HOBNOBlog

ロンドンから徒然に

ダーク・ナイト ~ ヒース・レジャーの遺作

2008-07-31 | 映画・演劇
 昨日書いた『WALL・E』と、ある意味対極にあるアメリカ映画がこれでしょう。『ダーク・ナイトThe Dark Knight』。バットマン・シリーズの第......あれっ?何作目に当たるのかな?ついでに整理してみます。
① バットマンBatman (1989)
② バットマン・リターンズBatman Returns (1992)
③ バットマン・フォーエヴァー Batman Forever (1995)
④ バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲 Batman & Robin (1997)
⑤ バットマン・ビギンズ Batman Begins (2005)
 そうか、もう第6作目になるわけですね。しかし、④と⑤の間の8年間ものブランクや、元にした原作、⑤の監督や主要キャストが(レイチェル役を除いて)同じことなどを考えると、『バットマン・ビギンズ』の続編と考えた方がいいと思います。

 しかし、こうやって改めて並べてみると、シリーズを続けるというのは大変なことだと感じます。ましてや原作となったアメリカン・コミックのマニアックなファンのことを考えると、多くの観客を動員しなければならない大作映画の宿命とのバランスを取るのは至難の業でしょう。
 事実ティム・バートンが監督した①や②は、彼の独特の世界観が強調され過ぎて、広く大衆に受けるという意味では辛いものがありましたし、④までポップに振れ過ぎると、コアなバットマン・ファンから批判が出るということになります。

 その意味では、今回の『ダーク・ナイト』は成功だと思います。トーンとしてはかなり暴力性と陰鬱さが支配しているものの、それも原作を知る僕の周りのファン(残念ながら僕はこのコミックを読んだことがありません)は、このタイトさが良いと言います。大仕掛けの部分も迫力に富んでいて、これは一般の映画ファンも満足するでしょう。

 しかし何といっても、今回の映画で一番印象的なのはヒース・レジャー演じるジョーカーでしょう。①でジャック・ニコルソンの怪演(?)があって、これを超えるのは難しいだろうと思っていましたが、ヒースのジョーカーはこれまた異様な迫力に溢れていて、映画を観ている最中ずっと身体に力が入ってしまいました。
 完成を待たずして亡くなってしまいましたが、このことももしかしたら話題を呼んでヒットの一因になっているのかもしれません。もちろんそんなことがなくても称賛に値する素晴らしい演技でしたが。

 ところで、原作のコミックThe Dark Knightでは、一度引退したバットマンが復活するという設定で、この時点で彼の年齢はなんと55歳らしいです。映画の方も複雑な終わり方ではありましたが、まだまだ若いバットマン(クリスチャン・ベールが好演)だったので、きっと続編が作られると思います。
 もしジョーカーが出るのなら誰が演じるのか、あるいはキャットウーマンにアンジェリーナ・ジョリーの出演が決まっているという噂もあるので、この先も楽しみです。


NASAのアルバイトとWALL・E

2008-07-30 | 映画・演劇
 最近NASA(米航空宇宙局)の募集した、ちょっと変ったアルバイトが話題になりました。3ヶ月間寝たまま過ごせる人という募集で、報酬が17,000ドル(約187万円)ということです。
 無重力の宇宙で過ごすのと同じような状況を作り、骨や筋肉にどういった影響が出るかを確認する実験らしいのですが、何しろ食事はもちろんトイレも特別な装置で寝て用足しをしなければならないという、文字通り寝たままのアルバイトなのです。
 寝たままでさえいれば読書も音楽鑑賞も構わないし、携帯やパソコンを使うのもOKということなのですが、頭を下に6度傾けたベッドに横たわらなければならないというのは相当苦痛なのじゃないでしょうか...ちなみにこれは宇宙で体液が頭の方に移動してしまうのと同じ状況を作り出すためらしいです。

