情報院を指す。



~中略~

「李永吉処刑説」誤報事態は開城工業団地の閉鎖と無関係ではない。

開城工業団地閉鎖決定によりまき起こるやも知れない世論悪化を
「暴悪な北朝鮮政権の不安定性」を拡大再生産することによってぼかそうとした公算が高い。

~中略~


朴槿恵大統領の“長期に亘る”北朝鮮崩壊論の認識が
「情報失敗および不正乱用」事態の構造的原因だ
という指摘が多い。

政府部内で北朝鮮情報を扱った経験が多いある関係者は

情報機関の実務者は情報でイタズラをすることはない。
 情報失敗と言われる事例の大部分は、
 最高権力者とそれに媚びた部や室が
 国内政治目的で「北朝鮮問題」を活用しようとして招いた惨事


と指摘した。

大統領府をはじめとする朴槿恵政府は、
今回の「李永吉情報の失敗」を重大な反省の契機にしなければならないという声が強い。

元政府幹部は
「張成沢(チャンソンテク)、玄永哲(ヒョンヨンチョル)、李永吉など
 北朝鮮の軍・党高位幹部の粛清または処刑を
 金正恩政権の不安定性と崩壊の兆しだと解釈したい朴槿恵大統領の偏向した認識が問題
」として

「政府が処刑されたと事実上発表した李永吉が堂々と生きているということが確認された今回の事態は、
 朴槿恵政権の対北朝鮮政策と関連して深い省察の必要性を雄弁に語る重大な情報失敗・誤用事例
と話した。

http://japan.hani.co.kr/arti/politics/24120.html
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情報失敗と言われる事例の大部分は、
 最高権力者とそれに媚びた部や室が
 国内政治目的で「北朝鮮問題」を活用しようとして招いた惨事



この言葉は日本のメディアや知識人にもそっくりそのまま当てはまるだろう。
ハンギョレもあまり良い新聞とは良い難いが、それでも今回の誤報の問題性、
すなわち、韓国政府に追従して北朝鮮を生贄にしようと画策するメディアの有り方を強く非難している。


対して、朝日新聞は・・・






朝日
「李氏をめぐっては2月、解任、処刑されたとの情報が流れた
 朝日新聞は2月11日付国際面に「軍総参謀長を北朝鮮が処刑 分派容疑か」の記事を掲載した。」






情報は流れたのではない。流したのである
他ならぬ朝日新聞が。



この程度の反省で済ませてしまう朝日新聞は
現在、北朝鮮関連の記事を概ね牧野記者にまかせっきりにしている



過食130キロ・「処刑してやろうか」…不安募る正恩氏


これは李永吉処刑説が流される前に書かれた記事であるが、執筆者は同じ牧野記者で、
北朝鮮の内情を知る専門家らによると、ストレスを抱えた正恩氏の振る舞いは内部を混乱させている」
という記述がある。


実は、この記事で書かれた内容(専門家らによると~混乱させている)は
他の記者や評論家も、あたかも自分が直接、専門家とコンタクトを取り、取材を行ったかのように
書いているので、李永吉処刑説と同様に、政府が流した情報をそのまま伝えている可能性が高い。


新聞記者という存在は、本来、政府側の言い分が確かかどうか検討するためにある職業だが、
現実では韓国政府経由の情報を事実確認せず、拡散する記者が野放しになっているわけで、
もっとわかりやすく言えば、素人が書いた記事を売っている

誰かの言い分をそのまま伝えるだけなら、録音機さえあれば子供でもできる


これは日本の新聞記事の信ぴょう性を大きく揺るがすものだと感じるし、
だからこそハンギョレは国内のメディアの有り方も兼ねて記事を書いている。



李永吉軍総参謀長を処刑か 今月初め「分派活動と権勢汚職」嫌疑


北朝鮮、総参謀長を処刑か…恐怖政治浮き彫りに


もっとも、読売や産経に至っては訂正記事すら書いていないので、朝日はまだ良心的なほうだ。


朝鮮新報は、今回の誤報について「処刑説で赤っ恥」という記事を載せたが、
産経や読売、朝日、加えてデイリーNKなどのメディアは誤報を流した自社の
社会的責任について深く考えないので恥すらかかない。こういうのを厚顔無恥と呼ぶ。


これは今に始まったことではなく、北朝鮮しかり中国しかり韓国しかりロシアしかり、
日本のメディアの国際ニュースはいい加減すぎるし、その問題が深く問われることもない。


嘘を書いてもOKという風潮が当たり前のようになっているのは凄まじい状況だと思うのだが、
本来なら強く批判すべき社会学や政治学、あるいは左翼団体の関係者が
これについて特に気にしていない。

あるいは気にしている人間がいても、彼らには発信する手段がない。
(発信していても、ごく少数の人間にしか読まれない)


・追記
 ついでに言えば、牧野記者は文春新書から
『北朝鮮秘録 軍・経済・世襲権力の内幕』という本を売り出している。


 朝日は左翼というイメージをネトウヨは流しているが、
 近年、朝日の記者は文春や祥伝社などの右派系出版社から本を出版しており、
 その主張も姿勢も読売や産経と大差ない。
 
 牧野記者が3流記者で偶然、記事を書いたのであれば、まだ救いの余地があるが、
 実際には、こういう記者が1流として、それなりのポジションで飯を食っている状態。


 嘘をつくことが金になるようになっている現状、
 洋書やインターネットによる外国発信の情報を得られない人間が
 国際政治について理解することは非常に難しくなっているのではないかと思われる。