時事解説「ディストピア」

ロシア、イラン、中国等の海外ニュースサイトの記事を紹介します。国内政治、メディア批判の記事もあります。

今西一 歴史家の限界について

2013-03-03 23:31:22 | 反共左翼
小中学校の教科書では、特に古い世代のそれには、
江戸時代は士農工商という身分制度があり、それが明治になって
四民平等という制度に移行したことで、不完全ながらも撤廃されたと書かれているだろう。

ところが、近代史では、民族や身分の差別といったものは
むしろ近代化以降に強化されるということがおおよそどこの国でも確認されている。

日本の場合だと、女性差別や被差別への差別がその典型的な例で、
平凡社新書の『近代部落史』では、近代化以降、それまで負うことのなかった
租税等の負担も加わり、貧困者が激増したと指摘されている。

この文明化(あるいは近代化)を研究テーマとし、数々の業績を挙げた
学者の中に、今西一氏がいる。同氏が執筆した『遊女の社会史』は筆者も
女性差別と売春問題を考える上で大いに参考になった。

しかしながら、どうもこの御仁、共産党に恨みでもあるらしく、
なぜか共産党に対して言いがかりに近いコメントに埋め尽くされた
研究ノートをいくつか発表している。近代化研究ではあれほど冷静な
同氏もこの問題に言及すると、ただの妖しい週刊雑誌の記事のような文章
しか書けていない。

いわく、宮本顕二の独裁がうんぬん。
「共産党が自分たちの誤りを認めることがあるのだ,と奇妙に感心したことを覚えている」
といった初っ端からの共産党に対しての偏見が書かれている。

「そもそも共産党の大会は,第8回大会以降は,シャンシャンの「全員一致」が普通で,
水落氏のような勇気ある発言は稀である」といった個人的な感想を学術雑誌の文に
平然と投稿するその神経と、この種の感想文を掲載してしまう小樽商科大学の紀要の
レベルの低さに唖然としてしまった。


反共によくありがちな「宮本顕二の独裁」うんぬんのご指摘だが、
仮にも歴史研究者なら、このような「こいつがいるからダメなんだ!」
「こいつが全ての元凶なんだ!」という風な歴史観を描いてはいけないだろう。


南京事件をはじめとした15年戦争の研究者、藤原彰先生や笠原十九司先生(私にとって大事な方だ)は
南京事件における残虐性を分析する際にも、単に天皇が悪い、松井岩根が悪い!
といったすべての責任を個人になすりつける解釈はとっていない。

軍紀の低下や士気の衰退、食料をはじめとした物資の不足など、
様々な観点から考察されており、どこどこの師団のなになにがイカレている
からだとか、そんな馬鹿げた単純な受け取り方はしていない。


ヒトラー研究がもっとも良い例だが、最近の独裁研究では
そのような指導者を切望し、協力した民衆の協力、つまり民衆の責任を
強く追及したものが多く生み出されている。


日本においても、確かに大日本帝国は天皇にのみ大権が与えられた
独裁国家だったとも言えようが、軍閥だの財閥だの、諸々の権力者が
存在したし、民衆が朝鮮人を差別・迫害したのは強制でも何でもない。

確かに天皇制は君主制ではあれど、何でもかんでも天皇が指示してはいないし、
大衆と政府、企業関係者等の自発的な協力があって初めて成り立つ制度である。

冷静に考えれば、巨大な組織を一人の意思だけで
どうにか出来るものではない。研究史の面からも独裁という言葉は
いい加減、死語にすべきなのではと私などは思っている。

仮にも研究ノートなのだから、より実証的に、一次史料を引用して
共産党の体制について分析を施してほしいものである。

もっとも、論争に負けて脱党したマルクス主義政治学者も政治学者のくせに
この党の体制を学問的に分析していないので、無理なのかもしれない。

私が「日本共産党は独裁!」と言って憚らない連中に不審を抱くのは、
学問的なケーススタディをどの連中も学術雑誌に載せていないからだ。

資料など、特にこの手の体制批判をする輩は元党員なのだから、
いくらでも手に入れられるはず。なのに、自分の実感のみで、
あーだこーだとケチをつけている。残念だが私は彼らの言うことを信じることが出来ない。