 3ヶ月くらいならともかく、ずっとこんな生活が続くとおそらく骨も筋肉も衰えるのは間違いないでしょう。実はこんな人間の姿を最近の映画の中で見ました。時は29世紀、汚染で住めなくなった地球から遠く離れた宇宙船の中で、人間たちが車のように動くカプセルの中に入ったまま過ごして、自分の力では歩くことさえ覚束なくなっていたのです。
 一方その汚れた地球では、700年もの間ただ“ひとり”(?)ゴミを集めて綺麗にしているロボットがいました。その名もウォーリー。正しくはWALL・Eと綴り、その意味はWaste(ゴミ)Allocation(配置)Load(積載)Lifter(運搬機)Earth-Class(地球型)の頭文字を取ったものなのです。
 この映画『ウォーリーWALL・E』は日本ではクリスマス向けの映画だということなので、まだ封切りは大分先の話ですが、おそらく早い段階から話題になると思います。



 PIXARの得意とする3Dアニメなのですが、これはおそらく今までで一番の出来なのではないでしょうか。もちろん地球の環境問題だとか、友情や愛のテーマだとか、そのあたりを加味して評価する人もいると思いますが、もうそんなことはどうでもいい(なんて言うと語弊があるかな)くらい、キャラクターがとにかく可愛いのです。
 部分部分を見ると全て機械っぽいのに、あれだけ愛らしい感情表現ができる技術には驚きます。主人公のウォーリーだけでなく、“恋愛”の対象となるイヴEveにしても、主人公の角ばった姿と対照的に曲線の造形でごくシンプルなのに、それがまた活きています。その他の脇役もまた壺を押さえていて素晴らしい。

 正直言うと僕はあまりアニメ映画って好きじゃなくて、わざわざ映画館に行くこともなかったのですが、今回はハマってしまって、鑑賞後にいつまでもウォーリーとイヴが互いを呼び合う声が頭から離れませんでした。
 街のあちこちにある広告を見た子供たちがあの声を真似しています。思わずその横で同じ言葉を発声しそうになる自分がちょっとこわいです(笑)


チッペナムの人の親切

2008-07-29 | 旅・イベント
 週末の1日の出来事で3日間もブログを引っ張るのもなんですが、カッスル・クームとレイコックのことを書いたら、拠点にしたチッペナムChippenhamのことも話題にしなければ申し訳ないかな。いや、誰に対してというわけではないのですが、敢えて言うなら、この街の人の暖かさに対してです。

 ここはそれなりに歴史のある町で、インフォメーション・センターにも「千年の歴史を持つ町にようこそ!」とのチラシが置いてあります。町を横切る川には白鳥が優雅に泳ぎ、その隣の公園で人々がのんびりと日光浴をしています。
 しかし、コッツウォルズを語る時には、チッペナムはその中には入れられずに“隣接した町”として扱われると思います。事実ここは 周辺の“村”に比べると、きちんとした“町”であって、銀行もショッピング・センターもあり、おそらくコッツウォルズの村の人たちはここまで買い物に来るんじゃないかと思います。

 何よりこの町には鉄道が通っています。おかげで僕みたいに車を運転しない人間も、ここを拠点に周りの村を訪ねることができました。
 ここからバスが出るわけですが、まずバスの運転手の愛想がいいのです。若い人もおじさんも親切で、見るからに仕事を楽しんでいる様子が心地よく感じられます。カッスル・クームとの間では、乗ってくる皆と知り合いのようで、大きな声で笑いながら「いつもの所かい?」みたいなやり取りをしています。
 僕が降りた時にも、通り過ぎる際にわざわざクラクションを鳴らして、ウィンクをしてくれました。

 帰りの電車までの時間を持て余して、ついでに夕食を取っていこうかと思ったら適当なレストランがなく、結局パブに入ったのですが、ここの若い従業員がまたすごく気持ちいいのです。丁度込み合っていて、ものすごく忙しくしていたにもかかわらず、てきぱきとした対応の上、色々と気にかけて声をかけてくれるのです。
 ここで食べたフィッシュ&チップスやマッシュ・ポテトやソーセージといった典型的なパブ料理は、感じのよいサービスのせいか、とても美味しく感じられました。

 それにしても、思うのはロンドンの殆どの店のサービスの悪さです。買った商品を投げつけるように置いたり、お客にThank you のひとつもなかったり、明らかに向こうの落ち度なのにそれの訂正を面倒臭がったり、『カスタマー・サービス』と名の付く従業員にしてからが、こちらと目も合わせずにそういった態度なのですから呆れてしまいます。
 都会で生きていく神経がこうした態度を取らせるのだとしたら、のんびりした田舎で生きていくのもいいことかもしれません。タウン・ホール前で出逢った、民族衣装に身を包んだ結婚式の一団も素朴で良い顔してるでしょ?


