ならなしとり

外来生物問題を主に扱います。ときどきその他のことも。このブログでは基本的に名無しさんは相手にしませんのであしからず。

「国内外来魚問題の現状と課題」つづき

2009-10-29 22:19:01 | 保全生態学
 先日このブログでも紹介しました「国内外来魚問題の現状と課題」の講演要旨が魚類学会のHPに公開されているのでこちらでも紹介します。

市民公開シンポジウム 「国内外来魚問題の現状と課題」

講演要旨

僕もまだすべてには目を通していませんが、興味深かったのは放流されたコイが水質や生物群集に与える影響についてのものでした。なぜ興味深いかというと、コイはIUCN世界侵略的外来種ワースト100に選ばれるなど世界的にもその影響が危険視される外来生物であるにも関わらず、日本では放生会などで放されることの多い生物だからです。日本語の文献でこういったものにお目にかかったことはあまりなかったので興味深く読めました。ほかにも興味深い研究があり、そのうちこのブログでもネタにさせてもらいます。

追記
この講演内容はどうやら本になるらしいです。そのときはここでも取り上げます。

サイコロと生態学

2009-08-04 18:47:59 | 保全生態学
 保全生態学や進化生物学(正確には集団遺伝学か)では対象となる個体群の大きさが絶滅のしやすさや遺伝子の定着に関わってきます。たとえば、個体数が50個体ほどの小さな個体群ではたまたま天災にあったり、たまたまその年は捕食者にいつもより多く食べられたりといった偶然が重なってその個体群が絶滅してしまうということがあります。大きな個体群ではこういった偶然が重なって絶滅してしまうということはまれです。また、遺伝子も個体数が少ないほうがその個体群に定着、つまりすべての個体が同じ遺伝子Aを持つといったことが起こりやすくなります。
 これがどういうことかサイコロを使って説明してみます。n個のサイコロを1回投げてすべてのサイコロで1の目が出た時にお金があなたに支払われるとします。この場合、サイコロの数がn=1であったときあなたにお金が支払われる確率は1/6ですが、n=2であったときには確率は1/36になります。つまり、サイコロの数が多いほどあなたはお金を得にくくなるわけです。これを生態学に置き換えるとサイコロの数は個体群の大きさ、お金が支払われるというのは絶滅のしやすさや遺伝子の定着といった結果になります。ということは、サイコロの数が多いつまり個体群の大きさが大きいほど、お金が支払われるつまり絶滅や遺伝子の定着といった結果が起こりにくくなります。このように、生き物の保全や進化を考える上では確率が大きくかかわることがあります。

こういった話は保全生態学や集団遺伝学の教科書にはよく載っていることです。お粗末さまでした。

ゴリ研感想 その二

2009-07-21 21:58:15 | 保全生態学
 だいぶ間が空きましたが、ゴリ研の感想の続きです。前半の発表が済んでからは少しお茶の時間。この間に質問の時間に聞けなかったことなどを聞きました。快く答えてくださった発表者の方々ありがとうございます。
後半はハゼ関係2題とブラックバス駆除1題、オイカワの移植に関する遺伝子分析1題と最後に岐阜県レッドデータブックについての発表がありました。とくに興味深かったのはオイカワの移植に関する発表で、この発表によれば国内のオイカワのミトコンドリアDNAのタイプは大きく3系統に分かれ、その主要な分布域から東日本型、西日本型、九州型としたそうです。やはり、琵琶湖の鮎放流のせいか多くの場所で琵琶湖に見られるDNAのタイプが見つかったそうです。ただし、琵琶湖でみられるDNAのすべてではなく、特定のDNAに偏りがあったそうです。これは鮎の放流の際に集団遺伝学で言われるボトルネック効果が働いたのだと僕は思います。
レッドデータブックについては向井先生が発表なされていました。今回のレッドデータブックでは岐阜県に生息するタナゴ類すべてとスズキやクルメサヨリなどの海水魚がリスト入りしていました。タナゴ類については卵を産みつける貝がすべてレッドリスト入りしていることが理由でこれについては僕も理解できました。ただ、スズキなどの海水魚がレッドデータブックに追加されたのは理解できなかったので質問したところ、過去には岐阜県内にも遡上してきていたのでそれが最近の開発で出来なくなったのを生活史が破壊されていると解釈してレッドデータブックに載せたそうです。後日このことを友人に話したら不可解な顔をしていたのでこれはこれから議論になるかもしれません。(まだつづくかなぁ)

