ならなしとり

外来生物問題を主に扱います。ときどきその他のことも。このブログでは基本的に名無しさんは相手にしませんのであしからず。

福岡伸一がまるで生物多様性を理解していないことについて

2010-02-06 21:05:30 | 福岡伸一
前回で終わりにしたかったけど、前回のやつは若干、生物多様性や進化生物学の知識が事前にないとどこがおかしいかわからないかもしれません。今回は、少しそこらへんを解説しながら福岡氏がいかに生物多様性を理解していないかについて明らかにしていきたいと思います。
まず、生物多様性とは何か一般的な教科書でよくつかわれる定義を引用します。

>生物多様性は、種多様性だけでなく、種内の遺伝的な多様性、生物群集や生態系の多様性、ひいては、それよりも高次のシステムで、人間の活動と自然の合作ともいうべき景観の多様性をも含む広い概念である。
保全生態学入門P17より引用

>人によって多少意見や表現が異なるが、生物の多様性は種、遺伝子、生態系の3つのレヴェルで考えることができる。
保全生物学P7より引用

>生物多様性とは、生態系、種、種内の集団の多様性、種内の遺伝的多様性を含む概念である。
保全遺伝学入門P20より引用

生態系の多様性とは川や海、森といった生態系のバリエーションのことです。種の多様性とはどれだけその地域に在来種が生息しているかということで、遺伝的多様性は種ないし個体群内での遺伝子のパターンのバリエーションのことです。ここでちょっと気をつけてほしいのは、多様性が低い=劣っているというわけでは必ずしもないことです。例えば種数が20の森と30の川を比べても、どちらも固有の要素(種、生態系としての役割等)をもっているのでどちらが優れているとは一概に言えません。また、遺伝子の多様性が種分化を促し種の多様性の原動力となるように多様性はそれぞれ関連性をもっているのでどれを軽視していいというものでもありません。

ネット上にあるものもいくつか紹介します。
Wiki 「生物多様性」
EICネット 
ここで重要なのはどこで紹介されているものでも生態系、種、遺伝子はどれもきちんと生物多様性として扱われていることです。この時点で福岡氏の言う

>福岡:生物学でいう多様性は、大きく2つに分けられます。1つの種の中にさまざまな個性があるという意味での多様性と、種そのものの多様性です。最近語られることの多い「生物多様性」は、後者を指しています

は遺伝子と種の多様性しか紹介していないうえに勝手に生物多様性=種の多様性としており、生物多様性の説明としてはだれがどう見たっておかしいことがわかります。たしかに種の多様性は注目されやすいですが、それは他を無視していいという裏付けにはなりません。いったいどんな生物学ですか。この時点で大学生よりよほど理解度が低いです(へたすりゃ中高校生以下)。生物多様性関係の入門書すら読んでいない気がするのは気のせいでしょうか。
ここから余談になりますが、一つ疑問なんですが体内の働きだろうと生物多様性だろうとなんでもかんでも「動的平衡」で締めくくりますけど、科学の用語としてみた場合ここまで守備範囲が広いっておかしくないですか?たとえるならピッチャー一人で野球をやるようなもの。現実にそんな万能ピッチャーはいませんが。
この世界はそんな言葉一つで説明できるほどこの人にとっては単純なんでしょうな。機械論より味気ない気がするのは僕だけでしょうか。

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2 コメント

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壷売り。 (C-D)
2010-02-08 01:01:26
この人単に「動的平衡」って言いたいだけぢゃないのかとも思うのですが・・・・。

自然界における「動的平衡」というのはあくまで結果であって目的ではないのですが、そこらへんを全く峻別せず、そこに何か霊的な力でも作用しているかのように「ほら、これが動的平衡です」と言われると、間違って壷買っちゃう人もいるかもですね。

まぁ、本来、生態学分野の用語として一般化してきた言葉を、分子生物学者に解説させようとするのもどうかと思いますがね。
私は、専門外の分野でも自己流解釈でとにかく答えてしまう科学者より、知らないことは知らないと言ってくれる科学者の方が信用できると思いますが・・・・科学者は何でも知っているかの如き風潮は最近の流行なんですかね?
まったくです (梨(管理人))
2010-02-08 20:54:09
>この人単に「動的平衡」って言いたいだけぢゃないのかとも思うのですが・・・・。

週刊誌に彼が生物多様性のことを書いているのを見てもそう思います。

>まぁ、本来、生態学分野の用語として一般化してきた言葉を、分子生物学者に解説させようとするのもどうかと思いますがね。

そもそもこの人よりよほど適任な人材なら豊富にいると思うんですけどね。新聞社もまったく……。

>科学者は何でも知っているかの如き風潮は最近の流行なんですかね?

有名になった科学者に何でもかんでも解説させるのは養老や池田を見る限り最近とも言い難い気もします。メディアも中身ではなく外面で選んでいることのいい証明ですね。