こちらも“英国で最も美しい村”~ レイコック

2008-07-28 | 旅・イベント
 昨日の話の続きになります。何故僕がバスの時刻を気にしたかというと、もちろん1~2時間に1本くらいしかないバスを逃すと次が大変なこともあるのですが、せっかくここまで来たらもう一ヶ所くらいは訪ねてみたいと思っていたからです。
 チッペナムを軸にカッスル・クームと反対の南方面に5キロくらい行くと、レイコックLacockという小さな村があります。ここもコッツウォルズの村の例に洩れず、ハニーカラーのライムストーン造りの家や、白壁のハーフ・ティンバーの家が並ぶ可愛い村です。




 村を歩くと、中学生くらいの団体が何組かいて騒々しいくらいでしたが、多分その理由のひとつはレイコック修道院の見学のためでしょう。
 実はこの修道院の地下にある回廊で、映画“ハリー・ポッターと賢者の石”の撮影が行われたのです。実際その場を歩いていると、係員にその撮影の質問をしている生徒たちを何人も見ました。係員も慣れた様子でスラスラと話していいます。
 回廊やその周りの空気感は、確かに現実を飛び越してしまったような“魔法的”な雰囲気がありました。




 ここはその他にもたくさんの時代劇に登場しているらしく、“エマ”や“高慢と偏見”などの名前も載っていました。それもそのはずこの修道院が建てられたのが1232年のことで、村自体の建物も1800年以降に建てられたものがひとつもないという外観なのです。村全体がイギリスの自然保護団体ナショナル・トラストの管理下にあるので、勝手な増改築はできないのです。

 今、レイコックの説明を見てみたら“英国で最も美しい村”と書いています。あれっ?昨日書いたカッスル・クームのこともそう書いてあったぞ。
 きっとコッツウォルズの村はどこに行ってもこの称号を受けているんでしょうね。

英国で最も美しい村 ~ カッスル・クーム

2008-07-27 | 旅・イベント
 このところ不景気のニュースばかりが流れますが、イギリスはこの10年以上ずっと好景気の恩恵を受けてきました。そのせいかロンドンでは以前よりハードに働いている人が多くなって、ある意味日本人に似た会社人間も増えているような気もします。
 彼らが引退後の生活として夢みるのが田舎でののんびりした生活です。そしてその時の理想の場所とするのがコッツウォルズCotswoldsです。イギリス人の考える“田舎”のイメージを具現化しているのだと言います。

 ひとくちにコッツウォルズと言ってもその範囲は広く、大雑把に言うならば、東西をオックスフォードとチェルトナム、南北をバースとストラトフォード・アポン・エイヴォンという、それぞれ観光地としても有名な都市に囲まれた地域ということになります。
 もともとはヨーロッパ最大の羊毛生産地として栄えていたこの地方も、18世紀に起こった産業革命に取り残されて、まるでそのまま冷凍されてしまったかのように、昔の家並みが残ります。
 事実、鉄道網の拡充からもはずされてしまい、これらの地域を訪ねる方法は、車を使うか1日に何本かしかないバスに乗るかしかありません。それ故に美しい景観が壊されずに残っているのだとも言えます。

 さて、広い地域に幾つもの個性ある村が点在しますので、狙いを定めて行かないと、とても短い期間では周り切れません。おまけに僕のように車を運転しない場合は絶望的です。でも、よく見ると近くの都市を起点にしてバスを利用すれば一ヶ所か二ヶ所なら日帰りできそうな所もあります。そのひとつがカッスル・クームCastle Combeです。
 かくしてロンドンから電車で1時間10分くらいのチッペナムChippenhamまで行って、そこからバスを利用することにしました。

