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ロンドンから徒然に

サム・テイラーウッドの“嵐が丘”

2008-11-02 | アート
 時々考えることなのですが、こちらで日本語を学んだイギリス人がいたとします。その人が最初に訪れた日本の地が大阪(いや、まぁどこでもいいのですが、分かりやすく)だとして、一体あの大阪弁を理解することができるのでしょうか?

 同じように考えると、こちらで地方の方言を聞き取るのはなかなか難しいものがあります。夏にリヴァプールに行った時も、道端で話しかけてきてくれたおじいさんとの会話に凄く苦労しました。

 そういう意味ではこの言葉も普通の人には分かりにくい言葉だと思いますが、英文学科出身の人かよほどの文学好きならば分かるでしょう。
 wuther ......北イングランドの方言で、“風がうなりをあげて吹き荒れる”といった意味なのですが、『Wuthering Heights』といのが、有名なエミリー・ブロンテの小説『嵐が丘』の原題です。

 僕は残念ながら文学部の出身ではありませんが、『嵐が丘』はけっこう好きで、一度この小説の舞台になった地を訪れたことがあります。(ちなみにこの小説のテーマを取り入れた水村美苗さんの『本格小説』も、日本の小説の中では僕のベストテンに入ります)

 その『嵐が丘』をテーマにした『Ghosts』という写真を見てきました。サム・テイラーウッドSam Talor-Woodというイギリスの女性写真家の作品なのですが、ヨークシャーの荒野で撮られた作品たちは、あの荒涼とした風の強い丘を思い出させながらも、どこか幻想的で、不思議な雰囲気を醸し出していました。



 実はこれ、今日見たメイソンズ・ヤードMason’s Yardのホワイト・キューブWhite Cubeと、コベント・ガーデンの会場の2ヶ所で行われている彼女の展覧会“Yes I No”の一部なのです。
 サムは写真の他にも映像という表現手段も用いる作家で、ホワイト・キューブの地下ではこれまた面白い試みが行われています。

 BBCコンサート・オーケストラのメンバーが勢揃いして、マルチ・スクリーンのひとつひとつに、各パートが分かれて映し出されています。
 これだけなら普通の音楽映像かもしれませんが、なんと彼らの手には何の楽器もありません。手の動きや口の動きはそれぞれの楽器を奏でるのですが、素手ですから最初はおかしくて笑いそうになりました。
 しかし、きちんと映像の位置に分離した音を聴いているうちについ引き込まれてしまい、普段のコンサートを見ている時よりもむしろ肉体の動きに敏感になってしまいました。

 彼女の作品にはちょっと物議を醸しそうな作品もあって好き嫌いは別れるかも知れませんが、『Crying Men』(男優たちを“泣かせて”写真に収めている)みたいに、多分女性でないと撮れないようなものもあります。
 色んな分野に進出している女性たちの良いお手本的存在になるんじゃないでしょうか。ちなみに最近作品の値段も高騰しているようです。