山田洋次監督の『ちいさなおうち』を観た。
映画に出て来る赤い屋根の家を観た時、「小さなお家」というバージニアリーバートンの絵本を思い出した。
太平洋戦争前夜の東京が舞台である。
山田洋次一家、という配役であるし、
過激な場面はなく、静かな反戦映画だと思って見ていた。
黒木華という女優は、柔らかな存在感がある。
監督が恋愛映画を作りたかったような気がしないのは、なぜだろう。
恋愛のお相手が吉岡秀隆だったからだろうか。
昔、いつごろだったか。
ハリウッドで「カサブランカ」という大ヒットした恋愛映画がそれまでの恋愛映画の常識を破ったことがある。
それまでは、水もしたたるような男前の俳優がヒーローだったのである。
ところが『カサブランカ』でヒーローを演じたのは、日本で言ったら3頭身の阪東妻三郎のような
まあ、4頭身くらいだったか、ともかく身長の割には顔の大きいハンフリーボガードがイングリッドバーグマンと恋に落ちるのである。
それが、また、我等の涙を絞り出したのだし、ハンフリーボガードは孤独の陰を背中に感じさせていて、私たちは痺れた。
わたしの中では、恋愛映画のベストスリーの一つである。
ちなみに、『逢い引き』デビットリーン監督、『旅情』キャサリーンペップバーン主演、とこの『カサブランカ』である。
古い映画ばかりですが、基本恋愛映画は余り観ない。
ラブコメでは「恋人たちの予感』と『ユーガットアメール』ですね。たまたま出会った映画である。
話がそれてしまった。
『ちいさなおうち』の東京空襲の場面の作り方はしょぼかった。
さすが、と思った。花火があがってるような感じだった。ただ予算が無かっただけなのか。
映画の中に出てくるオモチャ会社は赤いおうちの主が重役をしている会社である。
戦争に対する、あの当時の企業家の姿勢が現安倍政権と重なった。イケイケ、日本は強いぞ、みたいな。
中国に進出して大もうけしよう、と意気をあげる。
物語を作り過ぎないのが山田洋次流だと思うけど、
寅さんをほぼ全部観たわたしとしては、寅屋の日常と寅さんのかもし出すリアリズムに安心感があった。
恐らく、わたしはこの映画を寅さんの延長として、観ていたかも知れない。
最後に倍賞千恵子が「長く生き過ぎた」と泣く場面にとても共感を覚えた。
人の持つ悲しさが、表現しきれない人の悲しさ、戦争を起こしてしまうこと、
恋愛にうつつを抜かすこと、罪を背負いきれないこと。
そう言う意味で、過激なシーンを作らなくても、少なくともわたしには人間の持っている悲しさは伝わった。