 古い英語で“谷”の意味だというこの村は、コッツウォルズ地方の中では最南端に位置していて、言いかえればロンドンに一番近いところということになります。しかしこの距離の差(電車とバスで高々1時間半)が一気に何世紀もの時間を飛び越してくれます。
 バスを降りるとまず空気感が違います。乾いたロンドンの空気に比べるとずっと湿り気がありそうな気がします。この時期の日本の人に“湿り気”なんて言うとうんざりすると思いますが、そういった嫌な湿度ではなく、しっとりと肌に良い(?)感じの落ち着いた感触です。これがきっと周囲の緑の環境を保っているのだと思います。
 昔からの家並みはしっかりと守られ、その庭も丹精に作られています。本当に時間の経ち方の単位が違って感じられます。

 最近はロンドンで日本人観光客の姿がめっきり減ったなと思っていたのですが、ここでは絶対数が少ないながら、その中に占める日本人の割合はすごく多く感じます。久々に近くで日本語が飛び交うのを経験しました。
 でも様子を見ていると、さっさと歩いて記念写真を撮って、さっさと帰ってしまう人が多く、この村の持つリズム感とどうにも違和感がありました。こんな場所で過ごす時くらい、色んなことを忘れてのんびりしてもいいんじゃないかな。

 なんて思う一方で、バスの時刻を気にしている僕でした(笑)




オックスフォード・サーカスの渋谷化計画

2008-07-26 | 日常
 オリンピックが迫っているにもかかわらず、ビザが厳しすぎて北京市内のホテルはガラガラだというニュースを聞きました。面倒な問題を避けたい中国政府としては、できれば外国人にはあまり開催期間中に中国に来てほしくないんだという話もあります。
 なるほど色んな考え方があるもんだと思いながら、さてその次の開催都市となるロンドンですが、それでなくてもいつもたくさんの観光客で溢れているのに、オリンピックとなったらその数や恐ろしいものになりそうな気がします。

 中でもたくさんのショッピング街や娯楽街を持つウェスト・エンド地区には、年間でのべ2億人もの人が訪れるということで、これらの混雑の解消ならびに魅力的な街づくりのためのプロジェクトが開始されていて、4,000万ポンド(約84億円)もの予算が組まれています。

 確かにこの地区はいつ行ってもお祭りのような賑わいで、特にリージェント・ストリートとオックスフォード・ストリートの交差するオックスフォード・サーカスは四つ角にいつも人が溢れていて身動きが取れません。しかも地下鉄の出口が限られているため、お目当ての場所に行くためには、道路を2回渡らなければならないことがよくあります。

 

 大分前の記事になるのですが、これを解消しようというプランを読みました。曰く“Oxfor Circus may get Tokyo look”。オックスフォード・サーカスに渋谷の“スクランブル交差点”の仕組みを取り入れて、人の流れを一気に解消しようというものなのです。
 もしこれが了承されれば、来年の夏から工事を開始して完成までに9ヶ月ということですから、再来年からの実施ということになります。この費用に上述の予算の中から4百万ポンド(約8憶4千万円)が割かれることになります。

 東京以上に様々な国からの来訪者が多いロンドンで、このスタイルの交差点が定着すると、文字通りごちゃまぜな状況になって、本当に“scramble crossing”という言葉も定着してしまいそうな気がします。

スピード社のショップ

2008-07-25 | スポーツ
 

 サッカーはオフで、ウィンブルドンも全英オープンゴルフも終わり、野球はない国なので、スポーツ・ニュースが地味になってきました。で、これもあまり盛り上がっていないので意識しませんでしたが、もう北京オリンピックまで2週間くらいの時期になっているのですね。
 今日日本からTVの制作をやっている知り合いが訪ねてきました。明日スピード社のインタビューが急に決まったのだそうです。

 スピード社はspeedではなくspeedoと綴るので、こちらでの発音を無理やりカタカナ表記すれば、むしろ“スピードウ”となります。もともとはオーストラリアで創業した会社らしいですが、今はノッティンガムに本拠地を置くイギリスの会社です。
 もう改めて言うまでもなく、世界中でこの会社の開発した“LZR RACER レーザー・レーサー”を来た泳者が新記録を続出して話題になりました。日本でもそれまで着用を巡って色々ともめた北島康介選手が、最終的にはオリンピックでの着用を決めました。