この手の正義を語る連中に共通しているのは、真の被害者に対する無神経な態度だ。
ネットで共産党と名がつくものは何でもかんでもバッシングしているK・Mは、
北朝鮮をバッシングするのに熱中するあまり、朝鮮学校に対する無償教育除外を
支持する始末だ。在日コリアンに対する教育差別は国際人権規約や子供の権利条約に
違反しているし、この除外によって本当に被害を受けているのは授業料を納める
在日コリアンの家庭に他ならない(学校は除外されても授業料を家庭から頂けばいい話)

偶然、在日コリアンの家庭に生まれたというただそれだけで経済的圧迫を
受ける彼らに対して、K・Mは何も感じないのだろうか。

今西もまた、K・Mと同じく共産党を叩くためなら本来の学者の姿勢すら
放棄する驚くべき人物である(非常に残念だが)

去年の夏に小樽商科大学の紀要に投稿した研究ノートから引用しよう。

『歴史学は社会の「濾過装置」だと考えて研究を続けている。若い
頃に,畏友野田公夫と話していた時,私が民衆運動史を専攻したいと言ったら,
彼は大真面目に「あんな汚いことが,学問の対象になるのか」と言ったことが
ある。1968年以降の京大闘争に参加していた彼からすれば,学生運動の「暗部」
をいやというほど見てきて,こんなものが学問の対象になるのか,というのが
正直な感想であったろう。しかし,その「暗部」を含めて「濾過」する必要が
あるというのが,私の立場である。』

今西は、ある事件について歴史家が言及しないことで風化してしまう危険性を
指摘し、上のような文章を書いている。この記述まで読んで筆者は、
てっきり学生運動の暗部を歴史的に分析するのだろうかと期待していた。

50年代半ばから70年代半ばまで若者を中心とした極左勢力が台頭していたが、
彼らは皆、日本共産党の平和革命路線を軟弱と批判するところにその共通点を
持っていた。中核しかり、核マルしかりである。

学生運動などという言葉でごまかしているが、彼らは間違いなく
正真正銘のテロリストであり、日本の若者で少なからずテロリストの
一味になったものが50年代~70年代には存在したという事実は日本史の暗部に
他ならないだろう。この件に関しての歴史研究はアマチュアや
思想家といった非歴史学者が行っており、ぜひとも日本史研究者が着手しな
ければならないテーマの一つである。

だからこそ、私は学生運動について今西が書くものとばかり思っていたが、
期待は大きく裏切られた。今西は暗部を書くと大口を叩きながら白鳥事件に
言及しているのである。

白鳥事件は50年代前半に起きた学生テロ事件で、実行を教唆したと言われている
容疑者である村上氏は無期懲役(後に減刑)の有罪判決を取られたし、
指名手配の実行犯として指名手配された人間は外国に逃亡してその地で死亡した。

つまり、この事件は当時の徳田一派に代表される党内部の過激派の犯行で
あることは、少なくとも裁判では確認されており、無罪になったわけでも
ないし、ましてや世間的に無名の事件でもない(むしろ有名な事件だ)。

にもかかわらず、今西は白鳥事件を「暗部」と勝手に判断し、
2012年の2月に党所属の人間の新たな証言(といっても確認事項であるが)を
きっかけ(としたかどうかは知らないが)に、わざわざ白鳥事件を取り上げているのである。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
追記

