ここのところ忙しさにかまけて書道の稽古がおざなりになっておりました。
ヤフオクで落とした古筆3本が届きました。書道筆は一時夢中で落札し本数が限度を超えたので、自重しておりました。また、昨年暮れに手持ちの高級筆(相当古いもの)の最上級の羊毛と硬質毛を使った兼毫筆のオーダー筆を作って貰ったので、高級な中古筆の落札を封印しておりました。
ところが、ひょっとみつけたのが高名な書道家先生の所蔵筆が数件出品されていたものだったのです。それが熊野筆の老舗一休園作の超高級筆の一群で、3本ずつ4件がオークションにかけられていました。その中にあったのが「寿昌」と「墨吐龍」で、最高級の羊毛「細嫩光鋒(さいどんこうごう) 」を使って一本数万円から数十万円もする名筆なのです。 特に「寿昌」はワタシも持っていないのでいつか入手したい最上級の銘筆なのです。
それぞれ、3,4万円で入札しましたが、愛好家も多く価値をご存じなので、残念ながら落札出来ませんでした。5万円ほど出せばいけたのですが、夜10時過ぎまで高値入札を競うのは精神的にも懐的にもきついので、断念いたしました。ところが一件だけ、落札できたものがありました。「喜歳記念筆」3本で25千円、他の人がワタシと同額入札までであきらめたのですね。ワタシの経験では、書道具・篆刻印などは、中に1級品が入っていれば、ほかの品物群も相当な価値があるものである確率が高いのです。筆は多分ありきたりな安物では無かろうと考えて入札したのです。
届いた筆は、ワタシが考えていたものとちょっと違いました。喜寿の記念筆だから、周囲の人や書道店から贈呈されたものでほとんど使用していなかったのではなかろうかと想像していました。昭和乙丑、つまりS60年に喜寿となった書家さんの中古自用筆であります。
よく調べてみるとこれらの三本はいわゆるオーダーで、書家さんが穂先の形状や毛の種類を指示した特製品と見えました。普通の筆より筆管が細く長いこと、うち二本は穂先の先端に近い部分が通常の平筆・細嫩光鋒と比べて中心部に少し茶色の毛が配され、二段にわずかにとがった形状で作られていたのです。
この二本は、高級羊毛筆ではなく、兼毫筆 でありました。筆に刻まれた筆の説明書きは「宿浄兼毫絶品」「宿浄兼白絶品」とあり、数十年寝かせた高級羊毛に長鼬や天尾ムジナあたりの毛をブレンドしたという意味です。してみると、今年一月ワタシが豊橋筆の老舗「筆庵」に特注したものと、もしかすると同じような発想・コンセプトであったと思えるのです。「二十九号」は現在では、筆の長さ太さを表す数字で1号から順番に大きくなり、9号だと「書初」など大書用の太筆になります。しかし、かなり古い時代はある種の筆の規格分類のために標記した時代があったのです。29号はおそらく、製造元の一休園が、特注筆の中で同品質や材質を仕訳した筆の規格番号(あるいはグレード)だったろうと想像いたします。
実は、ワタシはこんな筆を昨年暮れに発注したのです。細嫩光鋒クラスの羊毛長峰筆が持つ、墨持ちの良さや味わいのある字と、筆先がまとまり切っ先鋭く起筆が出来る扱いやすい鼬などの硬毛筆の良さを併せ持つ兼毫筆が欲しいと注文したのです。ワタシのような中級者と、同じような筆を大家の書家が作らせて実際に使っていたのが驚きでありました。
筆の根元の固さ(どうしても使い込むと墨が根元に固まるのです)からみてもかなり使い込んでいるように感じました。おそらく普段使い、練習用としていたのではないかと。早速書いてみました。
まぁ。素人の試し書きなので書の出来はともかく、筆先がきいて強い力で紙に書けるという印象でありました。
下のは、やはり筆庵で以前買った、隷書・篆書向きの中筆で書いたものです。
やはり、筆の種類・毛質・形状によって書き味や字の線が明らかに異なるのです。そして、書体によって筆を使い分けるのが上手に書く技の一つでもあります。最高級品の「寿昌」は残念ながら入手できませんでした。しかしそんな高級筆があってももったいなくて使えません。
もう、筆に不満不足はありません。雅号も「嘉苑」といたしました。プロが愛用したと思しき特注筆を練習に使えるのでありますから、これで上達しなければワタシが未熟なのです。