2月23日 nhk海外ネットワーク
人口12億のインド。
宇宙開発、IT技術など目覚ましい進歩が続いている。
多くの理系の研究者を輩出したインドの“頭脳”に世界中が注目し
優秀な生徒を集めようと欧米などの大学が激しい競争を繰り広げている。
そこの割って入ろうと東京大学が去年
インド南部のバンガロールに事務所を開き学生の獲得を目指している。
2012年10月 イギリスの専門誌が世界の大学ランキングを発表した。
(タイムズ・ハイヤー・エデュケーション)
1 カリフォルニア大学(アメリカ)
2 オックスフォード大学(イギリス)
3 スタンフォード大学(アメリカ)
4 ハーバード大学(アメリカ)
5 マサチューセッツ大学(アメリカ)
6 プリンストン大学(アメリカ)
7 ケンブリッジ大学(イギリス)
8 インペリアルカレッジロンドン(イギリス)
9 カリフォルニア大学バークリー校(アメリカ)
10 シカゴ大学(アメリカ)
11 エール大学(アメリカ)
12 スイス連邦工科大学(スイス)
13 カリフォルニア大学ロサンゼルス校(アメリカ)
14 コロンビア大学(アメリカ)
15 ペンシルバニア大学(アメリカ)
16 ジョンズホプキンス大学(アメリカ)
17 ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ(イギリス)
18 コーネル大学(アメリカ)
19 ノースウエスタン大学(アメリカ)
20 ミシガン大学(アメリカ)
21 トロント大学(カナダ)
22 カーネギーメロン大学(アメリカ)
23 デューク大学(アメリカ)
24 ワシントン大学(アメリカ)
25 ジョージア工科大学(アメリカ)
26 テキサス大学オースチン校(アメリカ)
27 東京大学(日本)
28 メルボルン大学(オーストラリア)
29 シンガポール国立大学(シンガポール)
30 ブリティッシュコロンビア大学(カナダ)
東京大学は初めて調査の行なわれた2002位の12位から順位を落としている。
こうしたことから東大は危機感を抱いている。
インド南部の都市バンガロールはIT企業が集まり“インドのシリコンバレー”と呼ばれる。
創立から約150年 多くの科学者や企業経営者などを輩出した私立男子校は
バンガロール有数の名門校である。
生徒の親はIT企業の社員や弁護士、銀行の役員などで多くは裕福で恵まれた環境にある。
優秀な生徒を獲得しようと
欧米をはじめオーストラリアやカナダ、シンガポールなどから留学の誘いがあるという。
インドは独立以来 産業の発展を支える理系の優秀な研究者を数多く育成してきた。
その可能性の大きさに世界中が注目している。
(校長)
「カナダにいたっては去年11月 首相自ら留学の勧誘に来た。」
毎年1割程度の生徒が国外の大学に進学する。
多くはイギリスやアメリカの大学で日本への留学実績はない。
(卒業生)
「自動車工学を勉強するためドイツに留学したい。」
「兄が学んでいたアメリカのスタンフォード大学に行きたい。」
東京大学インド事務所長 吉野宏さんは優秀な理系の学生を獲得しようと
卒業式に出席した。
なんとか東大を売り込もうと資料を配ってPRするが・・・。
(卒業生)
「東大なんて聞いたことがない。」
(東大インド事務所長 吉野宏さん)
「伝統の力なのかイギリスの力か日本にはない重みを感じた。
日本というのは彼らの想定外。
しょうがない。」
吉野さん自身も東大のОBで
大手商社の社員として12年間インドに駐在した経験や人脈をかわれ抜擢された。
吉野さんに課されたのは1人でも多くの優秀なインド人の学生を東大に送り込むこと。
しかし吉野さんが本格的に活動を始めてから決まったのはわずか5人。
インドからの留学生をは約100人にしたいと意気込んでいるが
厳しい現実に直面している。
(東大インド事務所長 吉野宏さん)
「奨学金を約束して“どうぞ来てください”と言っても
最終的には何人か辞退ということも起きている。
インドの優秀な学生は全世界の奪い合い。」
欧米志向の強い名門校に食い込む努力を続ける一方
貧しくても優秀な若者にアタックできないかと吉野さんは考えた。
そこで注目したのがアーナンド・クマールさんである。
貧しい家庭の生徒を対象にした予備校を開き
多くの生徒を難関大学に合格させてきたカリスマ教師である。
(生徒)
「クマール先生に教わりたいから500キロ離れた町からきている。」
「何でもやればできると言う勇気を与えてくれる。」
生徒は500人余。
学費は年間1万円程度で支払いを免除される生徒もいる。
クマールさんは収入の多くを予備校の経営につぎ込んでいる。
クマールさん自身貧しかったことで留学を断念した経験があり
同じ思いを子どもたちにさせたくないという気持ちがあると言う。
(アーナンド・クマールさん)
「家庭の経済状況にかかわらずすべての生徒に教育機会を与えたい。」
予備校の中でも毎年30人しか入れない特進クラスはその名も“スーパー30”。
毎年 5,000人余の応募者から試験で絞り込む。
これまでに300人が卒業し9割近くがインド最難関のインド工科大に合格。
吉野さんがクマールさんに会ったのは去年の10月
日本のものづくりの技術とインドの優秀な頭脳は融合できると
東大留学の意義を強調した。
(アーナンド・クマールさん)
「吉野さんからぜひ東大を見に来てほしいと言われた。
スーパー30の学生1,2名を日本に呼びたいと言われた。」
(吉野宏さん)
「クマールさんはものすごく多くの貧しい学生の中から
極めて優秀な学生を見つけ鍛えている。」
2月13日 吉野さんはクマールさんをはじめインドの学校の校長など6人を
東大に招いた。
東大は普段は公開していない研究室に案内し
研究水準の高さをアピールしたほか現役の研究者たちを会話する機会を設けた。
視察の後の意見交換会では
インド側から大学の宣伝不足や英語での授業の拡大の必要性など
厳しい指摘も出された。
「アメリカは売り込みが上手く留学生の人気が高い。
インド人は植民地時代からイギリスの教育制度を知っている。」
「貧しい家庭から誰かひとり東大に留学すれば
東大のプログラムに注目が集まるはず。」
クマールさんは特に研究施設の充実ぶりに好印象を持った。
(アーナンド・クマールさん)
「研究施設だけでなく謙虚で親切な人たちが多く感銘を受けた。
いい条件がそろっているのでインドの学生が来ると思う。」
(吉野宏さん)
「今まで持っていたマイナスのイメージが払しょくされたことは大きい。
インドの校長先生が推薦すれば必ずインパクトがあると実感 確信した。」
東大が目指すグローバルな大学への進化。
その成否はインドの若者たちをどれだけひきつけられるかにかかっている。