この記事を書いたころは基本知識しか知らなかったのだが、
その後、関連書を読んだ結果、これはえん罪事件ではないかと思っている。

まず、上述した「証言」だが、証言者である高安氏は
事件当時から村上氏を犯人だと証言しているのだが、
この証言内容が、話すたびにコロコロ変わっている。

しかも、当時の高安氏は下っ端で、重要な案件について
呼ばれるほどの立場ではない。村上氏とさほど仲の良い間柄でもないし、
事情について深く知っているとは思えない。

第3に、高安氏の当時の証言、そして現在の新証言にしても
憶測の域を出ていない。どれも「たぶん~だろう」という類だ。


第4に、高安氏も共犯者として逮捕されたにも関わらず、
村上市が17年にも渡る監獄生活を送った一方で、
彼は執行猶予で、その後もごく普通の生活を送っている。

当時の取り調べのひどさ、網走刑務所への入獄を考えれば、
偽証する可能性は大いに考えられることである。


第5に、この事件は物的証拠がなく、証言者の言葉だけで
有罪とされたものだ。不確かな証言内容、証言者のみが
執行猶予で、すぐに解放されたこと、そして同時期に
松川事件など党員のものとする冤罪事件が多々発生している
ことから考慮するに、この事件もまた冤罪の可能性は非常に高い。

追記 終わり
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

氏がいかに共産党バッシングのためだけに白鳥事件に言及したのかは
次の文章を読めば一目瞭然だろう。

『彼は,事件の後,逮捕まで北海道の各地に飛ばされ,援農などをして生活していたが,
この農民の生活を体験するなかで,自分たちの革命ゴッコが,いかにチャチで
馬鹿げたものであるかを知ったという。そして,札幌地裁の安倍治夫氏という
「異色の」検事に会って,すべてを話す気になったと語ってくれた。しかし,
その高安氏に対して,作家の松本清張氏や白鳥事件総合対策協議会(白対協)
の人たちは,「日本のユダ」という罵声を浴びせてきた。
60年間耐えてきた心情を,斉藤孝,故川口孝夫氏との共著で近く発表する予定である』

言うまでもないが、この事件の真の被害者は殺害された白鳥であり、
次に遺族である。どうして加害者、それも容疑者で執行猶予を受けた
人間があたかも被害者のように書かれているのか。

この研究ノートには遺族について一言も触れられていない。
これは慰安婦問題において、売春を強要した軍人を被害者と設定して
当の慰安婦について何も書いていないようなものである。

また、このノートには村上本人が事件に関与していたかどうかの
決定的な証拠が挙げられていない。この点こそ、冤罪疑惑が生じた
最大の論点であり、単に党内の過激派のものだと称しても、冤罪を
否定する根拠にはならない。

おまけに今西は白鳥事件の研究の「先生」として一人の高校教師
(つまりアマチュアの歴史家)を名指しして
「北大学生運動史の大家」とまで形容する(肝心の学生運動、
反共産党主義に満ちたテロリストについては何も書かれていない)。

要するに、白鳥事件についての先行研究は存在しないのである。
共産党史そのものに言えるが、犬丸義一氏を除いてはいずれの研究も
アマチュアどまりであり、非学術的なのだ。確かな査読付きの学術雑誌
に掲載されたものは皆無なのである(そこが非常に問題だ)。

こういういい加減な研究をして悦に入っているのが、
自称、歴史の暗部に言及する学者である。そんなに暗部に言及したいなら
部落史研究者として、60~70年代に起きた糾弾(差別に反対する
あまり、度を越した暴力行為が度々起きてしまったのである)をテーマに
してみてはどうだろうか?問題に関わる研究者の中には解放同盟と
共産党の不仲に影響されている人間が少なくないが、彼もその中の一人なのだろうか?

同じ部落研究者でも上田正昭氏は2000年代後半に発覚した解放同盟の同和行政事件に
言及し、意見書を提出した。上田氏ほどとはいかなくても、せめて大口を叩くならば
それだけの気概を見せてはもらえないのだろうか?

追記
大学ページの写真を見ると豚みたいに肥えていた。こんな文章で
掲載されるのだから、停年退職の老害は良い御身分だ。

経歴を調べてみたら、共産党と対立している解放・人権研究所の出身だった。
こりゃー駄目だ。個人的な怨恨に研究を左右されては駄目だ。