ならなしとり

外来生物問題を主に扱います。ときどきその他のことも。このブログでは基本的に名無しさんは相手にしませんのであしからず。

生態学者の中二病

2011-07-22 21:39:11 | 書籍
 生態学、進化生物学について書かれた新書は大きく2つに分かれます。1つは基礎的な事柄を平易に伝えようとする本。もう一つは、俺はこんなことが言えるんだぜと無意味に気取って内容がおろそかになる本です。今回読んだ「生態系は誰のため?」は後者に属する本でした。
著者の花里氏は信州大学でミジンコの研究をしています。氏の書いた本に鷲谷いずみ氏が過去に推薦文を書いたくらいの人物で、曲がりなりにも生態学のプロと言って差し支えない人物でしょう。
しかし、この本は酷い出来でした。あと10年もしたら池田清彦の仲間入りをするかもしれないと思ったくらいです。読者層をどこに向けているのか、もっと言えば、誰に向けた言葉なのか僕には皆目見当がつきませんでした。中途半端な理解者を生み出すだけで、誰に対してもお勧めしかねる本です。
この本で花里氏が言いたいことを短くまとめるならば、「もっと目に見えない生物にも注目してよ!」ということなのでしょう。しかし、それは他分野を必要以上に貶すことを許容するわけではありません。以下が突っ込みとなります。

・下調べが雑で不勉強
花里氏はP111で外来種の侵入にいつでも人間が関わっているわけでない、鳥などについて運ばれるものもあるだろうとしています。さっそくダウトです。外来生物というのは人間がその生物の移動力、分布域を越えて他所に持ち込んだ生物の事で、鳥について運ばれるというのは外来生物に当たりません。ただし、人間が持ち込んだうえで、鳥などにより拡散した場合は外来生物です。

・で?何が言いたいの?
花里氏の持論として、「生態系は破壊されたのではなく変化したのだ」という主張があります。この本でもたびたび出てきており、人間が森林を切り開いても、森林から都市へと生態系が変わっただけでだという内容の主張をしています。
僕からすれば、言葉の表現の問題にすぎないし、言葉の表現であるなら、より現象をシンプルに表せる言葉の方が的確でしょう。変化という言葉はあらゆる事象に対して使えはしますが、特定の事象を表すのに不適格な場合もあります。
生態系は常に何かしら変化していますが、長期的に見れば変化は一定の幅に収まっています。それを人間が一定の幅に収まらない変化を与えたことを破壊と言っても差し支えないし、それにより不利益を被るのですから変化というより破壊の方がよりシンプルに事象を説明できるでしょう。変化という言葉を使うべきと言っている花里氏はいったいどういうメリットを提示できているのか僕にはわかりませんでした。

・本当に生物多様性を理解しているのか?
 P140~42にかけて、氏は地球を化石燃料によって富栄養化させたことによりバイオマスが増え生物多様性が増大したと言っています。バイオマスのみで評価しようというあたり、まったくの底抜けで考えなしとしか言いようがありません。たとえば、貧栄養の環境でしか生きられない生物がいます。富栄養化すると競争相手が増えて絶滅してしまう生物です。具体的にはカワラノギクなどですね。こういう環境に肥料をぶち込んで富栄養化させることが本当に生物多様性を増やすのでしょうか?ご自身の専門であるプランクトンにしても貧栄養環境にしか棲めない種もいそうなものですが、そういった種はバイオマスの増大に貢献しないからどうでもいいのですかね?それこそ、ご自身の言っていることがそのまま跳ね返っているように見えます。

・新書は地雷だらけ
 生態学や進化生物に関する新書の多くは碌なものがありません。僕自身、ちくまプリマ―だけでもこれを含め6冊読みましたが、そのうちまともなものはシカの専門家である高槻氏らが書いたもの1冊だけでした。残りのうち2冊は池田清彦が書いたものであったり、1冊はドーキンスも読めない哲学者の独りよがり、「環境問題の基本のキホン」にいたっては、進化は優劣を決めるなどと書いてあり、そりゃぁいったいいつの時代だと突っ込みを入れたくなりました。
もちろん、丁寧に書かれた良書が存在するのも確かですが、数うちゃ当たるのは良書ではなく悪書のほうが確率が高いです。本当に勉強したい人は大学レベルの教科書(必ずしも難しいものばかりではない)を読むほうが的確な知識を得られます。