ゴリ研感想 その一

2009-07-12 23:47:02 | 保全生態学
 え~ここしばらく更新していませんでしたが、そろそろゴリ研のことを書こうと思います。今回のゴリ研は岐阜大学でおこなわれ、約三十人ほどの人が集まりました。今回の講演数は全部で10でこれは例年より少ないそうです。
そんなゴリ研でしたが、僕がゴリ研前半で面白いと思ったのはアベハゼとイズミハゼの地理的変異と沖縄県の川で採れた魚のことでした。
アベハゼとイズミハゼは共にアベハゼ科に属するハゼでアベハゼが宮城~種子島に、イズミハゼが琉球列島や種子島に分布し、体の斑紋で区別するとされています。しかし、この両種の中間的な特徴をもつ個体が九州にいるそうです。そして日本全国のアベハゼとイズミハゼのミトコンドリアDNAを調べたところ、アベハゼ型とイズミハゼ型の2系統に分かれていることが明らかとなったそうです。このDNAの系統の分布は本土と沖縄では斑紋とほぼ一致した分布を見せていますが、一部の地域では斑紋は違っていてもDNAのタイプは同じということがあるようです。また、紀伊半島ではアベハゼの生息域でありながらイズミハゼのDNAが見つかったことで沖縄からイズミハゼが黒潮等に運ばれて侵入した可能性が示唆されているそうです。
 沖縄の川で採れた魚については、その数の多様性に驚かされました。たしか一つの河川に数百種もの魚が生息しているという話でした。いいなあ、いつかいってみたいなあ。

動物園だけでは不十分

2009-06-27 20:50:17 | 保全生態学
 ごくたまにネット上で見られる意見に“動物園で飼えば野生絶滅しても問題ないのでは?”といったニュアンスの意見が見られます。確かに絶滅だけに注目し問題視するのならこれでもいいかもしれません。しかし、現実的な意見とは言えません。今日はこれついて飼育上の問題と資源へのアクセスの二点から説明します。
 まず、飼育上の問題として絶滅危惧種すべてに十分な環境が整えられないことがあげられます。陸上の脊椎動物に限定しても今後200年間に2000~3000種が絶滅回避のために飼育繁殖を必要とするとされていますが、動物園などで絶滅危惧種に使われているスペースは世界規模でみた場合5~10%ほどとされています。
さらにそもそも飼育方法が確立していない種も存在します。シロナガスクジラなどの大型クジラ類をイメージしてもらうとわかりやすいでしょうか。こういった動物を動物園などで飼育するのは現状不可能です。
 そして、資源へのアクセスという点からも動物園などではなく野生で繁殖してもらったほうが人間にもメリットがあります。かりに動物園で野生絶滅した種が保全されていたとしても元々の生息地でその種を利用していた人たちがその種を利用することはできません。つまり資源へのアクセスがごく一部の人に限定されてしまうわけです。まあそもそも絶滅しないようにするのが肝心ではありますが。
 動物園だけでは生物を保全するのに不十分です。あくまで動物園はもしもの時のための保険と認識しておきましょう。

生物多様性と数が多いことの違い

2009-06-09 23:29:38 | 保全生態学
 生物多様性についてのよくある誤解として数が多い=生物多様性も豊かであるというものがあります。典型的な例としては外来生物を入れたことによりその地域の種多様性が増したという主張でしょう。しかし、単純に“種の数”が多いだけでは生物多様性が多いとは言えません。なぜならば、生物多様性の文脈で持ち出される多様性は数の多さだけでなくどれだけその地域に“固有の要素”があるかというところも含まれているからです。ここでいう固有の要素とはその地域にすむ生物がたどった歴史や周りの環境との関連性などのことです。
つまり{生物多様性=数の多さ+固有の要素}となっているわけです。

