「これ、家族の写真です」
そう言って智美は、1枚の写真を見せた。
高道と、初めて見る彼の妻、それと智美の3人が写っていた。
(高道のやつ……禿げたな)
勝部は思わず吹き出しそうになった。
「それで……あんたはなぜ、この村に来たんだい。わざわざおれに会いに来てくれたのかい?」
「それも、ありますけど」
「やっぱり、さっきあんたが言ってた、アーノンとかいうものを調べているのか」
「ええ」
「高道は、知っているのかい、このことを」
「言わないで来たんですが……おそらく、うすうすは」
高道にしてみれば、なにより娘のことが心配だったのだろう。
よろしく頼む、と、ひとこと言えばいいものを。
(意地っ張りなところは変わってないな)
「おれは、そのアーノンとかいうもののおかげで、あやうく死ぬところだったんだね?」
勝部は言った。
「あの時……おじいちゃんはどんどん海の中へ入っていったんです」
「……」
「ウェットスーツがあったんですけど、着るヒマもありませんでした」
「そうか……すまなかったね」
「なにが、見えましたか?」
「そうだな、まず海がぼーっと光っていたんだよ」
「うんうん」
勝部は、あの時光の中で見たものを、改めて智美に話した。
智美は、真剣なようすで聴いていたが、
「間違いありません。アーノンが現れたんです」
「そのアーノンってやつは、何だい? 魚か? それともクジラ?」
「何か、まだわかりませんが、海に棲むものです。生物なのか、それとも根本的に異質なものか」
「アッちゃんも、おそらくは、おれと同じように……?」
「……はい」
「妙な話になってきたが……信じるよ。海ってのは、わからんことがまだまだ多いからな」
「そうですね」
「よし、おれも、あんたの仕事に協力しよう。おれだけじゃない、この村全員がな」
「本当に? ありがとう」
勝部の頭に、不意に、高道の言葉がよぎった。
妙なことに、首を突っ込むなよ。
まあ、いいじゃないか。
翌日、勝部と、智美は、村長の家を訪ねた。
小柳正(こやなぎまさし)村長は、2人の話を聴いた後、
「そりゃ、あの海岸はとうぶん、立ち入り禁止にするしかないな」
「小柳さん、あんたもそう思うかね」
「妙なものが居着いているんだろう? その……アーノンとかいう」
智美は、
「アーノンに近づくことは危険ですが、もし、アーノンに意志があるなら、交信することも可能かもしれません」
小柳と勝部は、顔を見合わせた。
「交信、ねえ……そのアーノンとやらと話し合って、出て行ってもらうのかい」
小柳が言った。
「相手は、人間とは違うんだろう? よくわからんが」
「アーノンとコミュニケーションできる人が、もしかしたら、この村にいるかも」
「しかしなあ……アッちゃんが死んだのも、そいつのせいなんだろう? それに、善さんもあやうく死ぬところだった」
「……」
「片桐さんから、警察に協力してもらって、海の中を探すか。そして、退治してもらう」
「……」
「あんたにしてみりゃ、不本意かもしれんが、村人の安全が第一だからな」
智美は悲しそうな表情を浮かべ、
「……そうですね」
帰り道、2人は押し黙っていたが、勝部のほうが口を開いた。
「すまんなあ。ああいう話になってしまって」
「いえ、村長さんのおっしゃる通りだと思います」
「……」
「人間とアーノンは、関わるべきではないのかも」
「……まあ、この村が気に入ったのなら、しばらく滞在してみてくれ」
「……」
「なんか、いい解決策が、見つかるかもしれんからな」
「ありがとう、おじいちゃん」
智美に、おじいちゃんと呼ばれるたびに、ニヤニヤしてしまう。
(いいもんだな……孫ってのは)
(つづく)
そう言って智美は、1枚の写真を見せた。
高道と、初めて見る彼の妻、それと智美の3人が写っていた。
(高道のやつ……禿げたな)
勝部は思わず吹き出しそうになった。
「それで……あんたはなぜ、この村に来たんだい。わざわざおれに会いに来てくれたのかい?」
「それも、ありますけど」
「やっぱり、さっきあんたが言ってた、アーノンとかいうものを調べているのか」
「ええ」
「高道は、知っているのかい、このことを」
「言わないで来たんですが……おそらく、うすうすは」
高道にしてみれば、なにより娘のことが心配だったのだろう。
よろしく頼む、と、ひとこと言えばいいものを。
(意地っ張りなところは変わってないな)
「おれは、そのアーノンとかいうもののおかげで、あやうく死ぬところだったんだね?」
勝部は言った。
「あの時……おじいちゃんはどんどん海の中へ入っていったんです」
「……」
「ウェットスーツがあったんですけど、着るヒマもありませんでした」
「そうか……すまなかったね」
「なにが、見えましたか?」
「そうだな、まず海がぼーっと光っていたんだよ」
「うんうん」
勝部は、あの時光の中で見たものを、改めて智美に話した。
智美は、真剣なようすで聴いていたが、
「間違いありません。アーノンが現れたんです」
「そのアーノンってやつは、何だい? 魚か? それともクジラ?」
「何か、まだわかりませんが、海に棲むものです。生物なのか、それとも根本的に異質なものか」
「アッちゃんも、おそらくは、おれと同じように……?」
「……はい」
「妙な話になってきたが……信じるよ。海ってのは、わからんことがまだまだ多いからな」
「そうですね」
「よし、おれも、あんたの仕事に協力しよう。おれだけじゃない、この村全員がな」
「本当に? ありがとう」
勝部の頭に、不意に、高道の言葉がよぎった。
妙なことに、首を突っ込むなよ。
まあ、いいじゃないか。
翌日、勝部と、智美は、村長の家を訪ねた。
小柳正(こやなぎまさし)村長は、2人の話を聴いた後、
「そりゃ、あの海岸はとうぶん、立ち入り禁止にするしかないな」
「小柳さん、あんたもそう思うかね」
「妙なものが居着いているんだろう? その……アーノンとかいう」
智美は、
「アーノンに近づくことは危険ですが、もし、アーノンに意志があるなら、交信することも可能かもしれません」
小柳と勝部は、顔を見合わせた。
「交信、ねえ……そのアーノンとやらと話し合って、出て行ってもらうのかい」
小柳が言った。
「相手は、人間とは違うんだろう? よくわからんが」
「アーノンとコミュニケーションできる人が、もしかしたら、この村にいるかも」
「しかしなあ……アッちゃんが死んだのも、そいつのせいなんだろう? それに、善さんもあやうく死ぬところだった」
「……」
「片桐さんから、警察に協力してもらって、海の中を探すか。そして、退治してもらう」
「……」
「あんたにしてみりゃ、不本意かもしれんが、村人の安全が第一だからな」
智美は悲しそうな表情を浮かべ、
「……そうですね」
帰り道、2人は押し黙っていたが、勝部のほうが口を開いた。
「すまんなあ。ああいう話になってしまって」
「いえ、村長さんのおっしゃる通りだと思います」
「……」
「人間とアーノンは、関わるべきではないのかも」
「……まあ、この村が気に入ったのなら、しばらく滞在してみてくれ」
「……」
「なんか、いい解決策が、見つかるかもしれんからな」
「ありがとう、おじいちゃん」
智美に、おじいちゃんと呼ばれるたびに、ニヤニヤしてしまう。
(いいもんだな……孫ってのは)
(つづく)