先だって、ヤフオクで3万円ほどの詩箋を落札して予算オーバーし自粛しておりましたが、ほとぼりが冷めたので、またちょっとづつ安物買いを始めております。目安が5千円、それで週に2.3件を落札するというのが健全な娯楽であります。パチンコで半日で5万円も「溶かす」などと比べたら100倍リーズナブルであります。
ヤフオクでは、現在は篆刻印にほぼ限定しております。ワタシは遅まきながら篆刻家になりたい、と心底思っております。あちこち依頼があって、日がな一日印材に向かい無心に刻みたい、憧れますね。
毎日1円から数十万円ほどの価格で出品されるのが篆刻印です。そうしたものをつぶさにチェックし、これぞというものに入札します。ワタシに限らず安いもの、大量なものに紛れたお宝が発掘できると、それはシアワセな気持ちになれるものです。
先日2件篆刻印を落札いたしました。「 高橋翠溪作 篆刻印1個」
これであります。
4100円。高橋翠溪さんのことはネットでも出てこないので、かなり古い時代の、おそらくプロの篆刻家さんだろうと思います。非常に精緻に細かく刻まれた文字は「澄川」です。雅号か二文字熟語かはわかりませんが、通常文字の部分を浮き彫りにする「陽刻(または朱文)」という手間のかかる彫りに加え、その浮き出た文字の内側ををさらに「陰刻(白文)」にするという手の込んだデザインでした。寿山石と思われる赤みが強い模様のある印材で、2層に分かれた上部の灰白色の部分だけに斜めに2頭の獅子が丁寧に彫られております。側款は「翠溪刻」のみ、明治頃のかなり古い時代のもののように古色を感じる銘品でありました。
これは、さほど値打ちものとはいえないかもしれませんが、石の様子を愉しみ、紐(持ち手の彫り)を眺め、側款と印面の彫の技術と風情を堪能出来る逸品で非常に満足がいくものでした。
もう一つは「まとめ売り! 篆刻 印材 印章」60個余りで3,300円しかも送料無料!
これら30本ほどが、未使用の印材で、白筋が走った白石(凍石)や凝った紐、複雑で多彩な細かな模様の石材など、市販される普及品と一線を画すような印材が多数ありました。石の価値を市販品として安く見積もっても新品で軽く2万円以上いたします。
同時に約30本の刻印済みの印が入っておりました。試しに押印してみると、どれも見事な印影であります。ほとんどの印には側款が施されており、一目で篆刻家の手によるものと見受けられました。
(縦横上下を押し間違いしております。恥ずかしい)
なかでも目を引いたのが、黄土色の中に濃い朱色が走る小さめの角印です。印箱にも入っておらず他の使用済み印と一緒に紛れておりましたが、全部並べてみると同じ印材を使った高さの揃った三顆印(引首・姓名・雅号の3つのセット)でした。
左から鈴木ナントカさんの姓名印、引首印「日新」、雅号印、と思われます。その側款が「子遠刻」となっておりました。これは篆刻初心者のワタシでも知っているチョー有名な「酒井子遠」先生ではないでしょうか!!!。この先生は、自由奔放な作風で天才と言われた篆刻家で、今でもこの人の作の印を愛用する前衛書道家さんや画家さんが数多いるそうです。来歴は割愛しますが、とにかく人気が高く、ヤフオクでたまに見かけても数万円で落札され、前から是非見てみたいと思っていたワタシの手には入りませんでした。今もし、先生に印作成を依頼出来たら一個5万円ではきかないでしょうね。
60個3300円(しつこい笑)の中に紛れ込んでいたのです。もし真正の「子遠刻」篆刻印なら、最低でも3本数万円で取引されるものです。ワタシはこれは本物だと直感しました。まとめて落札した他の印も、そういう目で改めて見ると、篆刻家さん作の価値の高い印と思え、とても印面を削って再利用するわけにはいきません。以前から収集した多くの側款入りの古印と一緒にまとめて、篆刻作者と使用者、刻印された文字などをもう一度ちゃんと確認し、「専門家の作品」として蒐集品に整理しようと思います。
将来処分した時にどれほどの価値となるかは大した問題ではありません。今、掌中にある名作・銘品の印の感触や色姿を愉しみ、意趣・技法・デザインを学ぶだけでも、落札額の何十倍の価値があります。あぁラッキー、ありがたやヤフオク。