 ここで話を外来生物と種多様性の関係に戻します。外来生物はほとんどの場合生物多様性の増加に寄与しているとみなされません。むしろ程度の差はあれど生物多様性の減少要因であるとみなされることが多いです。これはなぜかというと第一に外来生物は別に侵入先で保全しなくても元々の生息地にいるものを保全すればいいからです。
第二に外来生物がいることで固有の要素が壊されることがあるからです。たとえば食物連鎖に介入して在来生物を絶滅ないしは存続に不利な状況に追い込むことがあげられます。わかりやすい例としてはブラックバスと日本の淡水魚の関係でしょうか。ブラックバスがいることでその地域から固有の魚種が絶滅したり数を減らすといったケースは多々あります。この場合ブラックバスによってその地域の種多様性が脅かされているわけです。ブラックバスを入れた瞬間だけを見ればその地域の魚種が増えているように見えるけれど時間が経つにつれブラックバスに喰われて在来魚は減ってしまっています。仮に絶滅した魚種が一種もいないとしても、固有の要素が脅かされてしまっています。
このことから考えると数が多い=生物多様性が豊かであるとはならないことがわかります。
つまり外来生物を入れたことによりその地域の種多様性が増したという考えは物事を断片的に切り取っただけの見方であり時系列を追って物事を見据えるという視点がないのではないでしょうか。

一からの再導入より今あるものを大切に

2009-03-14 20:38:14 | 保全生態学
 今回は、再導入に関わるお金の話です。トキのようにすでに絶滅したものを再び再導入するにはお金が大量に必要です。一方、まだ野生で絶滅していない種の場合はそこまでお金がかかるということはないようです。ここではライチョウを例にしてトキと比較してみます。
 ライチョウは北半球北部に分布し、日本に棲むものは分布の南限に位置すると考えられています。日本のライチョウは主に北アルプスと南アルプスに生息しています。そして、これらの生息地に生息するライチョウは約3000羽と見積もられています。ヤンバルクイナが確か1000羽ほどですから単純計算でその3倍です。このように、数だけ見れば多そうにも見えるライチョウですが、実際は、生息地の分断、サルやシカの高山への進出、地球温暖化などで絶滅の危機にあります。レッドリストでは絶滅危惧II類、タンチョウと同じランクです。
 2005年にこうした状況を打開するため、ノルウェー産個体を使った繁殖ノウハウの確立、新たな施設、専門職員の雇用などを含め3200万円が必要という計画案が大町市に提出されました。しかし、大町市単独で予算を全額負担するだけのめどが立たず、国や県に資金援助を依頼したところ断られました(2006年3月の時点)。
 さて、ここでライチョウにかかるお金とトキにかかるお金を比較してみます。
ライチョウの保護ににかかるお金は中村 浩志 (著) 「雷鳥が語りかけるもの 」では3200万円、大町市ライチョウ保護事業計画策定委員会(ここの63ページ)では年間1000万円となっています。

>予算
飼育施設建設費および人件費を別と考え、飼育個体数や施設規模にもよるが、上記および以下に述べる飼育体制を整えるためには、年間1,000万円の経費は望まれる

 一方、トキの方は地球環境研究総合推進費をみると

>平成19年度実績(60,060千円)

となっています。ライチョウの約2倍ないしは6倍ですね。
トキでは1年だけで6006万円も使われてるのにライチョウのこの不遇っぷりはなんでしょう。トキにしてもそのすべてがトキだけに使われているわけではないでしょうが、やはり歴然とした差があります。1年にトキに使われるお金の2分の1でもライチョウに回せばライチョウは絶滅を回避できるかもしれないのです。
 このようにいったん絶滅した生物を再導入するよりも絶滅しかけている生物の保護の方がコストパフォーマンスでも優れているとは言えないでしょうか?トキの放鳥に喜ぶ人は絶滅から戻ってきた生き物のことだけでなく絶滅のがけっぷちにいる生き物のことにも思いをはせていただきたいです。