 身体をシュリンクさせてしまう水着が、素材に高速化を施すことを禁じている連盟の規約に違反しないのか、ライセンシー契約を反古にしてまで速さを取るのか...
 この問題に関してはおそらく日本でも色んな人の意見が交わされたことと思います。突き詰めればスポーツに対する“美学”にまで及んでしまうので、どこまでいっても“正解”はないのかもしれません。

 いずれにしろ、今回のオリンピックで大多数の選手がLZR RACERを着用することで(他の水着を着けた人が現れ、なおかつ優勝でもしない限り)スピード社が笑うことは間違いないわけです。
 全社員の数が200人くらいしかいないという比較的小さな会社がこれだけ世界の注目を浴びるわけですから、本当に技術力というのは凄い宝物です。

 そのSpeedoのロンドンのショップは、コベント・ガーデン駅のすぐ近く、ファッションや小物のお店が多いニール・ストリートにあります。ショー・ウィンドウと地下の売り場に1体ずつ、件のLZR RACERが誇らしげに飾られています。お店の人に訊くと、発売は9月頃を予定していて、価格も未定だが300ポンド(約64,000円)くらいかな、ということでした。
 LZR RACERのイメージが強いので、もっと競技用に特化したショップかと思いましたが、むしろ店内は明るくレジャー商品の品揃えが豊富な感じです。

 

 さて、北京オリンピックの後LZR RACERが売り出されたら、どんな感じになっているか確認にもう一度行ってみようかと思います。

地下鉄の匂い

2008-07-24 | 日常
 今年の7月の気候は本当におかしくて......いや、それを言うなら2月が暖かかったり、4月に雪が降ったり、ずっと変な気候だったのですが、夏というのにあまり気温が上がらずに、夕方や夜は肌寒いくらいです。日本から来るメールが大抵は暑さの不満を訴えることから始まっているのに、こちらはそれに比べると申し訳ない思いでした。

 今週はwarm(hotじゃないのです)との天気予報で、確かに先週までに比べたら、やっと夏が来たかという感じの光線です。それでも今日の最高気温で25度。日本と比べたら本当に過ごしやすい気候だと思います。
 よく言われることですが。緯度で見ると北海道と同じくらいの位置にあるわけですから、まぁそれも不思議な話ではないわけです。前回の赴任時に、僕が不動産屋に質問したのが“エアコンはどこにあるの?”でした。怪訝な顔をされた理由が今なら分かりますが。

 ただ、殆どの施設がその気候の前提ですから、既に温暖化が進んだ今では困るところもあるわけです。そのひとつが地下鉄。温度を下げる方法は、小さな換気扇と車両と車両の間にある窓を開けること。当然それだけではラッシュ時の息苦しさを解消するわけにはいかず、今年と違って暑かった昨年は、あまりの暑さに倒れる人も続出したようです。
 ホームも当然エアコンの設備はなく、地下鉄の通路も大きな扇風機でもって対処されています。



 僕は冷房が大の苦手なので、逆に暑いこと自体はある程度我慢できます。でも、地下鉄でもしかしたら耐えられない人がいるのは、実は“匂い”かもしれません。何しろ色んな人種の人達がひとつの車両に乗り合わせていますので、満員の時の匂いは色んな体臭が混在したものになります。
 でも、まぁこれも国際都市の宿命として楽しむことにしています。風景も音もその時々の思い出として記憶に残りますが、意外と生理的に覚えているのは匂いの方かもしれません。旅行のことを思い出すと、その場所の匂いからまず浮かんでくるということがありませんか?

