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ロンドンから徒然に

シャロットの女

2009-07-14 | アート
 うつせみの世を / うつつに住めば / 住みうからまし / むかしも今も
 うつくしき恋 / うつす鏡に / 色やうつろう / 朝な夕なに
 
 塔に幽閉された少女がいました。彼女は呪いのため直接外の世界を見ることが許されず、鏡を見ながら機を織る毎日でした。
 そんなある日、鏡の中に映った騎士の姿に一瞬にして恋に落ち、彼の姿を見ようと外の世界に出てしまいます。その瞬間呪いがかかり、待ち受けていたのは死の訪れ。
 運命を悟った彼女は小舟に乗って鎖を解き放ちます。夜の川を下る小舟の中で死した彼女が辿り着いた場所は、鏡に映った騎士のいる地でした。

 間違っていたらすみません。アーサー王の伝説をもとにした“シャロットの女”は、こんなストーリーだったと思います。この鏡に映った騎士こそがアーサー王の片腕であるランスロットです。
 夏目漱石の薤露行(かいろこう)という短編小説の題材にもなっており、最初に書いた詩はその中から抜粋しました。



 ところで、この小舟の死の場面を描いたのが上の絵です。イギリスの画家J. W. ウォーターハウスの筆になるものです。画集の写真では伝わらないかもしれませんが、これは本当に凄い作品ですよ。
 今まさに叶わぬ恋心を持ったまま死の世界に旅立とうとする女性の悲痛さが重く伝わるのに、何とも言えない気品と幻想性が漂っていて、この作品の前に立つと思わず胸が締め付けられそうになります。
 ここからは彼女のか細く、しかし美しい歌声が聞こえてきそうな気がしませんか?

 神話や文学作品をテーマにすることが多いJ. W. ウォーターハウスの作品は、どれもその物語性に思いが行って、ずっと見ていても飽きません。
 それに登場する女性達の綺麗なこと!皆、儚げで美しくて、それでいて少しセクシーで。



 今、ロイヤル・アカデミーで“J. W. Waterhouse : The Modern Pre-Raphaelite”という展覧会が開かれています。
 いつもはテート・ブリテンにあるこの絵を含めて、かなり見応えのあるものになっています。お薦めです。