滝沢絵里(たきざわえり)は、ぼんやりと部屋の窓から、海を眺めていた。
今日はどうしようか。学校へ行こうか。
別に学校になど、何の興味もなかったけれど、あまり行かないでいると、両親が心配するかもしれない。
絵里が在籍している高校は、村から5キロほど離れたところにある。
ここ1か月くらい行っていないが、行けば行ったで、馬鹿なクラスメイトたちの好奇の視線にさらされるのは分かっていた。
いじめられているわけではない。が、友達と呼べる者はほとんどいなかった。
1年生のころは、それでも人並みに、高校生活を楽しんでいた。
変わったのは、ヨシヒコとつきあうようになってから。
絵里のほうは、本気だった。
ヨシヒコは、ちょっと不良っぽい、イケメン……と思っていた。
そうではないとわかったのは、つきあい始めて半年がたった頃だった。
ヨシヒコは、ちょっと不良っぽいのではなくて、本物のクズだった。
絵里が、ちょっと可愛くて、支配欲をそそるからという、それだけ……でも、つきあっていたころは、それでもいい、と思っていた。
絵里のほうは運命の相手だと思っていたが、ヨシヒコにとって絵里は、単に性欲の処理にちょうどいい女でしかなかった。
別れ際のヨシヒコのセリフが、これまた最高に笑えた。
おまえはオレのことを、忘れられないだろう。
確かに、忘れられないかもしれない。あんなダサい男は、そうそういないだろうから。
別れて以来、下駄箱や、机の上に、おかしなメモのようなものが、置かれるようになった。
「ヤリマン・エリ」だとか、「公衆便所」だとか、いろいろ……
ヨシヒコの取り巻きたちが、やっているんだろう。
そういうことをすれば、恥ずかしがるとでも、思っているのだろうか。
男なんて、どいつもこいつも、似たようなものだ、と思う。
目的意識もなにもなくて、噂話と恋愛ごっこに明け暮れている女子たちにも、幻滅してしまった。
他にやること、ないのかな。
そのうち、学校に行くのも、馬鹿らしくなった。
ぼーっとしていると、突然、「それ」がやって来た。
頭の中に響く声、というか、強い感情の波動のようなもの。
(まただ……)
「それ」は、ますます頻繁に、絵里のところへ、やって来るようになっていた。
いったい何なのか、わからない。だが、強い悲しみと、切迫感を感じた。
絵里は意識を集中させ、「それ」に向かって、親しみをこめたメッセージを送った。
すると、悲しみや切迫感が、やや和らいだような気がした。
姿は見えないけれど、「それ」は、絵里にとって唯一の友人のような気がしていた。
「それ」は、やがて遠ざかっていった。
今はまだ、単純な感情の交信しかできないけれど、くり返し練習すれば、もっと複雑なコミュニケ-ションもできるようになるかもしれない。
絵里には、それが楽しみで仕方なかった。
(つづく)
今日はどうしようか。学校へ行こうか。
別に学校になど、何の興味もなかったけれど、あまり行かないでいると、両親が心配するかもしれない。
絵里が在籍している高校は、村から5キロほど離れたところにある。
ここ1か月くらい行っていないが、行けば行ったで、馬鹿なクラスメイトたちの好奇の視線にさらされるのは分かっていた。
いじめられているわけではない。が、友達と呼べる者はほとんどいなかった。
1年生のころは、それでも人並みに、高校生活を楽しんでいた。
変わったのは、ヨシヒコとつきあうようになってから。
絵里のほうは、本気だった。
ヨシヒコは、ちょっと不良っぽい、イケメン……と思っていた。
そうではないとわかったのは、つきあい始めて半年がたった頃だった。
ヨシヒコは、ちょっと不良っぽいのではなくて、本物のクズだった。
絵里が、ちょっと可愛くて、支配欲をそそるからという、それだけ……でも、つきあっていたころは、それでもいい、と思っていた。
絵里のほうは運命の相手だと思っていたが、ヨシヒコにとって絵里は、単に性欲の処理にちょうどいい女でしかなかった。
別れ際のヨシヒコのセリフが、これまた最高に笑えた。
おまえはオレのことを、忘れられないだろう。
確かに、忘れられないかもしれない。あんなダサい男は、そうそういないだろうから。
別れて以来、下駄箱や、机の上に、おかしなメモのようなものが、置かれるようになった。
「ヤリマン・エリ」だとか、「公衆便所」だとか、いろいろ……
ヨシヒコの取り巻きたちが、やっているんだろう。
そういうことをすれば、恥ずかしがるとでも、思っているのだろうか。
男なんて、どいつもこいつも、似たようなものだ、と思う。
目的意識もなにもなくて、噂話と恋愛ごっこに明け暮れている女子たちにも、幻滅してしまった。
他にやること、ないのかな。
そのうち、学校に行くのも、馬鹿らしくなった。
ぼーっとしていると、突然、「それ」がやって来た。
頭の中に響く声、というか、強い感情の波動のようなもの。
(まただ……)
「それ」は、ますます頻繁に、絵里のところへ、やって来るようになっていた。
いったい何なのか、わからない。だが、強い悲しみと、切迫感を感じた。
絵里は意識を集中させ、「それ」に向かって、親しみをこめたメッセージを送った。
すると、悲しみや切迫感が、やや和らいだような気がした。
姿は見えないけれど、「それ」は、絵里にとって唯一の友人のような気がしていた。
「それ」は、やがて遠ざかっていった。
今はまだ、単純な感情の交信しかできないけれど、くり返し練習すれば、もっと複雑なコミュニケ-ションもできるようになるかもしれない。
絵里には、それが楽しみで仕方なかった。
(つづく)