リア王 ~ グローブ座での立ち見

2008-07-23 | 映画・演劇
 もう10年ほど前になりますが、『恋に落ちたシェイクスピア』という映画がアカデミー賞のたくさんの部門で賞を取り、その中には作品賞やグウィネス・パルトローの主演女優賞も含まれていました。
 女性が舞台に立てなかった時代ゆえグウィネスが男装したり、ジョセフ・ファインズ演じるシェイクスピアがロミオ役を演じたり、けっこうハチャメチャな内容ではありましたが、衣装も素晴らしく中世の気品を漂わせた好感の持てるコメディでした。

 その映画で印象に残っているのが、劇中劇が演じられるその当時の劇場です。円筒形の中庭部分には屋根がなく、庶民クラスと思われる人たちが立ち見しています。そこにせり出した舞台との一体感が何とも言えず良い味を出していました。対照的に桟敷の方にはちょっと金持ちと思われる人達の姿が見られます。

 この映画のできる1年前の1997年、ロンドンのバンクサイド(テムズ川の南側)に、17世紀に取り壊されたままだった劇場が再現されました。その名もシェイクスピア・グローブ座Shakespeare’s Globe Theatreです。
 その歴史にちなんでシェイクスピアの名作が上演されるのですが、何しろ屋根なしの屋外劇場なので、寒い冬は無理です。ということで、夏から秋にかけてが演劇シーズンということになります。



 今年の第一弾“リア王 King Lear”を観てきました。意外と上演回数も少なく、チケットはあっと言う間に売り切れで、結局中庭で立ち見となりました。まぁ、この場所で一度観てみたかったので、それはそれで構わなかったのですが。
 7時半ぎりぎりに中庭に入ると、劇の始まる前から音楽を演奏する人たちが舞台の上と観客の中に混ざってムードを盛り上げていました。あぁ、昔の人達はこんな角度で舞台を観ていたんだなとちょっと感慨深いものがあります。



 それにしてもコンサートの立ち見とはえらい違いで、ものの1時間もしないうちにすごく疲れてきました。いや、それ自体は構わなかったのですが、悔しいことにセリフが半分しか聞き取れない。悲劇とはいえ、セリフの端々にユーモアを織り交ぜるのですが、イギリス人と一緒のタイミングで笑えずに、こちらは苦笑です。何しろthou, thy, theeなんて昔の言葉も使われるので無理もないのですが、それにしても悔しい。

 ちなみに、映画では桟敷席に女王がこっそり臨席していたなんてハプニングがあったのですが、見まわしたところ、さすがにそんな人達はいなかったみたいです。

ブロンプトン墓地のOPEN DAY

2008-07-22 | 日常
 19世紀前半のロンドンでは、人口が100万人から一気に2倍以上に膨れ上がりました。裏返せば当然死者の数も増えるわけで、それまでのように小さな教会の中庭に埋めるのでは賄い切れなくなり、新たに大きな墓地が7ヶ所に作られました。
 Magnificent Sevenと呼ばれたこれらの墓地の中のひとつが、うちの近くにあるブロンプトン墓地Brompton Cemeteryです。すぐ隣にチェルシーFCのホーム・グラウンドがあるこの墓地は、まるで公園のように整備されていて、散歩やジョギングを楽しむ人達がたくさんいます。

 

 日曜日の昨日、OPEN DAYと銘打って年に一度のイベントがありました。といってももちろん墓地のやることですから派手なものではなく、ご近所の人達が持ち寄った商品のバザールや、珍しい歴史的なコレクションの公開、子供たち向けの工作などが墓地内で行われるほのぼのとした催しです。
 その中で園内を回る2通りのツアーが設けられていました。お墓の歴史や由緒ある墓石などを案内するヒストリー・ツアーと、地下に眠る墓所を案内するカタコーム・ツアーです。1年に1回なので珍しい機会だと思い、後者に参加しました。

 

 ユーモア一杯の案内人の懐中電灯の光を先頭に、年に1回だけ開かれる地下の墓所に入っていきました。かつてパリで観たカタコームは、人骨が壁一杯に剥き出しになっていて少し無気味でしたが、こちらは両側が3段ずつに仕切られたスペースに棺がきちんと並べられた、案内人曰く“整理されたファイルのようなもの”でした。
 どうしてこの地下の墓所ができたかというと、やはり地代に関係していました。当時でも地上の土地代は高くて、誰もが簡単に買えるような値段ではなかったみたいです。

 

 先月この墓地のすぐ横のアパートが売りにでていましたが、古くてあまり広いとも思えないのに、日本円で3億円を超えていました。昔の人が今のバブルな土地の値段を知ると驚くでしょうね。(もっともこのところのニュースは、不景気の煽りで土地の急激な値下がりのことばかりですが)