トロのエンジョイ! チャレンジライフ

「人生で重要なことはたった3つ。どれだけ愛したか。どれだけ優しかったか。どれだけ手放したか」ブッダ

連載小説「アーノンの海」第7回

2018-07-11 18:57:52 | 小説・アーノンの海
 村の公民館にて……
「アーノンとは……便宜上、つけた名前です。英語のunknownから来ています」
 智美は、村人たちの前で、説明した。
「人間の心に干渉して、幻覚のようなものを見せる能力があると思われます」
 敦美の父の、飯田紀之が、手を挙げて質問した。
「うちの敦美が死んだのも、そいつのせいかね?」
「はい……でも、アーノンは、敦美さんを殺そうとして、殺したのではないと思います」
「そりゃ、どういうこったい?」
「アーノンは、人間が海では生きられないことを、知らなかったのかもしれません」
「……」
 村人たちが、ざわつき始めた。
「海が光っているのを見たら、すぐに逃げなきゃならねえな」
「海に近づくのも、危ねえんじゃねえか?」
「この噂が広まったら、誰もこの村に来なくなるぞ」
 勝部は大きな声で、
「静かに! まだ説明は終わってねえ!」
 大工の倉部勝(くらべまさる)が、
「善さん、なんであんたが仕切るんだ」
「なに……」
「この村みんなの問題じゃねえか」
「わかったわかった、とにかくあの子の説明を、最後まで聞けちゅうんだ」
「ふん……」
 村人たちがようやく静まると、智美は続けた。
「なにか、訴えかけているのかもしれないんです。なにか感じた、という方がいらっしゃったら……」
 とりあえず、一通りの説明は終わり、集会は解散となった。

「すまなかったな、智ちゃん」
「いいえ……」
「みんな家族みてえなもんだが、事が切羽詰まってくると、手前勝手なことしか言わねえ。情けねえこった」
 勝部と智美が話していると、
「あの……よろしいですか」
 青白い顔をした女が、話しかけてきた。
「おお、滝沢さん」
「うちの娘なんですが……」
「ええと、絵里ちゃんか?」
「ええ、今……お恥ずかしい話ですが、引きこもっておりまして」
「……」
「あの子は、なんといいますか、カンが鋭いというか……そういうところがありまして」
「うん」
「他の人にはわからないものが、見えたり、聞こえたりするらしいんです。特に最近では、海のほうをじーっと見やっていることが多くて」
「……ふむ」
「もしよければ……お役に立てるかどうか、わかりませんが」
 勝部と、智美は、顔を見合わせた。

 もしかすると……?




(つづく)





コメント (8)
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