トキの放鳥におもう2

2009-03-12 19:40:58 | 保全生態学
 再導入というのは専門家の間でも意見がわかれる問題です。問題点のひとつは再導入を成功させるまでにかかるお金や人員。もうひとつは再導入に使う個体の出自です。再導入につかう個体がもともとその地域に生息していた種の系譜につらなる(その地域固有の遺伝子を持っている)場合はまだいいです。
しかし、トキの場合は中国産の個体を増やしているわけですから、日本のトキが持っていた固有の遺伝子を持っていないことは明白です。この場合、遺伝的多様性の保全の観点からトキを日本に持ち込むのは容認しづらいと考えられます。優先順位をつけるなら、外来の遺伝子より在来の遺伝子のほうがより保全すべき対象になるからです。これはブラックバスより日本産タナゴ類の保全に重きを置くようなものです。
 これに対して、トキの再導入に肯定的なひとは次のような利点をあげます。
・トキを旗頭として地域の自然再生につながる
実際、トキの再導入にかかわる本ではこれが利点としてよくあげられていますし、事実としてある程度はトキを旗頭とした自然再生は効果はありそうです。同じく再導入されたコウノトリでは、コウノトリを自然再生の旗頭にして休耕田を魚などが住みやすい環境に変えたり、無農薬、減農薬の米作りにもつながっていると聞きます。ですから、多くの生物が住みやすい環境を作るという目的においては、トキの再導入は手段のひとつとして有効だと思われます。
 ですが、再導入そのものの成功や外来生物問題という観点からは、いまの状況を素直に喜べないという気持ちが僕にはあります。外来生物問題の観点からは定義上トキもブラックバスも外来生物ですから、あまりトキを特別扱いするのはダブルスタンダードともとられかねません(これは僕自身がトキにあまり思い入れがないからかもしれません)。また、再導入として成功するのかという点でも懐疑的です。これまでに数々の再導入が行われましたが、そのうち保全生態学的に成功と呼べるのは十数件ほどと聞きます。再導入が成功とみなされるのは1000単位の数の個体群が複数個所に生息しているのが条件です。いまの日本にそれだけのトキを養える容量があるのかというのが僕がトキの再導入に懐疑的な理由のひとつです。

トキの放鳥におもう

2009-03-12 09:36:03 | 保全生態学
 最近のニュースでは、佐渡で放鳥したトキが本州に渡ってきたという話題でもちきりですね。トキをきっかけに自然のことに目を向けてくれる人が多くなるのは喜ばしいんですが、僕はこういった放鳥にたいして複雑な思いです。
 まず、トキの放鳥というのは、保全生態学では再導入と呼ばれるものにカテゴライズされます。再導入とは、野外で絶滅した種をもともと住んでいた地域に再び定着するように試みる行為のことです。具体的には別の生息地から絶滅した種を持ってくることなどです。トキの場合、日本ではすでに絶滅しており、現在のトキはすべて中国産のペアを繁殖させて増やしたものです。
 外来生物について詳しい人ならもうおわかりでしょうが、現在、日本にいるトキは外来生物です。なぜなら、中国から人の手を介して持ってきたペアの子孫だからです。ここで疑問が生じる人がいると思います。“同じ外来生物なのになぜブラックバスは駆除されてトキはそうならないのか”
この疑問にたいする答えとしては
・トキの放鳥は多くの(地域の)人に望まれている(釣り関係者くらいしかその存在を望まないバスとは違う)
・バスほど生態系に与える影響は少ないと思われる
・トキを旗頭として地域の自然再生につながる
といったものがあると思われます。
しかし、それを考慮しても僕はトキの再導入には懐疑的です。続きは今夜あたりにでも。

自戒

2009-02-02 21:31:56 | 保全生態学
 今日は取り留めのない話をつらつらと。
 多少保全生態学をかじってきて思ったこと。保全生態学を学ぶ人ってのは大概動物好き自然好きでかなり知識の深い人が多い。極端な言い方をすればマニア。そんでもって最近はそんなマニアの言うことにも世間が耳を傾けてくれるようになった。これは保全生態学の出す物差し(見方)や情報が社会に必要とされているからであり、またそういう風になるように先人が努力してきたから。
 僕が思う保全生態学の役割とは自然と人間の間に折り合いをつけてやってくための手助けをすること。具体的には外来生物のリスクを正確に伝えたりすることなど。こういう風に社会に利益還元ができないのであれば保全生態学を学ぶ意味はないと思う。ある作家のブログでエリートとは全体を見て全体の利益を引き出す高度な判断ができる人のことだろうとあった。僕もそうなれる保証などどこにもないがそうなるための努力はしたい。